トップページ

 

 

カモシカ君、さようなら

2016

 

 去年と違い、用があって早めに山形の春を訪ねました。三月末なんて、普通ならまだ花も少ないはずなのに、今年は春が早く、花が咲き出しています。少なくとも十日は早い。

 

DSC_8436

 

DSC_8467 DSC_8573

 

 ここで三月末にキクザキイチゲが咲いているなんてありえない話です(写真下)。今年はキクザキイチゲやカタクリなど四月中旬が盛りになる花は見られないだろうと思っていました。ところが、来てみると、この有様です。うれしいと喜ぶべきか、地球温暖化を危具すべきなのか。

 

DSC_8457

 

P1170383  DSC_8460 P1170301

 

P1170530

 

 このあたりではキクザキイチゲよりも早く咲くのがアズマイチゲです(写真下)。ところが、ほぼ同時期に咲いています。

 

DSC_8490 DSC_8492

DSC_8030 DSC_7957

 

 普段良くみかけるキクザキイチゲは写真下のようにお椀状です。これはまだ陽が十分でないからで、陽が射すと写真上のように花を広げます。

 

DSC_8078 DSC_8079

DSC_8035 DSC_7970

 

 アズマイチゲ(東一華)は名前は東ですが、九州地方まで分布しています。

 

DSC_8488 DSC_7963

 

 アズマイチゲとキクザキイチゲは似ているので、どうやって区別するか、ネットでは解説があります。しかし、両者は葉の形が明瞭に違うので、花が咲いていなくても区別がつきます。

 

P1170315 P1170145

P1170309 P1170149 P1170138

 

 キバナノアマナ(黄花の甘菜)は実家の土手にも咲いているので、どこでもある雑草かと思ったら、中部以北の日本でしか見られないそうです。ユリの仲間なので、根に小さな球根(鱗茎)が付いています。食べられるそうですが、食べないでほしい。

 

DSC_8058 P1170379 DSC_7976

 

 ヤマエンゴサク(山延胡索)が咲いています(写真下)。私は長い間、ヤマエンゴサクは無毒だと信じていましたが、ネットでは有毒だとあります。ウスバシロチョウの幼虫の餌で、したがってウスバシロチョウも毒性があるそうです。

 

DSC_8503 P1170522

 

 色に微妙な違いがあり、写真上のようなピンクと、写真下のようにやや薄いピンクがあり、いずれもとてもきれいです。

 

DSC_8412 P1170520 DSC_8375

 

 さらに、写真下はほんの白にほんの少しピンクがかった花もあります。

 

DSC_8505 DSC_8499 DSC_8414

 

 薄いピンクに少し青が混ざり、これがもっとも多い。

 

DSC_8504 DSC_8406

 

 写真下になるとほぼ真っ白で、これは少数です。

 

DSC_8395

 

 このあたりで三月末にキクザキニリンソウが咲いているのを見たのは初めてです(写真下)。普通なら二週間くらい後です。さすがに花の数は少ないが、いったいどうなっているのだ。

 

DSC_8399 P1170499

DSC_8405

 

 テングチョウがひなたぼっこをしている(写真下)。成体のまま越冬するので、春先に良くみられます。

 

DSC_8563b DSC_8558b

 

 

カモシカだ

 四月の初めならこのあたりではフクジュソウが最盛期なのに、大半がすでに終わってしまい、陽当たりの悪い所に少しだけ花が咲いています。

 

DSC_8577 DSC_8583 DSC_8590

DSC_8634 DSC_8587

 

 フクジュソウを撮っていると、山の上のほうで何かが動いている音が聞こえます。人かカモシカか、あるいはクマか?ちょっと緊張して、望遠レンズを向けると、林の間から姿が見えました。カモシカです。

 

DSC_8606b DSC_8615b

 

 近づけないので顔がよくわからない。ただ、去年と一昨年にこの近くで見かけた写真下のカモシカと似ています。

 

image130 DSC_4406b

2014(写真上左)2015(写真上右)に見かけたカモシカ

 

 近づこうとすると、カモシカは山の上のほうに登って行きました。

 

DSC_8623

 

 沢にそってショウジョウバカマ(猩々袴)も花盛りです。名前のハカマは広がった葉の様子から来たのだろうが、ショウジョウ(猩々)って何?調べてみると、猩々とは元々は仏典から来た言葉で、二足歩行の動物を表し、これが能に取り入れられ、そこでの猩々の服装が赤紫であることから、この花の名前になったようです。命名者は能に詳しかったのだ。

 

P1170469 P1170438 P1170425

 

P1170405 P1170402

 

 写真下の二つのショウジョウバカマの葉を見てください。かみ切られたように途中から切れています。おそらくカモシカが食べた跡です。

 

P1170449 P1170413

P1170396 P1170440

 

 

カモシカが寝ている

 別な日に、数キロ離れた山の斜面にカモシカを見つけました(写真下左)。もちろんカモシカのほうが先に私に気が付いたのだろうが、私がじっとして動かないのを見て、敵ではないとみなしたのか、寝そべってしまいました(写真下右)。カモシカは人を恐れないにしても、ずいぶんのんびりしたカモシカだ。今日は天気も良く、暖かいので、陽当たりの良い斜面でのんびりと昼寝を楽しんでいるらしい。

