ヒメサユリ 2014年 北国に咲く乙女百合 ヒメサユリという名前を聞いても、東日本以外では知らない方が多いでしょう。下のようなピンク色のそれはもう可憐で愛らしく美しいユリです。ユリの中でも私が最も好きなユリです。 ヒメサユリが今年は当たり年らしいという連絡を受けて、2014年6月2日(月)に山形県大江町にある大山自然公園に出かけました。山形市内から車で約一時間半ほどで大江町の大山自然公園に到着(10:34)。さほどの距離ではないと山形自動車道を使わず、節約したつもりで国道や県道を来たら、道を間違えたり、通り過ぎたりして時間がかかってしまいました。 大江町の街中には「ユリまつり」というのぼりが立っているので、町の南側にある大山自然公園までは簡単に行けます。 この公園は入場料はなく、駐車場も無料です。協力金の形で募集がありましたので、少額を寄付しました。ヒメサユリを今後も増やしてほしいからです。 駐車場を下りると、一番高いところに展望台と事務室、手前に受付のテントがあります(写真下)。晴れて、学校が夏休みのせいか、平日にもかかわらず、観光客はそれなりにいます。 下図は大山自然公園の散策図です。 公園内は、元々生えていたと思われる松などの樹木の生えた自然林で、その下草の中にヒメサユリが花を咲かせています。 周囲の道路に面した林にたくさんのヒメサユリが満開です。野生とは思えないほどの可憐で美しい姿形をして、ユリらしい芳香で虫たちを集めます。 花一つでもきれいなのだが、それが群落して、花を咲かせているのは圧巻です。これは自然そのままでありませんが、昔を知る人たちに聞くと、実際に群落していたそうです。 ヒメサユリは絶滅危惧種 ヒメサユリ(姫早百合、姫小百合)はウィキペディアではオトメユリ(乙女百合)とあり、ヒメサユリは別名とされています。ただ、山形などはどちらかというとヒメサユリという名称のほうが一般的で、大江町でもヒメサユリとして紹介しています。私もヒメサユリという呼び名のほうがこのユリの外見に合っていると思います。 「日本特産のユリで、宮城県南部、及び新潟県、福島県、山形県が県境を接する飯豊連峰、吾妻山、守門岳、朝日連峰、周辺にしか群生していない貴重な植物。」(ウィキペディアから転載) ウィキペディアには上のように書いてありますが、あまり正確ではありません。これだと飯豊連峰など亜高山や高山にしか咲かない特殊なユリであるかのようですが、実際には、たとえば山形市の近郊の、標高百メートル程度の山地にも残っています(正確には絶滅しかかっている)。 山形県の海岸近くの標高50メートル程度にも生えているそうです。ヒメサユリは元々は低地の山にも咲く花で、そういう場所は盗掘したために、全滅してしまったのです。 古老に聞くと、家から山の斜面がピンク色になるほどヒメサユリが咲いているのが見られたといいます。しかし、今その場所を一日探しても一本見つかればよい程度しかありません。今では、福島県や新潟県との県境の高山に登るか、この公園のように人間が増やした場所に行かないと見られなくなってしまいました。 大山自然公園のヒメサユリはほぼ全部が人工です。大江町のホームページの解説によれば、大山でも一時期、数十本までヒメサユリが激減したのを、ここまで増やしたそうです。 ヒメサユリが低地で全滅してしまった理由は盗掘の他に、このユリは増やすことがとても難しいことがあります。種の発芽率が悪く、種から花が咲くまで4~5年もかかります。 ヒメサユリ散策路 写真下はユリが植えられている山で、展望台と広場のあたりがちょうど頂上になります。ゆっくり歩いて回るだけなら一時間もあれば十分です。 宿泊設備やキャンプ場もあるなど、レジャー施設としても充実しています。 敷地の中に「日英グリーン同盟2002(uk-japan green alliance
2002)」という看板が立っています(写真下左)。1902年に結ばれた日英同盟を記念して、2002年に行われた植樹活動です。英国から200本のヨーロッパナラ、いわゆるオーク(Pedunculate
Oak)が日本各地に植樹され、大山自然公園にも植えられたようです。 こういう同盟なら、一度だけでなく、長期にわたり継続してほしいものです。 写真上左 ヨーロッパナラ(ウィキペディアより転載) 園内ではヒメサユリを販売しています(写真下)。一鉢千円というとちょっと高めの印象で、実際、ネットでの値段はこれよりも安い。売っているオジサンに聞くと専門の業者に頼んで増やしているそうです。ただ、水を差すようで悪いが、一般住宅で植木鉢で育てるのは容易ではないし、温かい地方では育たないでしょう。 地元では昔からヒメサユリの存在は知られていても、商品化され市販されるまでにずいぶん時間がかかりました。 種ではなく、もっと簡単に球根の鱗片を使って増やそうと、新潟大学では培養液中に浸けて成長させる方法を研究しています。(ヒメサユリの成球生産に関する研究、新美芳二・三崎裕・中野優、園学雑、6 9 (2):16 1-165. 2000.) オランダの研究者がヒメサユリとテッポウユリの交配の研究をしています。(Ki-Byung Lim and et.al.,
