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シダの谷 2010
シダの魅力の一つは幾何学的な模様でしょう。きれいな花を咲かせる植物と違い、シダは日陰に生えていることもあり、いま一つ目立ちませんが、群生するとなかなか見事なものです。
私が「シダの谷」と名付けた谷があります。と言っても、地図上では幅が出口付近で百メートルほど、奥行きは五百メートルほどですから、小さな谷です。そこに真夏になると枯れてしまう程度の小さな小川が流れています。この小川は日本列島ができはじめた頃から、山を少しずつ削り作り上げて谷を作ったのでしょう。
周囲は、昔は植林をしたらしく、杉が多く植えられています。ここの杉も他の地域と同じで、あまり手入れがされていませんから、過密状態で倒木も多く、林を暗くしています。谷川に沿って、シダが一面に生えます。周囲に同じような谷がありますが、ここは何か条件がそろっているらしく、見事なシダの群落ができます。
晩春から初夏にかけて、シダが谷を埋め尽くし、しかも、あまり訪れる人もいません。
谷で一番目立つのが、1m以上もある葉を放射状に広げたシダです。葉にツヤはないので、オシダの仲間ではないかと思います。
二番目に大柄で目立つのが、写真下のシダです。こちらも1mもありそうな葉が放射状に開き、谷を埋め尽くしています。オシダに比べて、葉はやや薄く明るい色で、もっとこまかく繊細な感じです。
三つ目は私がゲジゲジシダと呼んでいるシダです。ちょっとひどい名前ですが、葉っぱ両脇にそってのびた状態、ゲジゲジの足みたいに見えます。前の2種類に比べると数も少なく、なによりも大きさで負けています。たぶん、ジュウモンジシダの仲間でしょう。他の大型のシダがない所で、このシダだけが茂っているのを見かけます。
このシダは写真上左のように葉が一重にきれいに広がるだけではなく、写真のように八重に雑然と広がり、こうなると幾何学的な対称がなくなり、雑草になってしまいます。
写真下はヤブソテツのようです。数はそんなに多くありません。
ヤマドリゼンマイが花を咲かせています(写真下)。
春も後半のキクザキニリンソウが咲く頃には、コゴミ(クサソテツ)が丸い葉先をのばしていきます。丸い玉がついたような状態で広がる幾何学的な姿がきれいです(写真下)。山菜として採られてしまうことが多いので、なかなか良い被写体がありません。
シダが生い茂る谷を、シダを押し分ながら進むと、湿気とともにシダのかすかな匂いが漂っています。
大きなシダの葉を見ると、私は奇妙なことに「うまそう」と感じます。きっと大昔、恐竜だった頃、シダを食べていたのでしょう(笑)。
写真下は土手に一面に小型のシダが占領して、他の草花はありません。とても涼しげです。これらの土手は水が浸食した所をさらに植林のために作られたようです。そこに、まるで人の手で植えられたように、一面に生えています。
谷は南北に長く、両側を山にはさまれています。そのため、谷全体は日当たりが悪く、樹木が生い茂っており、さらにシダの生えている所は谷の底の部分ですから、陽があたるのは一日のうちほんのわずかです。普通の植物にとってはあまり良くない環境が逆にシダには好都合だったのでしょう。
暗い林の中に陽が射し込み、シダの葉に当たり、浮かび上がった時は、それはもうきれいです。
シダの美しさはなんと言ってもその幾何学的な形です。他の植物よりも、葉が対称的で、また真ん中を中心に葉が広がるなど、幾何学的な美しさがあります。
狭い谷に太陽光が差し込み、うまくシダに当たって、こういう光景が見られる時間は限られています。
射す太陽光は刻一刻と変わっていきます。つい十分前には光が射していた所はもう日陰になっています。杉木立の間から射しているので、一瞬一瞬変化していきます。だから、これらの写真は静止画ではなく、動画の写真です。
成長期のシダならではの形と色が薄暗い谷の中に浮かび上がります。湿気の強い谷の底で、たった一人の観客として見惚れていました。
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