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ヤマユリ

―― 着飾った田舎娘 ――

 

 

 ヤマユリは東北地方にも生えているので、子供の頃から親しみのあるユリでした。咲き始める時期が夏休みと同じで、まるでヤマユリが夏休みを連れて来てくれるようで、私には好印象がありました。

 

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 ヤマユリはけっして楚々としておらず、花弁を思いっきり広げ、脳味噌を直撃するような甘く濃厚な匂いを放つ姿は、まるで田舎娘が、持っているだけの晴れ着を着て、化粧をして、香水を振りかけて出てきたような印象です。あでやかだが、どこか垢抜けしていない()

 

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元勤務先のヤマユリ

 茨城県はヤマユリが多く自生しています。私のかつての勤務先は近隣との合意で、自然林を残すことが条件となっていたようで、そこにヤマユリが生えていました。しかし、花が咲くとヤマユリを盗ってしまう者や、球根を掘る不心得者がいました。ヤマユリは球根が湿気を必要としますから、一般の庭付き一戸建ての猫の額ほどの庭では育ちません。

 

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 勤務先の林からしだいにヤマユリが減って行くのを見て、何とかできないかと、私はいろいろ試してみました。最初は群生しているところに縄を張り巡らしたりしましたが、自然のユリなのでまとまって咲いてくれるわけではない。結局、写真下のように竹竿を立てて、ユリが保護されていることを示すと、花や球根の盗掘は大幅に減りました。

 

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 残念ながら、勤務先はヤマユリを積極的に保護しようという意図がなく、私以外は誰も保護しようとはしませんでした。勤務先のオエライさんは「持続可能な社会の実現のために・・」と主張していたが、その一つがこのヤマユリの保護だとはわからなかったようです。

 

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 ここに写っているヤマユリを見てもわかりように、ヤマユリは花が咲くと、その多くが花の重みで倒れたようになってしまいます。虫を集めるために花を大きくしたが、重くなりすぎて、花が下がってしまい、遠くからは目立たなくなってしまい、虫を集めるのには逆効果です。

 

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 ヤマユリが花の重さで曲がってしまう理由の一つは栄養不足のようです。人家などで肥料を与えて育てられたヤマユリはたくさん花を付けて、茎も太くなるので、しなることが少ない。自然の森の中は栄養がそれほどないから、花を大きくすることに集中し、茎の太さは犠牲にしたのでしょう。

 

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 ヤマユリは古くなると花をたくさんつけるようになります。一つだけでも豪華なのに、我も我もと咲きだすと、写真下のようにすごい状態になります。

 

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神社のヤマユリ

 茨城県はヤマユリがたくさんあり、これを売り物にしている自治体もあります。つくば市内でも周囲のちょっとした山林の中に生えていることがあります。ただ、これが自然そのままなのか、人手が加わったのか、はっきりしません。

 

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 集落にある神社の境内でヤマユリを見つけました(写真下)。春に訪れた時、杉木立の中にたくさんのヤマユリが生えているのを見て、これだけのヤマユリの花が咲いたらすごいだろうと期待していました。

 

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 七月の開花時期に合わせて再度行って見ると、意外に少ない。ちょっとガッカリ()。春先にはたくさん生えていても、花を付けるのは数が限られています。また、今年花を付けたからと言って、来年花をつけてくれるという保証はありません。それどころか、生えてさえも来ない年があります。田舎娘はなかなか気難しい()

 

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 ここは古い株が意外に少ない。これだけの林だし、神社の境内として保護されているのだから、ヤマユリは古くからあるのでしょう。当然、花をたくさんつける古い株があってもいいはずなのに、見当たりません。杉が密生しすぎて日当たりが悪く、ヤマユリにとってはあまり良い環境ではないのかもしれない。

 

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公務員宿舎のヤマユリ

 私の住んでいた近くの公務員宿舎の跡地にはヤマユリが生えていました。元々、この地域には林の中にヤマユリが生えており、公務員宿舎を建てた時、敷地の中にたまたま残ったものです。これらのヤマユリは人の手は入っておらず、完全に自然です。

 

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 ヤマユリが残った場所は意外にも一般の人が通る歩道から丸見えの所です。柵があるわけでもなく、自由に立入ができますから、こんな所にヤマユリが残っているのは奇妙に見えますが、残った理由の一つが、皮肉にも草刈りです。ここは公務員宿舎の敷地で、関東財務局の責任で年に何回か草刈りが行われます。

 

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 ヤマユリが咲くのは七月末ですから、それまでに草刈りされると、花を咲かせる前に刈られてしまうので、一般の人はヤマユリがあることに気が付きません。これがここに残った理由の一つです。

 

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 しかし、ヤマユリは花を咲かせる前に何度も刈られたら、やがて生えなくなります。たまたま草刈りを免れたヤマユリや、草刈り業者がヤマユリであることに気が付いて残してくれると、花を付け、種がこぼれます。だから、古株はありません。

 

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ヤマユリが全滅した

 下の地図で赤で示した①から⑤がヤマユリの生息地でした。

 

