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ハクチョウが鉛中毒で死んだ

2016

 

 新聞にハクチョウが飛来したという記事が出ていました。茨城県はハクチョウの飛来地がいくつかあるらしい。下の四カ所にハクチョウの写真を撮りに出かけました。では、白鳥の湖ではなく、白鳥の沼に出かけましょう。

 

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乙戸沼のコハクチョウ

 一カ所目は私が住んでいる所から簡単に行ける乙戸沼という池です(写真下)

 

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 昨年2015年初頭は三十羽ほど飛来した事が新聞にも載り、私も何度か行って写真を撮りました。今年も年明けにはさぞやたくさん来ているだろうと行ってみると・・・あら?たった一組二羽しかいない(写真下)

 

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 仲よさそうなハクチョウは被写体としては悪くないが、やはりたくさんいたほうが良い。では、たくさん来ていた2015年の初めに撮ったコハクチョウを見てみましょう(写真下)

 

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 ハクチョウは一夫一婦制で、家族の絆が強いので、この三十羽ほどの群れも実は何家族かが集まっているようです。

 

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 頭が黒っぽいがまだ若い鳥のようです。嘴の黄色も薄い。半年前ほどに生まれ、飛べるようになってから数カ月しかたっていないはずです。

 

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 コハクチョウはユーラシア北部で繁殖し、若鳥は初めての長距離飛行で、はるばる海を越えて、日本まで初めてやって来ます。若い鳥と黄色の嘴の大人たちと一緒にいること多く、まだ完全自立はしてないようです。

 

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 普通に見ても大きいが、羽ばたくとすごく大きいのがわかります(写真下)。離陸するのにも、ハトのように垂直にも飛び上がれるのとは違い、水面を助走してから離陸します。百メートルも助走することがあるそうです。

 

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 この時は少し飛んで場所を変えただけで飛び立ちませんでした(写真下)

 

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 ハクチョウはネグラと餌場は違うといいますから、ここは餌場でネグラは別にあるのでしょう。助走して飛び立ちますから、ネグラは山の上や森の中とは思えません。田んぼのような広い場所ということになるが、それにしてはハクチョウのネグラだという場所の話は聞いたことがない。知られないほうがハクチョウのためには良いのでしょうけど。

 

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 白鳥と言えばチャイコフスキーの「白鳥の湖」が有名ですが、私の最近の印象に残っているのは映画『ブラック・スワン』(Black Swan2010年、アメリカ)です。飛行機の中で小さくて見づらい画面であるにもかかわらず、主演のナタリー・ポートマンの迫真の演技に引きずり込まれました。

 

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 ハクチョウに餌をやる人が現れると、沼のあちこちにいた鳥たちがいっせいに集まって来ます。

 

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 餌は食パンで、それを円盤投げのように鳥のいない所に放る。すると水鳥たちは餌めがけて全員が殺到する。水は激しく波立ち、鳥たちの鳴き声が飛び交います。

 

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「あ、そこのウスラでかい奴、パンを独り占めしたな!」

「先に取った者の勝ちだよ~ん」

「少し、ちょうだい」

「やだよ~。僕のもんだ」

などという会話があったかどうかわかりません()

 

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「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ (若山牧水)

という有名で美しい歌があるので、ハクチョウと言えば、優雅で気品があるというイメージで見てしまいます。しかし、餌の奪い合いをしている姿は普通の鳥で、『白鳥の湖』はお伽噺です()

 

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ハクチョウの昼寝

 ここまでは昨年2015年初めの賑わいです。しかし、今年が2羽ではあまりに寂しい。二月になってから行ってみると、昨年ほど多くないが、二十羽ほどのハクチョウがいました(写真下)

 

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 冬の陽ざしを浴びてのんびりと漂っていると、おや!ハクチョウが水に浮いたまま目をつぶってしまった。昼寝をしている。写真下の手前のハクチョウは写真下左は目を開いているのに、写真下右では目をつぶり頭が下がっています。

