東北里山の初夏 2012年 東北の里山を歩きました。5月末から6月には、春もそろそろ終わりで初夏の雰囲気です。林の中には春ほどには多くないが、初夏の花があります。
道の脇の土手に紫色のきれいなラショウモンカズラが咲いています。紫色がきれいな花です。野草にしては目立つ花なのに、羅生門とはまた恐そうな名前です。
羅生門は芥川龍之介の『羅生門』と黒沢監督の映画が有名です。芥川の小説はカミソリのような鋭さをもっているので、気軽に読むと「イテテ」になる(笑)。彼の小説は神経を極限まで張り詰めているようで、自殺したというのもわかるような気がします。
ラショウモンカズラの名前の由来は、京都の羅生門で切り落とした鬼女の腕になぞらえたという血生臭い話です。こんなきれいな花から、どうやったらそんな連想ができるのか、感性がわからない。
写真下は同じシソの仲間のオドリコソウです。ラショウモンカズラに比べると良い名前をもらった。個々の花もきれいだし、群落は見ごたえがあります。
ミヤコグサは雑草にしては色がはっきりしています。かなり古い時代に日本に来た帰化植物です。海外でもこの仲間がよく見られます。
ヤマドリゼンマイの花が咲いています、と言うと、「花ではない、胞子葉だ」と言われそうです。シダの仲間には珍しく、花をつけるという進化をしています。
写真下のシシガシラの仲間も成長してしまうとどうということはないが、こうやって葉がのびようとしている時期は、葉の黄緑といい、葉先の巻いている形といい、とてもきれいです。何か生命力が手をのばしているような雰囲気です。
オカトラノオという恐そうな名前と違い、清楚な中にも豪華さがあり、このまま髪飾りに使えそうです(写真下)。
谷を少し入った所に小さな沼がありました。堤防でせき止めて造った人口の池です。農業用の古いため池でしょう。
釣り人がいるくらいで、水面に魚がたくさん泳いでいるのが見えます。
沼から逃げ出したらしく、堤防の下の水路にも魚がいます。鯉でしょうか。70~80cmもありそうな大きいのもいます。ここは底も浅いから、釣るよりも網で簡単に捕まえられそうです。
夢で、水溜まりのような所に見事なコイが泳いでいるのを見ることがあります。私の場合、そういう魚貝類の夢を見るときは、たいてい胃腸の具合が悪い(笑)。 沼のすぐそばに白と黄色のニガナのような花が咲いています。写真上の白いのはたぶんシロバナニガナです。
ヒメジョオンにとまるイチモンジチョウです。ヒメジョオンは明治時代に輸入され、あっという間に広がった嫌われ者です。写真下も放置された畑に生えていました。
サルノコシカケの仲間が生えています。色が違うだけで、両方ともカワラタケでしょう。一部が薬草に使われているだけで、大半のサルノコシカケはさして役立たないように見えますが、こうやって枯れ木に生えることで、森の循環に一役買っています。ただ、植林などで生活している人たちにはありがたくない存在のようです。
シャガが薄暗い林の下にたくさん咲いています。それほど珍しい植物ではなく、良く見かけます。しかし、由来を聞くと、ずいぶん不思議な植物です。
シャガの花の外見はアヤメだが、葉がかなり違うので、他のアヤメと明瞭に区別がつきます。それもそのはずで、シャガは中国から持ち込まれたものだという。
かなり古い時代に中国からもたらされた植物なので、自然に生えているように見えても、ほとんどは人の手の入った場所に生えています。私が見たのも、杉などが植えられた人工林のそばです。杉も山も放置されていますから、それに合わせたようにシャガも広がっています。
原産地が中国なのに、学名がIris japonicaというのだから「日本のアヤメ」くらいの意味です。まるで日本を代表するアヤメであるかのようなこの奇妙な学名は誰がなんで付けたのでしょう? シャガの花は一日でしぼんでしまうという。これだけの花が一日しか持たないのはもったいない。 種ができず、根で増えるというのですから、この山の中に誰かが植えたことになります。