Karyotype analysis of Lilium longiflorum and Lilium rubellum by chromosome
banding and fluorescence in situ hybridisation., Genome. 2001;44(5):911-8.) これはピンク色の野生のユリが世界的には珍しいからでしょう。両者の交配種はピンク色のテッポウユリとして市販されていて、私も庭に植えました。 地元の山形大学でもヒメサユリの研究をしています。 (Flower visitor fauna of the
narrow endemic lily Lilium rubellum Baker in a lowland habitat in Yamagata,
northern Japan, Hideaki TERASHIMA1 and et.al., Bull. of Yamagata Univ., Nat Sci., Vol.17, No.4, 2013, pp27-34.) ヒメサユリは半日陰の木立の下などに生えているイメージでしたが、写真下を見て驚きました。林を切り開いた、もろに直射日光の当たる場所にたくさん生えています。 ピンク色も濃く、背も1メートル近いものもあります。木陰の可憐なイメージと違い、たくましく感じられます。 ヒメサユリ観光 野生のヒメサユリが激減する中、花の美しさから、山形、新潟、福島など元々生えていた地域では、人工的に増やして観光の目玉にしているところがあります(下の一覧表)。また、市町村の花に指定している自治体も七カ所あります。
数の上でも圧倒的に福島県がヒメサユリを売り物にした宣伝に熱心です。安座(⑥)では「こゆりちゃん」というキャラクターが地元特産の桐下駄をはき、歌ったり、稲作までするようです(下)。「ミスおとめゆり」のコンテストもあるというから、見たいような、見たくないような・・・あっ、失礼。 (西会津町のホームページより転載) こんなふうに積極的な市町村もある一方で、山形県戸沢村では村の花に指定しているのに観光には取り上げていません。宮城県七ヶ宿町では増やそうと努力はしているようですが、町のホームページにはヒメサユリの写真も出てきません。 ヒメサユリを村おこしに使うことには基本的に賛成です。観光客を呼ぼうとすれば、ヒメサユリを増殖させ、育てる環境も必要になりますから、保護に役立ちます。種から育てて販売すれば、野生種を掘り起こそうとする不心得者も減るでしょう。 一方で人工は人工であり、野生の保護はまったく別物です。観光で得た収益を必ず野生種の保護に回してほしい。また、野生のヒメサユリは宣伝しないでほしい。 ヒメサユリを観光の目玉にしている市町村を赤丸で示したのが下の地図です。ユリの花のマークは、ヒメサユリを市町村の花として使っている自治体です。 これはヒメサユリの分布ではありませんが、おおまかな分布がなんとなくわかります。少なくとも、この地域ではヒメサユリが屋外でも育つ環境だということです。 ササユリ ヒメサユリと良く似ているのがササユリです(写真下)。ササユリは本州中部以西にあるユリで、私は自然状態では見たことがありません。ササユリはヒメサユリよりも大柄で、花弁の先がクルッとひっくり返ること、花粉がヒメサユリは黄色なのにササユリはオレンジ色なのが違いです。 写真上 ササユリ(ウィキペディアより転載) 両者はたいへん良く似ていますし、新潟県ではヒメサユリとササユリの両方が見られるそうです。ヒメサユリはある程度寒さがないと育たないのに、それでいて山形県よりも北にはありません。このことから、ササユリは北上して来て、寒さに強い一部の品種がヒメサユリとなって残ったが、それ以上、寒い地域への進出はできなかったように見えます。つまり、ササユリがお姉さんでヒメサユリは妹です。 ササユリの名前の由来は葉が笹に似ているからで、これはヒメサユリも同じです。ところが、写真下の二つのヒメサユリの葉を見てください。左下は笹の葉に似ているが、右下は葉の幅ばかりか、色やツヤがだいぶん違う。どちらかというと、左下のほうが一般的です。ただ、笹とは似ていない右下もそれほど珍しくはありません。 花はオニユリのように花弁が完全にひっくり変えることはなく、写真下程度で開花した状態です。花の大きさで一番近い市販のユリでは、開ききらないスカシユリでしょうか。花弁はスカシユリのような肉厚な感じではありません。 