 

DSC_7656 DSC_7657

DSC_7663 DSC_7671

 

 まっすぐ近づくと逃げられるだろうから、私はわざと右に行ったり、左に行ったり、あるいはグルッと後ろを回り、ちょっとずつ近づいて行きます。私は「オレはたまたま近くを歩いているだけさ」という見え透いた素振りで歩きまわる()

 

DSC_7676 DSC_7681

DSC_7683 DSC_7690

 

 数メートル近くまで近づき、顔の模様がはっきり見えるようになりました。初めて見る顔です。鼻筋の部分がこんなに茶色なのは見たことがない。

 

DSC_7708 DSC_7719 DSC_7725

 

 数メートルまで近づき、しゃがんだままさらに近づこうとすると、カモシカは立ち上がりました・・・あっ、左前足をケガしている(写真下)。左前足が曲がったような状態で、三本足でヨロヨロと歩き始めました。

 

DSC_7729 DSC_7731

 

 のんびりと休んでいたのではなく、ケガをして動けなくなっていたのだ。私はどうやら彼を脅かしてしまったようなので「おい、無理して動かなくてもいいよ」と言って、あわてて離れました。ただ、その後も草を食べているので、必死に逃げているのとは違います(写真下左)。しばらく、離れた位置から見ていましたが、私が近くに見えるともっと移動しようとして身体に負担をかけるかもしれないので、立ち去ることにしました。

 

DSC_7735 DSC_7745b

 

 

次の日

 あのカモシカはどうなっただろうと一晩中気になりました。山形に滞在するのも翌日までです。雑用は他の人に頼んで、同じ場所に行ってみました。いました。昨日と同じ場所に座っています(写真下)

 

DSC_7757

 

 動かないなら、捕獲して治療ができます。私はすぐに山形市役所に電話して相談しました。市役所はすぐにカモシカの扱いになれている業者に連絡してくれて、約二時間後に業者とともに山に戻りました。市役所の対応が早い。カモシカは身体を横にしたまま先ほどと同じ場所にいます(写真下左)。こちらの足音に気がついて顔を上げましたから、まだ生きています(写真下右)

 

DSC_7761b  DSC_7762b

 

 業者は「逃げられた場合にはしかたありません」という。昨日のカモシカの様子から見て、人間でも十分に追いかけることはできるでしょう。

 

DSC_7766 DSC_7767

 

 カモシカは昨日は立ち上がって逃げようとしたのが、今回は近づいても立ち上げることもしません。かなり弱っている。

 私は麻酔銃とか、捕獲網のようなものを期待していたのですが、出てきたのは毛布でした()。毛布を頭からかぶせておとなしくさせます(写真下)。ちょっと逃げようとはしますが、すぐにおとなしくなりました。と言うか、弱っていて抵抗できない。

 

DSC_7768 DSC_7773

 

 輸送中に暴れられると困るので前足と後ろ足をそれぞれ縛ります。めったにない機会なので毛を触ってみました。ほとんど見た目どおりで、表面はかなり芯のしっかりした毛ですが、その下は柔らかそうです。

 

DSC_7776 DSC_7778

 

 カモシカの蹄は先が二つに分かれていて、岩場でも踏ん張れます。人間で言えば2本指で立っていることになるのだろうか。たしか馬は中指一本で立っているというから、ありえないことではありません。爪を切っているはずもないのに、先が鋭く尖っています。

 

DSC_7789 DSC_7790

 

 角で突かれると危険ですから、水道のホースをかぶせます(写真下)。この時、角にある「年輪」からこのカモシカが1415歳だとわかりました(写真下右)。角で年齢がわかるのだ!

 

DSC_7781 DSC_7784b

 

 オスで1415歳というのだから高齢です。カモシカの平均年齢は15歳ほどで、まれに20年をこすことがあるといいます。そうか、彼は老人なのだ。左前足の根元がケガしているのは昨日も分かりましたが、良く見ると、左脇腹もケガをした跡があります(写真下)。他の動物に襲われたのなら、皮膚が破けて血が出ていいはずなのに、ほんの少ししか血は出ていません。おそらく左側の身体全体を強打して、左前足を骨折したか、捻挫したのでしょう。

 

DSC_7791 DSC_7787b

 

 カモシカをタンカに乗せて運びます。彼らはこれを獣医の所に運び、治療して回復すればもっと山奥に逃がすそうです。年も年だし、かなり弱っているから、大丈夫だろうか。

 

DSC_7794 DSC_7795

 

 業者の連絡先を聞いて、軽トラックの荷台に積まれたカモシカを見送りました。

 

DSC_7802 DSC_7806

 

 後日、業者に問い合わせると、残念ながら、動物病院で死んだそうです。そうか、せっかく冬を越せたのに、逝ってしまったか・・・。彼が死んだと聞いて、毛を触った時の感触を思い出していました。

 

DSC_8534 DSC_8418 DSC_8536

 

 お別れに私の好きなキクザキイチゲを添えてあげよう。

 

DSC_8539 DSC_8538 DSC_8522

 

 

 

 

トップページ