種もなく、球根もないとなると、根でしか増えない。中国から誰かが水をやりながら日本に持ち込んだことになります。 薬になるとも聞いていないから、純粋に観賞用に持ち込んだことになります。観賞用のお土産なら、種や球根の植物を選んだはずです。つまり、シャガによほどの思い入れのある人だったのでしょう。
いつ持ち込まれたのかわからないというのだから、かなり古い時代です。命懸けで海を渡った時代でしょう。船旅では飲み水も貴重だったろうから、植物にやるというなら、よほど貴重な植物のみだが、シャガにそれほどの価値があるとも思えません。所有者の身分が高く、人間よりも優先させたのかもしれません。
写真下はマメの仲間でしょうが、それにしても、種がまるで太鼓みたいに平たいのが面白い。 蝶々を見るたびに、花は人間のために咲いているではないことを思い出します。人間よりもはるかに彼らの付き合いは長い。いったいどのくらいの期間なんでしょう。不思議なのは、花には記憶器官や神経系がないのに、どうやって昆虫に合わせて姿を変えたのかという点です。 写真下はウスバシロチョウです。写真上のスジグロチョウなどのシロチョウの仲間ではなく、アゲハの仲間です。本当はウスバアゲハと呼んだ方が正確でしょう。
モンシロチョウなどに比べて大きく、羽が透けて見えます。飛び方も羽ばたきがゆっくりして、フワフワと飛びます。羽が半透明なので、まるでセロハンが飛んでいるみたいで、アゲハチョウやタテハチョウのあのしっかりとした羽ばたきに比べると、頼りなげです。
この写真は初夏にかけてですが、ウスバシロチョウが春に出てくるのは意外に早く、温かい斜面などではモンシロチョウなどよりも早く出てくることがあります。 平地にもいるようですが、私は山でしか見たことがありません。彼らの幼虫の食草が主に山に生えているからでしょう。食草のおかげで近年、日本では分布が広がっていると言われています。個人的に見ている範囲ではあまり増えているという印象はありません。
日本のウスバシロチョウはごらんのように白と黒の単調な模様ですが、チベットからヨーロッパにかけて赤い点のはいったアポロウスバシロチョウがいます(写真下参照)。 写真上:アポロウスバシロチョウ(ウィキペディアから転載) アポロウスバシロチョウは蝶の収集家にとってはあこがれの一つらしく、ネットにチベットに出かけて採取している人の旅行記がありました。しかし、採らないでほしい。日本のウスバシロチョウは地味なのが幸いして、乱獲されることもありません。
蝶(写真上)と蛾(写真下)はさほど違いがないのに、どうして蛾は好ましく感じられないのでしょう。いつも私は自分の感覚が良くわからない。
個人的には毛虫や芋虫はそれほど嫌いではない、と言うか、どちらかというと好きです。触るのは論外としても、色や形を見ている分にはほんとうにおもしろい。
写真下のソクズ(Sambucus chinensis)は本州では道端にも良く見られる花です。
道端にホタルカヅラが数本咲いています。写真下右の赤い花が古くなった花かと思ったら、逆で、これが若い花だそうです。そうしてみると、どうやら、この花は赤い花から青い花に進化したらしい。
沢のほうに降りて行くと、川のほとりの木陰に名前のわからない白い花がたくさん咲いています。
ここの沢は夏になると枯れてしまうようで、春先に比べてだいぶん水量が減っています。
さらに沢に沿って少し登っていくと、ハナウドの群落があります。
初夏らしくイトトンボがいます。丁寧に見ると、身体が青や緑、黒など微妙に違います。ネット上の図鑑を見ると、ずいぶんと種類があり、これらが別種なのか、個体差なのか素人目にはなんだか良くわからん。
種類はどうあれ、イトトンボが飛んでいると涼しげで、近くにきれいな水があるのを連想させます。ただ、トンボ類は減っているような気がします。
いつ見ても独特の姿のマムシグサです(写真下)。私は長い間、マムシグサとは写真下のような緑色の花なのだと思いこんでいたら、どうやら紫のほうが一般的で、緑色のはアオマムシグサというそうです。名前の毒々しさどおりに葉や球根に毒性があります。でも、立ち姿はなかなか美しい。緑と白の筋はおしゃれです。