 

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 よく見ると、居眠りしているハクチョウは珍しくない。この状態で長く眠ることはなく、時々目を開けて、また眠るということを繰り返しています。日差しが暖かく、お腹いっぱいで、敵もいないから、ついウトウトするのでしょう。

 

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 写真下左のようにハクチョウは眠る時は頭を後ろの身体に乗せて眠りますから、写真上は居眠りです。写真下右の手前は居眠り、奥は睡眠中です。短時間の睡眠だから、夢を見ているはずです。ハクチョウの見ている夢とはどんな夢なのだろう。バレリーナになって『白鳥の湖』を踊る()

 

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ハクチョウの区別

 日本に来るハクチョウはオオハクチョウ、コクハクチョウ、コブハクチョウ、アメリカコハクチョウの四種類いて、私はこの内の三種類を見ました。写真下左がオオハクチョウ、下右がコハクチョウ、下段がコブハクチョウです。この中で区別がつきにくいのがオオハクチョウとコハクチョウです。オオハクチョウのほうが大きさという以外にはほとんど区別がつきません。両者を区別する方法は、嘴の黄色い部分の違いです。

 

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写真上左 オオハクチョウ、写真上右 コハクチョウ

写真下 コブハクチョウ

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 嘴の先のほうまで黄色い部分が長いのがオオハクチョウで、短いのがコハクチョウらしい。ところがこの方法も実際にはなかなか難しく、例えば、写真下右などはオオハクチョウだとは思うが、素人目には迷うような固体もあります。

 

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菅生沼のオオハクチョウ

 茨城県の坂東市と常総市の間にある菅生沼にもハクチョウがいると聞いて、訪ねてみました。下の地図を見ればなんとなくわかるように、沼というよりも、利根川の支流の一つで、それが沼と湿地帯を作り出したのでしょう。菅生沼は一つの沼ではなく、大まかに二カ所に分かれています。離れているので、菅生北沼とか南菅生沼など、別な名前にしたほうがわかりやすい。

 

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 まず天神山公園のある北側の菅生沼に行きました。何日か前に降った雪が残る寒風の中、カメラを据えた人が一人だけ座っています(写真下)。池にはカモなどがたくさんいるが、肝心のハクチョウの姿がない・・・いや対岸の岸辺にハクチョウらしい姿がかすかに見えます。

 

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 やがて二羽が池の中で餌を取り始めました。嘴の模様からみて、オオハクチョウらしい。

 

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 ハクチョウがだんだん近づいてきたので期待していたら、何かに怯えたのか、元いた対岸に飛び去ってしまいました。南側の菅生沼にも行きましたが、そちらはハクチョウはまったく見かけませんでした。

 

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コブハクチョウを見に行こう

 コハクチョウとオオハクチョウを観たので、茨城県の霞ヶ浦の南にある稲敷市の「稲波干拓地」にコブハクチョウを見に行きました。いました。でも、たった二羽です。

 

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 コブハクチョウという名前どおりに、顔にコブが突き出ていて、しかも、嘴は赤いので明瞭に区別がつきます。他の池はオオハクチョウやコハクチョウなのに、どうしてここだけコブハクチョウなのだろう。ウィキペディアを見て驚きました。この二羽の事が書いてある。

 

1975年に北海道の大沼国定公園につがいが観賞用に導入され、生まれたひなのうち7羽が1977年からウトナイ湖に定着し、1978年から繁殖を始めた。ウトナイ湖の個体は茨城県霞ヶ浦に渡り越冬していることが確認されている。」(ウィキペディアから転載)

 

 北海道のウトナイ湖から冬の間だけこちらの霞ヶ浦に来ていたのです。日本国内の渡り鳥です。人間が持ち込んだのだから完全な野生というわけではないが、日本に帰化してしまったようです。ついでに、もっと仲間を連れて来てくれるとうれしいのだが。

 