写真下は花が開く直前のツボミで、開いた後の花に比べて、ややピンク色が濃い。 ヒメサユリはほぼピンク色ですが、写真下のような白に近いような花も少数あります。画面ではわかりにくいが、真っ白ではなく、かすかにピンク色が混ざっています。完全な白もあるそうですが、私は見たことがありません。やはりヒメサユリは薄いピンク色が良い。 昼飯です 散策路から少し離れた所に人のいない東屋があります。ヒメサユリと周囲の風景を眺めながら、ここで昼食としましょう。 ここは標高300mほどの山の上で、東屋から北東方向に大江町の市街地が見えます(写真下)。 南西には朝日連邦が(写真下左)、北西には雪をかぶった月山が霞んで見えます(写真下右)。 食後、周囲の山道を歩いてみることにしました。ヒメサユリは少ないが人も少ない。 散策路から外れて ユリを踏み荒さないためにも散策コースの林には入ってはいけません。そこで私は散策コースから外れて、山道をしばらく下りて行ってみました。これだけ植栽されたのだから、自然に増えた個体が周囲の山林にもあるのではないかと思ったからです。 薄暗い林の斜面にわずかだが、ポツンポツンと咲くヒメサユリがありました。散策コースからは遠いですから、人手で植えたのではなく、種が飛んできて成長したのでしょう。 林の中は静かで、ヒメサユリを間近に見るのには良いのだが、ウルシが元気よく葉をのばしているので怖い(笑)。この時期の成長期のウルシは強烈です。私はウルシに弱く、服を着ていてもかぶれることがあります。 ヒメサユリは小柄で木陰では背が低く、せいぜい五十センチくらいでしょう。ウルシに注意しながら、写真を撮るために斜面に寝っ転がります。日差しの当たる花を下から見ると、ほんとうにきれいです。しばらく寝っ転がって見ていました。日差しの角度が変わるので、花の雰囲気が変わっていきます。 さきほどの散策路は人が来るので、一人で静かにヒメサユリを楽しむのが難しい。でも、ここなら、花は少ないが、その代わり誰もいません。 午後の木漏れ日のさす涼しい林の下で、ポツンポツンと咲くヒメサユリを見ているのは何とも心地よい。しゃがみこんで見ていると、地面からの湿気と温度差があるのがわかります。 酔いから覚めた ヒメサユリの可憐さに酔っていた私は、この後一気に酔いから醒まされることになりました。 大山自然公園を後にして、山形市内に向かって走っているとタイヤの具合がおかしい。事故が起きてからでは遅いので、ガソリンスタンドで見てもらうと、四本の内、一本が破裂寸前で危険だという。 タイヤを見せられてギョッとしたのが写真下で、二カ所に溝が出来ていて、これではいつ破裂してもおかしくない。変な振動が来ていたのはこれが原因でしょう。 タイヤは写真下のように、片側だけに力がかかっていたらしく、著しくすりへっており、しかもつぶれた状態で走ったらしく、タイヤの側面のS208という数字の上半分が薄れています(写真下右)。 さらに整備工からショッキングに話が出てきました。「このタイヤはもう10年たっているから、取り換えないとダメですよ」という。私が「えっ?5年前の車検で取り換えたばっかりだよ」と言ったので、整備工が改めて四本のタイヤを調べると、二本は2004年製、二本は2009年製だというのです。 タイヤに年数が刻んであることも私は知りませんでした。写真下のように壊れたタイヤに「8TH4904」、そうでないタイヤには「YYY3109」とあり、番号の最後の04が2004年を、09が2009年を表すのだという。つまり、五年前、車検でタイヤを購入した時、二本は古いタイヤを取り付けられたのです。 これから高速道路を走るのにこのままでは危険ですから、四本ともタイヤを取り換えて戻りました。タイヤを交換した業者に、本当に2014年製か確認すると、笑いながらタイヤの数字を示しました。 帰宅後、2009年に車検と一緒にタイヤを購入したTクバネ石油株式会社の学園倉掛ガソリンスタンドに電話をして苦情を言いました。ところが、タイヤの領収書がないことを理由に、まったく相手にしてくれないばかりか、二度目の電話では店長から激しい口調で怒鳴りつけられました。あまりの対応のひどさに本社に電話しても、これまたノレンに腕押しでした。 もちろん、二度とこのガソリンスタンドに行ったことがありません。私一人が行かなくなっても痛くも痒くもないでしょう。 私はこのガソリンスタンドがタイヤをごまかしたとは思っていません。それなら四本ともごまかしたはずです。おそらく、整備工が間違えて取り付けてしまったのでしょう。そんなことはミスにすぎないのだから、もう少し誠意ある対応ができたはずです。日本は「おもてなし」といって客本位の対応を取るのが普通だと思っていただけに、客をヤクザみたいに怒鳴りつける店が未だにあるのは困ったものです。 |