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 具体的に地図まで示して、ヤマユリの生息地を公開したら、盗掘されるのではないかとお叱りが来そうです。ご心配に及びません。なぜなら、これらの場所にはヤマユリなど一本も残っていないからです。五ヶ所のうち四ケ所はすべて宅地化されています。宅地化するには樹木をすべて伐採し、土を削り取るか、土盛りしますから、ユリなど残るはずもない。全滅したヤマユリは盗掘の心配もありません。

 

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 地図の分布図を見てわかるように、並木池と平行に両側に生えていたのがわかります。並木池は南から北に流れていた川をせき止めて作られた人工池で、元々の川の両側の斜面に沿ってヤマユリが生えていたことを示しています。

 

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 そのことを良く示しているのが地図の②で、写真下左ように、ちょっと小高くなっています。元々は手前の並木池が川だった頃の土手です。ユリにとってはそれほど良い環境ではないのに、公園の中にありながら、小高くなっていることで人が立ち入らず、長い間、ヤマユリが生えていました。

 

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 写真下は十年ほど前に地図の②で見かけた最後の頃のヤマユリです。前は花をつけた個体もありました。公園の草刈りをした業者がヤマユリであることに気が付いて残してくれたのでしょう。しかし、目立つ場所なのですぐに盗まれました。写真下の頃には花を付けるほど年数のたったヤマユリはなく、やがてこれらのヤマユリも消えました。

 

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 地図の③は民間が所有する雑木林で、手入れされていないことが幸いして、1990年頃はまだ残っていました。しかし、周囲に住宅が増えるにつれて、人々が盗掘したらしく減少し、ここが宅地として造成されるだいぶん前にすでにヤマユリは絶滅していました。

 

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 地図の①、④、⑤にヤマユリは最後までに残りました。残った理由はここが公務員宿舎の中でも単身寮だったからです。単身寮の住人の多くが朝早く仕事に行き、夜も遅く、休みには家族の所に帰るなど、宿舎の周囲を歩くなどしませんから、周囲の林が踏み荒らされなかったのです。公務員宿舎は普通のマンションなどよりも緑が多く、元々あった野生の植物が残りやすいのだが、それでもヤマユリを家族宿舎の敷地で見つけたことはありません。単身寮の敷地が並木公園と地続きで、このような配置であったことが良かったのでしょう。

 

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ヤマユリを盗掘した

 単身寮は駐車場のすぐそばの空き地にヤマユリが生えているなど、ヤマユリの楽園でしたが、楽園は長くは続きませんでした。相場よりもはるかに安い家賃の公務員宿舎が批判を浴び、つくば市でも最小限を残して廃止されることになりました。単身寮はいち早く廃止が決まり、残念ながら、④⑤の単身寮のヤマユリはほとんど救えませんでした。私の時間がなかったことが理由で、今でも彼らには申し訳ない気持ちです。

 

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 そこで、①の単身寮の売却が決まった時は、私は絶対に助けてやろうと、盗掘を決心しました()。職場の林のヤマユリの盗掘をどうやって防ごうかと試行錯誤した私が、逆に盗掘をせざるを得ないとは、なんとも皮肉な話です。

 

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 写真下の土が茶色になっている部分が私が掘り起こした跡です。掘った跡を見てもわかるように、生えている所は限定されるが、生えている所にはわりと密に生えています。これは種がこぼれたからでしょう。写真下の奥は人通りの多い歩道で、多くの人たちはこんな所にヤマユリが生えていることにも気が付きません。それが幸いして、残っていたのです。

 

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 公務員宿舎の廃止が決まってから、ヤマユリを掘る時期は限られていました。五月頃には葉だけである程度判別できます。しかし、六月には草刈りがありますから、一カ月ほどの間に掘り起こすしかありません。しかも、宿舎が閉鎖されて周囲を柵で囲まれてしまい、入りにくい。私自身の時間も限られているため、ほとんど必死の形相で掘りました()

 

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 宿舎の撤去と造成の工事が始まってしまうと、日中は入れないので、作業が終わった頃を見計らって入り込み、公園側から漏れてくる街灯の光を頼りに掘りました。たぶんこの葉はヤマユリではあるまいかと掘ってみると、葉の似ているアマドコロだったりして、ガッカリ()

 

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 ヤマユリを掘り起こしていると、奇妙な個体に出会います。その一つが写真下で、球根の上から出ている根の一つがのびて、小さな別な球根ができて、そこからたくさんの太い根が生えています。別な球根の根がからんでいるのではと丁寧に土を取り除いてみましたが、両者はくっついていました。

 

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 同様に奇妙なのが写真下で、茎の先に本来ついているはずの球根がなく、右端の茎の先端は枯れています。それでいながら、茎の横に大小二つの球根が付いています。右端に付いていた本来の球根が取れてしまったので、茎から新たに球根を作り出したかのように見えます。

 

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 ヤマユリに「君たちはこのままではブルドーザーに踏みつぶされてしまう。オレと一緒に新天地を目指すのだ!」と呼びかけ、

♪ いつの日か いつの日か 花を咲かそうよ ♪(『花』喜納昌吉作詞・作曲)

と鼻歌を歌いながら掘りました()

 

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