写真下はサイハイランは采配という立派な名前がついているわりにはさえない姿です。花が垂れ下がっているので、まるで終わりかけたような印象です。
写真を見てもわかるように、薄暗い林の中で、腐葉土の上に生えています。サイハイランは移植ができないことで有名です。移植しても数年たつと消えてしまうそうです。栄養を葉の光合成ではなく、菌との共生で得ていることが理由のようです。
移植できないなら、話は簡単で、このまま保護することです。ところが、これを採取する人たちがいて、全国的にも減って、県によっては絶滅危惧種になっているという。研究者たちが培養してもできないのに、素人が移植しても無理です。
林の中にポツンと、唐突にユウスゲが咲いていました(写真下)。ユウスゲという名前どおり夕方に開花して、翌朝はしぼんでしまうのが、ここは薄暗い林の中なので、狂い咲きをしたのでしょう。勤務先に行く途中の道路のそばにユウスゲが咲いていて、毎日楽しみにしていたら、誰かが根こそぎ掘って持って行ってしまいました。どうしてああいう心ない人がいるのでしょう。 こちらもポツンとアザミが咲いています。東北の山の中で、頭を下げていることから、オニアザミでしょうか。たいてい群落を作っているのに、どういう訳か、一株だけでした。 沢を出て、陽当たりの良い草地にでました。どこにでも咲いているクサノオウです。ケシの仲間で、古くから薬草に用いられていますが、毒性があるので素人が手を出すのはやめたほうが良さそうです。
ゼニアオイの白です。それも真っ白ではなく、かすかにピンク色です。ゼニアオイは田んぼや畑などどこにでもある花ですが、白はそれほど多くはありません。こちらも厳密には江戸時代に日本に来た外来種なのに、日本の風景にすっかり溶け込んでいます。
陽当たりよい山の斜面にタニウツギが見事に咲いていて、まるで桜が咲いたみたいです。
別名としてベニウツギ、タウエバナは良いとしても、シビトバナ(死人花)、ソウシキバナ(葬式花)、カジバナ(火事花)とは何なのでしょう。普通はシビトバナ、ソウシキバナはヒガンバナに使われる別名です。ヒガンバナの球根には毒性がありますから、なんとなくわかるが、タニウツギに毒性があるとは聞いたことがありません。ヒガンバナとも似ておらず、いったい何なのでしょう?何かの聞き間違いが独り歩きしたのではないかと思います。こんなきれいな花にシビトバナもなかろうに。
北海道の西と、本州では日本海側に自生しているというのだから、完全に日本海に沿って生えていることになります。海流に乗って北上したのに、日本の中央の山脈を越えて太平洋側までたどりつけなかったのでしょうか。
野生にしてはとてもきれいな花なのに、あまりに庭木として植えられているのを見たことがありません。
同じウツギでも、写真下のツクバネウツギはあまり派手さはありません。花の中の黄色い模様がなかなかおもしろい。これは中国あたりのウツギと共通しています。
写真下はキイチゴの仲間かと思いますが、調べても名前がわかりません。キイチゴをネットで検索すると、実ばかりで、花の写真が少ない。
見上げるとフジが見事です。他の樹木にからみついて、完全に乗っ取っています。写真下の、てっぺんまでからみつかれた樹木は枯れてしまっているのでしょう。フジは左巻き、ヤマフジは右巻きだそうです。ただし、東北にはヤマフジはありませんから、写真下は確認しなくてもフジです。
秋の野山でよく見かける赤い実が有名なガマズミの花です。赤い実もきれいだが、花もきれいです。
日本中にあるエゴノキです。吊り下げたような花がかわいい。
道路の擁壁のそばにマメの仲間らしい変な植物があります。花の形も色も日本的でないのを見てもわかるように、イタチハギ(Amorpha fruticosa)という北米原産の外来種です。元々は緑化のために植えられたようですが、今では邪魔者です。
初夏の緑に包まれた山の中は誰もおらず、心地よい風が吹いています。私はもう少し一人で山を歩きますから、皆さんは先にお帰りください。
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