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                                      五月の草花 2013                                    

 

 

いずれがアヤメかカキツバタ

春も中盤の北関東の野山に出かけてみましょう。田んぼの土手にハナショウブが、環境が合っているのか、周囲の雑草に負けずに広がっています。

 

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 ハナショウブなどのアヤメの仲間は紫が多いのに、ここのは青みが強く出ていて透明感がある。

 

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 「いずれがアヤメかカキツバタ」という美人のたとえどおり、アヤメ、カキツバタ、ハナショウブは違うと言われても、どの美人も区別がつきにくい。花弁での区別は次のようになっています。

 

種別

花の色

花の特徴

適地

開花期

アヤメ

紫、稀に白

主脈不明瞭

網目模様、外側の花びらに黄色い模様がある

乾いた所に育つ

5月上旬から中旬

カキツバタ

青紫のほか紫、白、紋など

主脈細小

網目なし

水中や湿った所に育つ

5月中旬から下旬

ハナショウブ

紅紫、紫、絞、覆輪など

主脈太い

網目なし、花の色はいろいろある

湿ったところに育つ

6月上旬から下旬

(ウィキペディアより転載)

 

 こんなふうに説明されてもやはりわからない。ネットで調べると、外側に広がった花弁と葉の葉脈で区別するようです。外側の花弁の根元がアヤメは編み目模様(写真下左)、カキツバタは真ん中に白い線(写真下中)、ハナショウブは黄色い線があります(写真下右)。またハナショウブの葉には縦に明瞭な主脈があるので他と区別がつきます。

 

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 写真上左 アヤメ (http://de.wikipedia.org/wiki/Ostsibirische_Schwertlilie)

写真上中 カキツバタ(http://en.wikipedia.org/wiki/Iris_laevigata)

写真上右 ハナショウブ(http://az.wikipedia.org/wiki/Iris_ensata)

 

 写真下は乾いた畑のそばに植えられ、花弁の根元は黄色く、網目模様がありませんから、ハナショウブです。

 

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 写真下の田んぼの土手に生えているのは、花弁の根本に黄色の混ざった網目模様があるのでアヤメでしょう。ただ、アヤメにしては葉の幅がちょっと広い。

 

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 こんなふうに花弁の根元に網目模様があるのはアヤメなのだと私は長年思い込んでいました。

 写真下は花弁に黄色の網目模様が入っていますから、アヤメに見えます。ところが、この公園ではこれをカキツバタとして看板まで出ています。

 

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生えているのは公園の中の湿地帯で、たしかにカキツバタの好きそうな場所です。しかし、写真下右などを見てもわかるように、花弁の根元は網目模様になっていて、アヤメに見えます。どうも良くわかりません。

 

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 写真下は乾いた畑のそばに植えてありますから、いくらなんでもこれはアヤメでしょう。なかなかインパクトの強い色です。

 

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 写真下も別な畑に植えられたアヤメで、良く育っています。写真上や下のアヤメがすっきりしていてとても美しい。昔の人が美人にたとえたのもわかります。

 

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アヤメ祭などで湿地に植えられているのは実はアヤメではなく、野生種のノハナショウブを品種改良したもののようです。ハナショウブもアヤメ科ですから、アヤメ祭でも間違いではないが、一般の人はあれをアヤメだと誤解してしまいます。

 

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 写真下は、間違いようのないキショウブです。明治以降に輸入されたもので、環境省からは「要注意外来生物」の指定を受けています。キショウブは単独で植えたほうがきれいです。紫のハナショウブとは色が合わない。

 

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 写真下は赤茶色のハナショウブのようです。遠くから見た時、何の花なのかわからなかったので、畑に入って写真を撮っていると、侵入者に気がついた畑の持ち主のオバサンが来ました。休耕田で草だらけにもできず、除草剤をまいたが、殺風景なのでアヤメとハナショウブを何種類か植えたそうです。

 

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ジャーマン・アイリス

 写真下は間違いようのないジャーマン・アイリス(ドイツアヤメ)です。紫のアヤメが楚々とした日本女性なら、こちらは白人系の女性というイメージで、花は大柄で派手で色もいろいろあります。花壇や畑などにも良く植えられ、名前どおりに、ドイツやフランスで品種改良されたものです。

 

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前に住んでいた家の隣の小さな公園にもジャーマン・アイリスの葉がたくさんありました。こんなにたくさん葉があるのだから、花を咲かせたらさぞや見事だろうと期待していたのですが、花はほとんど咲かない。最初、この植物は葉だけで増える植物なのだろうかと疑ったほどです。

 

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他の人に話をすると、陽が当たらないからではないかとのことでした。そう言われれば、樹木の下に生えていて、陽当たりはあまり良くない。公園と地続きの人が引越の時、その家の敷地にあったジャーマン・アイリスの根をくれたので、試しに陽当たりの良い場所に植えたら、見事に花を咲かせました。

 

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集落の中を散策

 集落の中を少し歩いてみましょう。写真下のように、個人の住宅なのに、このまま時代劇の武家屋敷として使えそうな立派な作りが多い。

 

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 集落の道路に生えたクサノオウです。日陰でも良く育っている。ケシの仲間で、毒性があり、昔は皮膚病などの薬にも用いられてきました。

 

