カモシカ君、さようなら 2016年 去年と違い、用があって早めに山形の春を訪ねました。三月末なんて、普通ならまだ花も少ないはずなのに、今年は春が早く、花が咲き出しています。少なくとも十日は早い。 ここで三月末にキクザキイチゲが咲いているなんてありえない話です(写真下)。今年はキクザキイチゲやカタクリなど四月中旬が盛りになる花は見られないだろうと思っていました。ところが、来てみると、この有様です。うれしいと喜ぶべきか、地球温暖化を危具すべきなのか。 このあたりではキクザキイチゲよりも早く咲くのがアズマイチゲです(写真下)。ところが、ほぼ同時期に咲いています。 普段良くみかけるキクザキイチゲは写真下のようにお椀状です。これはまだ陽が十分でないからで、陽が射すと写真上のように花を広げます。 アズマイチゲ(東一華)は名前は東ですが、九州地方まで分布しています。 アズマイチゲとキクザキイチゲは似ているので、どうやって区別するか、ネットでは解説があります。しかし、両者は葉の形が明瞭に違うので、花が咲いていなくても区別がつきます。 キバナノアマナ(黄花の甘菜)は実家の土手にも咲いているので、どこでもある雑草かと思ったら、中部以北の日本でしか見られないそうです。ユリの仲間なので、根に小さな球根(鱗茎)が付いています。食べられるそうですが、食べないでほしい。 ヤマエンゴサク(山延胡索)が咲いています(写真下)。私は長い間、ヤマエンゴサクは無毒だと信じていましたが、ネットでは有毒だとあります。ウスバシロチョウの幼虫の餌で、したがってウスバシロチョウも毒性があるそうです。 色に微妙な違いがあり、写真上のようなピンクと、写真下のようにやや薄いピンクがあり、いずれもとてもきれいです。 さらに、写真下はほんの白にほんの少しピンクがかった花もあります。 薄いピンクに少し青が混ざり、これがもっとも多い。 写真下になるとほぼ真っ白で、これは少数です。 このあたりで三月末にキクザキニリンソウが咲いているのを見たのは初めてです(写真下)。普通なら二週間くらい後です。さすがに花の数は少ないが、いったいどうなっているのだ。 テングチョウがひなたぼっこをしている(写真下)。成体のまま越冬するので、春先に良くみられます。 カモシカだ 四月の初めならこのあたりではフクジュソウが最盛期なのに、大半がすでに終わってしまい、陽当たりの悪い所に少しだけ花が咲いています。 フクジュソウを撮っていると、山の上のほうで何かが動いている音が聞こえます。人かカモシカか、あるいはクマか?ちょっと緊張して、望遠レンズを向けると、林の間から姿が見えました。カモシカです。 近づけないので顔がよくわからない。ただ、去年と一昨年にこの近くで見かけた写真下のカモシカと似ています。 2014年(写真上左)と2015年(写真上右)に見かけたカモシカ 近づこうとすると、カモシカは山の上のほうに登って行きました。 沢にそってショウジョウバカマ(猩々袴)も花盛りです。名前のハカマは広がった葉の様子から来たのだろうが、ショウジョウ(猩々)って何?調べてみると、猩々とは元々は仏典から来た言葉で、二足歩行の動物を表し、これが能に取り入れられ、そこでの猩々の服装が赤紫であることから、この花の名前になったようです。命名者は能に詳しかったのだ。 写真下の二つのショウジョウバカマの葉を見てください。かみ切られたように途中から切れています。おそらくカモシカが食べた跡です。 カモシカが寝ている 別な日に、数キロ離れた山の斜面にカモシカを見つけました(写真下左)。もちろんカモシカのほうが先に私に気が付いたのだろうが、私がじっとして動かないのを見て、敵ではないとみなしたのか、寝そべってしまいました(写真下右)。カモシカは人を恐れないにしても、ずいぶんのんびりしたカモシカだ。今日は天気も良く、暖かいので、陽当たりの良い斜面でのんびりと昼寝を楽しんでいるらしい。 まっすぐ近づくと逃げられるだろうから、私はわざと右に行ったり、左に行ったり、あるいはグルッと後ろを回り、ちょっとずつ近づいて行きます。