水芭蕉と座禅草 2015年 ミズバショウとザゼンソウが一緒に咲いている、という話を聞いて、連休の始まる直前の四月下旬、山形市野草園に出かけました。山形市街の南東の西蔵王高原にあり、市街と蔵王を結んだ真ん中くらいですから、気軽に行けます。 山形自動車道を下りて、数百メートル先から西蔵王ラインに入ります。西蔵王ラインは山形市街から蔵王温泉までを結ぶ道路で、山形市野草園までは無料です。 高度を上げるにつれ、周囲の山には山桜が満開になっているのが見えます(写真下)。四月下旬は山形市内でもそろそろ桜は終わりですが、ここは標高が五百メートルほどあるので、まだ桜が満開です。植えられたソメイヨシノもきれいだが、私はどちらかというと勝手に生えている山桜が好きです。 延胡索 道の途中の畑に何か水色の花が咲いているのを見つけて、車を停めました。エゾエンゴサク(蝦夷延胡索、Corydalis
ambigus)かヤマエンゴサク(山延胡索、Corydalis
lineariloba)でしょう。 両者は見分けるのが難しく、北海道と違い、東北には両方ともあります。エゾエンゴサクには赤系の花はないのと、葉(苞葉)に切れ込みないことで区別するそうです。ここで見られるのは葉に切り込みがありませんから、エゾエンゴサクと判断しますが、良く見ると、切り込みのある葉もあります。 地下の茎に栄養を貯めており(塊茎)、これを漢方として用います。私の飲んでいる胃腸薬にも入っていると、今回調べて初めて知りました。お世話になっているのだ。エンゴサクという奇妙な名前も、中国の漢方名から来ているからです。 エンゴサクが漢方として用いられると書きましたが、この点が微妙です。漢方で用いられる延胡索とは中国で栽培されている延胡索(Corydalis Tuber)であり、ここにある日本のエンゴサクは厳密には漢方の延胡索ではありません。日本産のエンゴサクを用いた漢方を「和延胡索」として区別するようです。 ケシの仲間は毒があるのが普通だが、エンゴサクだけは漢方になるくらいで、葉などを食べられると、本で読んだように記憶していたら、ネットでは毒草だという指摘がありました。どちらにしろ、こんなかわいい花を食べるのはやめましょう。 私も時々、エンゴサク(延胡索)をエンゴグサ(延胡草)と言ってしまうことがあります。ネットを調べても、エンゴグサと書いている人がかなりいます。 山形市野草園 予定外のエンゴサクに夢中になり、ようやく10時頃に山形市野草園に到着。広々とした駐車場には平日なので車も少なく、と言うか、ほとんど人がいない(写真下左)。当然、入口(写真下右)では待たされることもなく、300円の入場料を払うと、受付の方から懇切丁寧な園内の説明と、どのように一周すれば良いか、また見頃の花は何があるかなど詳細な講義を受けることができました。 下の図が野草園の案内図で、南北が逆になっており、上が南です。目的のミズバショウとザゼンソウは、野草園のほぼ中央、大平沼の上(南)にあります。 (http://www.yasouen.jp/) 名前どおりに野草園の中央にある中央広場を抜けると、その東側がすぐミズバショウの谷になっています。 谷にはミズバショウの白い花が一面に咲いています。花として最盛期のようです。 ミズバショウの谷は周囲の山から流れ込んだいくつかの川が集まった湿原のようになっており、北側にある大平沼にせき止められています。 写真下はミズバショウの谷から大平沼を見た光景です。 なんともおもしろい形をした花です。白い頭巾のような部分を仏炎苞、真ん中の花を肉穂花序と言います。仏炎苞は花でなく、葉が変形したものです。と言われれば、たしかに、仏炎苞の根元は花ではなく、根元から茎を包むようにして立ち上がっています。 ミズバショウというと、すぐに連想するのが、小学校時代に歌った「夏の思い出」(江間章子作詞・中田喜直作曲)があります。 ♪ 夏がくれば 思い出す はるかな尾瀬 遠い空 ♪ 霧のなかに うかびくる やさしい影 野の小径 水芭蕉の花が 咲いている・・・・ ♪ この曲の歌詞で、当時、私が気になったのは、「夏がくれば」と「水芭蕉」です。私の印象ではミズバショウは春の花でした。尾瀬では五月下旬から咲くので、その意味ではたしかに初夏です。 もう一つの芭蕉も意味がわかりませんでした。芭蕉は松尾芭蕉と『西遊記』に出て来る芭蕉扇しか知らなかったからです(笑)。後に芭蕉とはバナナのことであり、葉が似ているからだと知り、また驚きました。両者を見ても似ているように見えない。 ところが、ミズバショウは十年以上も生き続けると、葉が1メートル以上にもなる個体があるというから、芭蕉という命名はそれほど間違ってはいないようです。 分布は中部地方以北の日本海側でシベリアやサハリンにもあるというから、北国の植物です。もっとも兵庫県でもミズバショウとザゼンソウを売り物にしています。 (http://kobe.travel.coocan.jp/kami/hachikita_zazenso.htm) 山形市内でも一般に見られるものではありませんが、きれいな水がある所なら、標高の低いところでも育ちます。 通りかかった監視員に聞くと、ここのミズバショウは植えられたのではなく、元々生えていたのだそうです。環境を見ると、そのとおりだとわかります。 ミズバショウの谷を中心にして公園を作ったのでしょう。公園を一周してみて、ここで一番価値があるのはこのミズバショウの谷です。 ミズバショウもこの後のザゼンソウもサトイモの仲間で、毒性があります。ところが、クマが食べるというのです。それでいて飼育されているクマなどに食べさせるのと泡を吹くという。 (http://www.yamareco.com/modules/diary/990-detail-20786) そこで、冬眠から目が覚めたばかりのクマが身体から老廃物を出してしまうために、わざと毒性のあるミズバショウなどを食べるのではないかという説もあります。 写真下の、白い仏炎苞を良くみると平らではなく、エンボス加工がしてあります。こちらのほうが少数です。 座禅草 驚いたことに、ここではミズバショウとザゼンソウが一緒に咲いています。 両方が一緒に生えているのを私は初めて見るし、ネットで検索しても、あまり多くはありません。理由は簡単で、両者は花の咲く時期が違うからです。 ザゼンソウは関東地方では二月くらいから咲き始めます。ザゼンソウのすごい所は自分で発熱して、周囲の雪まで溶かしてしまうというのです。 ネットなどでザゼンソウの周囲の雪が溶けている写真を見るたびに驚かされます。発熱する花にはザゼンソウの他にハスがあると聞いて、またまた驚きです。ハスはレンコンでお世話になっており、またオオガハスなど毎年花を見ていたのに、気が付きませんでした。 (筑波大学菅平高原実験センターhttp://www.sugadaira.tsukuba.ac.jp/column/201005column.html) マントの真ん中にある花の部分のみが発熱します。筑波大学菅平高原実験センターの恩田義彦氏によれば、外気温に関係なく20度で、外気温が-10度でも、花は20度あり、三十度もの差があったというから、すごい。 写真下のように葉が一つなのに、花が二つ付いているものがあります。 さらには、葉がないのに花だけの物もあります。どうやら葉は必ずしもセットではないようです。 仏炎苞の中を見ると、黄色い花粉のついたタマゴ型の花(肉穂花序)が入っています。 ザゼンソウ(座禅草)の名前の由来は座禅をする僧侶の姿と似ているからです。 下図は中国禅宗の祖である菩提達磨の図です。たしかに良く似ている。達磨の絵を良く見ると、頭巾のついたガウンをまとっているのではなく、服を頭からかぶっているような感じです。このほうが瞑想に適しているというよりも、首筋を覆うことで体温を保つのに良いからでしょう。インド人の彼にとって中国は寒かったに違いない。 上図 菩提達磨(ウィキペディアから転載) 谷の周囲 幼稚園児たちが見学に来ています。子供のうちから自然に触れて、動植物をただ保護するのではなく、尊重することの大切さを学んでほしい。 ミズバショウの谷から川が流れ込むのが大平沼です。湖畔の桜がきれい。 沼には魚影が見えます。私はこの種の魚はコイくらいしか知りませんから、きっと違うでしょう(笑)。 ミズバショウの谷に流れ込む小川の一つをたどっていくと、水草が植えてある小さな池があり、大きなカエルが何匹かいます。 黄土色(写真上)と、それよりも濃い茶色(写真下左)、さらには、遠いのでよくわからないが黒っぽいカエルもいます(写真下右)。背中にデコボコがなく、近くではウシガエルのすごい声も聞こえるから、ウシガエルではないかと思います。 この植物園は、もちろんミズバショウだけではなく、様々な植物があります。林の斜面にショウジョウバカマがたくさん花を咲かせています。この近くでは珍しい植物ではありませんから、もちろん自生でしょう。 写真下は私が見慣れているピンク色の花です。 中に下のように微妙にオレンジが混ざっている花もあります。 白いショウジョウバカマもあります(写真下)。元々ここにあったのか、わかりません。離れた林の中に生えていて、数は多くない。私は初めて見ました。 林のあちこちに私の好きなキクザキイチゲが咲いています(写真下)。これも元々ここにあったものでしょう。 春の定番のカタクリが林の下に一面に咲いており、これも自生を増やしたのでしょう。 写真下は東北の春の山には定番のタムシバ(田虫葉)です。コブシなどに比べるとやや地味ですが、山を歩いていると、遠くからでも見えるのが、ピンク色の山桜と白いタムシバです。私はコブシよりも親しみがあります。花の付け根に葉があるのがコブシ、葉がないのがタムシバです。 帰る前にもう一度ミズバショウの沼に行って見ました。陽が少しずつずれると、またミズバショウも違って見えます。 |