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アズマイチゲ2007

―― 早春のキンポウゲの群落 ――

 

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 早春に山林に咲くキンポウゲのアズマイチゲは、山林で雪が解けた後、真っ先に花をつける草花で、春の妖精の一つです。

 

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 葉が茎を中心に対象に広がっているので、よだれかけをつけた子供たちが並んでいるような印象を受けます。

 

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一本咲いていてもきれいですが、アズマイチゲの美しさが発揮されるのは群生した時でしょう。

 

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 群落の中をよく見ると、花をつけ緑の葉をした個体の周囲に、緑と紫が混ざったような葉がたくさんあることにお気づきでしょうか。

 

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 下の写真を見ると明瞭にわかります。花をつけている個体は背が高く、立ち上がっており、葉も緑だが、その足下に紫色の背の低い葉が地面にはうようにたくさん生えています。数の上では花をつけている個体よりも、つけていないほうが圧倒的に多いのがわかります。

 

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 ネットで調べてみると、地面近くの葉を茎が短いことから根生葉といい、花をつけたほうの葉を総苞()というようです。二種類あるのはわかりましたが、では、なんのために二種類の葉をつけているのか、よくわかりません。

そこで私の推測です。開花用の個体と、葉だけの個体を明瞭に分ける戦略のよう見えます。

 

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理由1.根に栄養を蓄える

アズマイチゲは地上部に比べて根が太く、栄養を蓄えることができます。年単位で根に栄養を蓄え、その上で花を咲かせるのでしょう。つまり花を開くための総苞()と、栄養を蓄えるための根生葉の違いと考えられます。

 

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 両者が仕事分担で明瞭に区別され、同時並行的に出ているのか、それとも何年か根生葉だけを出して栄養を貯めた後、総苞()が出て開花するのか、はっきりしません。

この程度のことは掘って調べればわかることですが、どうせ誰かすでに調べているだろうし、専門家でもない私は、そんなことを知るためにアズマイチゲを何本も犠牲にするつもりはありません()

 

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理由2.他の草花の成長を阻害する

 根生葉は数が多く、互いに重なり合うほどに生えています。根に栄養を蓄えるには一枚でも多くの葉を出したほうがいいのはわかるが、葉が重なるほどあるのは光合成が目的にしては多すぎます。

他の草が生えてくるのを邪魔するつもりならこのように隙間なく葉を生い茂らせるのは有効な手段です。

 

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また、根生葉に紫色があるのも説明がつきます。他の草花がまだ葉をつける前に葉を広げるために、早春に葉をつけたため、気温が低い時など葉が赤茶けてしまったのでしょう。花を咲かせるための総苞()は十分に暖かくなってから出てくるから、葉は緑色のままです。

 根生葉が元々紫ではないから、下写真左のように、暖かくなってからでると、根生葉もまた緑のままです。

 

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 下の写真を見ると、まるで一列に並んでいるかのように見えます。これはアズマイチゲか種と同時に根で増える植物だからでしょう。

 

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 アズマイチゲは春の終わりには葉がほぼ枯れてしまいます。その頃には周囲に背の高い草が尾茂りますから、日当たりが悪くなり、光合成ができなくなります。下の写真はアズマイチゲの咲いていた場所の5月末の様子です。すっかり草で覆われ、アズマイチゲの枯葉を捜しましたが、見つかりませんでした。

 

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周囲の草が邪魔で、種は遠くには飛びません。種が近くに落ちることと根で増えることが群生し列をなしているかのように見える理由でしょう。

 

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 アズマイチゲの作戦は、早春の他の草が生える前にまず根生葉を出して場所を確保し、また根に栄養を蓄え、他の花が咲く前に花をつけて虫を誘い、背丈の大きい他の草花が成長する頃には種をつけ仕事を終えてしまうようです。

 

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 アズマイチゲと花の感じがそっくりなのが、写真下右のキクザキイチゲ(キクザキイチリンソウ)です。両者は外見だけでなく、咲く時期、場所もかなり似ています。

写真下左のようにアズマイチゲの花は白いので、写真下右のような薄紫のキクザキイチゲとは区別がつきます。

 

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 しかし、白いキクザキイチゲ(写真下左)とアズマイチゲは花だけでは区別がつきません。両者の違いは花ではなく、葉でわかります。キクザキイチゲのほうは名前どおり、菊の花のようにギサギサの切り込みがあるのに、アズマイチゲにはありません。

 

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 両者の咲く時期は重なりますが、どちらかというと、アズマイチゲが先に咲き、ほんの少し遅れてキクザキイチゲが咲きます。

 

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咲いている場所は、キクザキイチゲのほうがより日陰を好むようです。写真下左は畑の土手に出ているアズマイチゲです。北下がりの斜面とはいえ、周囲に樹木のない所でも生えています。キクザキイチゲはまずこういう場所には生えません。

 

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キクザキイチゲが白から紫までの微妙な花の色合いがあるに対して、アズマイチゲは白一色です。

 

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キクザキイチゲが日陰を好むかなり神経質な草花なのに対して、アズマイチゲはそれよりは丈夫で、山林の土手などに生き残るたくましさもあります。キクザキイチゲは群落だけでなく、時としてポツンと一人で咲いているのに対して、アズマイチゲが一人で咲いているのは珍しく、ほぼ群落です。

 

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アズマイチゲのほうが丈夫といっても比較の問題で、山野草ですから、普通の人家の庭で育てるには無理です。広大な敷地を持っている人ならともかく、アズマイチゲもキクザキイチゲも狭い庭で育てようという試みはやめたほうがいいでしょう。

 

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 新緑が濃くなり、アズマイチゲ、キクザキイチゲ、カタクリ、エンゴサクが終わってしまうと、春の妖精たちが去ってしまったようで、一抹の寂しさを感じます。

 

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