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ハハコグサは畑や空き地などでも良く広がっています(写真下)。ありふれた雑草だが、一面に生えるとなかなかきれいです。ただの黄色い花がなんで母子草なのか、ネットで名前の由来を調べると、外見から綿毛説と乳児の舌説、言葉の訛りでは「呆けた草」説、「葉っこ草」説などがあり、定説はないそうです。いずれにしろ、ヨモギの代わりに使われていたなど、日本人には昔から身近な草花でした。

 

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藤色のフジ

 林に入ってみましょう。まず目につくのがフジです。まるでその樹木が花を咲かせているようだが、フジはからみついているだけです。しがみつかれている樹木にしてみれば、大迷惑な話で、時には枯れてしまうこともあります。

 

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 花一つ一つは大したことがないのに、花がまとまることでこのまま髪飾りに使えそうです。『源氏物語』には藤壺という名前の女性が三人登場するというのだから、日本では昔から親しまれた花なのでしょう。

 

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 フジが高い木の上で花を咲かせています。他人を踏み台にして陽の良く当たる一番高い特等席を獲得するのだから、うまい作戦で、植物的には成功しています。ただし、他の樹木がないとまったくダメというのではありません。私の父が大きな植木鉢に植えていたフジは大人の腕ほどもある幹で一人で立っていました。

 

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 花を良く見ると、花全体が薄紫のものから、花そのものは白く、突き出た花弁の一部だけが紫なのがあります。

 

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 遠くから見ると、紫のほうがきれいに見えますが、花そのものを拡大すると、むしろ、白いほうがコントラストがはっきりしていて、これもきれいです。

 

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林の中

 農業用に作られた溜め池があちらこちらにあります。

 

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田んぼには水が引かれ、田植えも間近で、周囲の谷間に鳥の声が響いています。

 

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溜め池の近くの田んぼの休耕田らしい所にムラサキサギゴケがたくさん生えています。コケという名前はついているが、もちろんコケではなく、シソの仲間です。

 

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 こちらのため池は大きく、ボートも浮いており、釣り客もいるようです。

 

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 写真下は、春の野山の定番ともいえるジュウニキランソウ(上段)とジュニヒトエ(下段)です。ジュウニキランソウはジュウニヒトエとキランソウの雑種です。

 

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 林の中で白い花が満開だが、名前がわかりません。

 

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キンランとギンラン

 林の中にエビネを見つけました。周囲を探しましたが、たった一株です。写真下は通称ヤブエビネと呼ばれ、愛好家が好むエビネに比べると地味です。私はこちらのほうが好きです。乱獲などで激減して、この林でも初めて見ました。

 

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 同じランの仲間のキンランは、エビネランほどには珍しくありません(写真下)

 他の植物が生えないような薄暗い林の中に生えています。カメラの性能が良くなっているので、今は簡単に写りますが、フィルムカメラ時代は苦労しました。

 

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 写真下など見てもわかるように、周囲には他の草があまりありません。これは草を刈った後ではなく、薄暗いために、草が生えないのです。わざと選んでいるのではないかと思われるほど、薄暗い所に生えます。

 

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 薄暗い所が好きなのだと長い間私は思い込んでいたので、写真下を見た時には驚きました。カンカン照りの道路脇に生えています。この道路は作られて少なくとも数十年たっていますから、最近の道路工事で取り残されたのではありません。

 

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 こうして見ると、キンランはけっこうタフな植物のように見えます。ところが、これがまったく逆で激減しており、1997年に環境省から絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。土の中の菌と共生しているようで、植え替えができません。つまり人工的に増やすことが難しい。皆さんも見つけても自分の庭に植えようなどとしないことです。

 私の住居の近くの歩道にも突然一本だけキンランが咲いたことがあります。みんなで楽しめばいいのに、数日後に誰かが盗っていきました。鉢植えなど絶対に無理ですから、盗った人は無知で愚かです。

 

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 私は長い間、このランは花が半開きの状態が「正しい咲き方」なんだと思いこんでいました。半開きと言っても、ほとんど開いていないような状態の花ばかり見かけるからです。ウィキペディアでも、「花は全開せず、半開き状態のままである」とあります。

 

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 ところが、写真下を見てください。開いています。これらを半開きとは言いません。 全開している花は数の上ではそれほど多くはありません。

 

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 良く見ると、花の構造に二種類あります。写真下左は花弁の内側にもう一つ花弁があり、赤いオシベがあり、大多数はこれです。写真下右は少数派で、見てもわかるように、内側の花弁が小さく、ほんどないだけでなく、オシベが赤くない。

 

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毎年キンランを撮影している自生地の林に浄化設備が設置されるという話を聞きました。図面を見せてもらうと、この林の中でも密にキンランが生えているところです。土地を管理している人には絶滅危惧種であることを伝えました。

 

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写真下の、キンランとは名前の対をなすギンランは環境省からの絶滅危惧種には指定されておらず、都道府県レベルでの指定です。しかし、私の印象では、ギンランのほうが少ない。目立たないこともあるでしょうが、キンラン10本にギンランは1本くらいの割合です。

 ギンランは花が白く小さいので、ランという派手さはなく、キンランよりももっと目立ちません。ここの林ではキンランよりも数も少ない。こちらも花は半開状態が満開です。

 

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 たいていのギンランは写真上のように背丈も小さく、写真下のような大きな個体は珍しい。

 

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 林の中で静かに咲いているギンランに私はしばらく見ほれていました。

 

 

 

 

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