私は「オレはたまたま近くを歩いているだけさ」という見え透いた素振りで歩きまわる(笑)。 数メートル近くまで近づき、顔の模様がはっきり見えるようになりました。初めて見る顔です。鼻筋の部分がこんなに茶色なのは見たことがない。 数メートルまで近づき、しゃがんだままさらに近づこうとすると、カモシカは立ち上がりました・・・あっ、左前足をケガしている(写真下)。左前足が曲がったような状態で、三本足でヨロヨロと歩き始めました。 のんびりと休んでいたのではなく、ケガをして動けなくなっていたのだ。私はどうやら彼を脅かしてしまったようなので「おい、無理して動かなくてもいいよ」と言って、あわてて離れました。ただ、その後も草を食べているので、必死に逃げているのとは違います(写真下左)。しばらく、離れた位置から見ていましたが、私が近くに見えるともっと移動しようとして身体に負担をかけるかもしれないので、立ち去ることにしました。 次の日 あのカモシカはどうなっただろうと一晩中気になりました。山形に滞在するのも翌日までです。雑用は他の人に頼んで、同じ場所に行ってみました。いました。昨日と同じ場所に座っています(写真下)。 動かないなら、捕獲して治療ができます。私はすぐに山形市役所に電話して相談しました。市役所はすぐにカモシカの扱いになれている業者に連絡してくれて、約二時間後に業者とともに山に戻りました。市役所の対応が早い。カモシカは身体を横にしたまま先ほどと同じ場所にいます(写真下左)。こちらの足音に気がついて顔を上げましたから、まだ生きています(写真下右)。 業者は「逃げられた場合にはしかたありません」という。昨日のカモシカの様子から見て、人間でも十分に追いかけることはできるでしょう。 カモシカは昨日は立ち上がって逃げようとしたのが、今回は近づいても立ち上げることもしません。かなり弱っている。 私は麻酔銃とか、捕獲網のようなものを期待していたのですが、出てきたのは毛布でした(笑)。毛布を頭からかぶせておとなしくさせます(写真下)。ちょっと逃げようとはしますが、すぐにおとなしくなりました。と言うか、弱っていて抵抗できない。 輸送中に暴れられると困るので前足と後ろ足をそれぞれ縛ります。めったにない機会なので毛を触ってみました。ほとんど見た目どおりで、表面はかなり芯のしっかりした毛ですが、その下は柔らかそうです。 カモシカの蹄は先が二つに分かれていて、岩場でも踏ん張れます。人間で言えば2本指で立っていることになるのだろうか。たしか馬は中指一本で立っているというから、ありえないことではありません。爪を切っているはずもないのに、先が鋭く尖っています。 角で突かれると危険ですから、水道のホースをかぶせます(写真下)。この時、角にある「年輪」からこのカモシカが14~15歳だとわかりました(写真下右)。角で年齢がわかるのだ! オスで14~15歳というのだから高齢です。カモシカの平均年齢は15歳ほどで、まれに20年をこすことがあるといいます。そうか、彼は老人なのだ。左前足の根元がケガしているのは昨日も分かりましたが、良く見ると、左脇腹もケガをした跡があります(写真下)。他の動物に襲われたのなら、皮膚が破けて血が出ていいはずなのに、ほんの少ししか血は出ていません。おそらく左側の身体全体を強打して、左前足を骨折したか、捻挫したのでしょう。 カモシカをタンカに乗せて運びます。彼らはこれを獣医の所に運び、治療して回復すればもっと山奥に逃がすそうです。年も年だし、かなり弱っているから、大丈夫だろうか。 業者の連絡先を聞いて、軽トラックの荷台に積まれたカモシカを見送りました。 後日、業者に問い合わせると、残念ながら、動物病院で死んだそうです。そうか、せっかく冬を越せたのに、逝ってしまったか・・・。彼が死んだと聞いて、毛を触った時の感触を思い出していました。 お別れに私の好きなキクザキイチゲを添えてあげよう。 |