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遠州池のオオハクチョウ

 茨城県中部の小美玉市にある遠州池と池花池にオオハクチョウが飛来しているという。

 

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 池花池に先に行くつもりが、道を間違えて遠州池に着いてしまいました。これがオオハクチョウらしいが、見た目にはコハクチョウと明瞭に区別がつくほど大きくはありません。素人には大きさだけでは両者の区別はつかない。

 

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 ハクチョウがいることはいるが、あまり数は多くない。私がいる間にハクチョウを見物に来たのは三人ほどです。たまたま周囲にいた人に聞くと、前はハクチョウがたくさん来ていたが、餌付けをする人がいないせいか、だんだん減ってしまったそうです。

 

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 池を見ると、減った理由もわかるような気がします。農業用の貯水池のために周囲がコンクリートで囲まれている。これでは水鳥は棲みにくいし、なによりも水草など水棲植物が育ちません。ハクチョウはマコモなど水に生える草を食べていますから、これがなければ来ないのは当たり前です。

 

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 餌付けをやめるとハクチョウが来なくなる例は他にもあるようです。この反省から、ハクチョウが飛来する山形県酒田市では、餌付けだけでなく、ハクチョウの主食であるマコモを植える地道な努力をしています。1966年に7羽だったハクチョウが現在は一万羽も飛来するようになっています。

 

 

池花池のオオハクチョウ

 もう一つの池花池に行ってみましょう。池花池には、池に突き出た観察場所が設置されています。

 

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 こちらは白鳥の数が多い。遠州池よりも水がきれいなのか、青さが強い。

 

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 ここにも若鳥が混じっています。写真下左が大人、右が若鳥です。大人になってから嘴が黄色になるのだ。パッと見ると、別な鳥かと思うほど顔の印象が違い、若鳥は身体のでかいカモかと思ってしまう()。もっともハクチョウはカモの仲間です。

 

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 遠州池と違い、ここはたくさんのお客さんが来てはハクチョウに餌を与えています(写真下)。私がいた一時間くらいの間に十組くらいの人たちが次々と来ました。地元の人なのでしょう。餌を持って来なかったのは私くらいです。

 

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 池花池のほうがハクチョウが多い理由は、人間が餌付けをしているだけではなく、この池には食べ物があるからです。それが写真下のヒツジグサです、と言いたいところですが、これはスイレンだそうです。

 

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 ネットなどでは池花池の水草はヒツジグサだと書いてあります。地元の人からそのように教えられたという。ところが、水生植物の専門家のホームページを見ると、池花池に生えているのはヒツジグサではないとバッサリと切り捨てています。

 その方の説明によれば、元々はこのヒツジグサがあったそうです。ところが、誰かがスイレンを植えてしまい、それが広がり、ついにはヒツジグサを駆逐してしまったというのです。前からヒツジグサの自然群生を見てみたいと思っていたので、夏になったらヒツジグサを見に来るつもりでいた私はこの話を読んで、がっかり。

 

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 ハクチョウが他の仲間を激しく噛みついて追い立てています(写真下)。水鳥では良くみられる。外見と違い、ハクチョウも優雅でお上品ではありません。

 

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ハクチョウが鉛中毒で死んだ

 私が池花池にハクチョウを見にいった後に、新聞に池花池で白鳥が8羽死んだというニュースが飛び込んできました(毎日新聞、201627)。同様に、他の茨城県内の池でもハクチョウが死に、合計12羽が死んでいるのが見つかりました。外傷もないから密猟ではありません。冬ですから、鳥インフルエンザが疑われたが、陰性でした。

 

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 原因がわかったのはその二カ月ほど後で、鉛中毒でした。北大に調べられた5羽のハクチョウのうち、3羽の肝臓から高濃度の鉛が検出されたのです(毎日新聞、201642)

 犯人は猟に使われる散弾銃の鉛弾です。

 

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 鉛中毒で鳥が死んでいるのを初めてお聞きになった方もいるかもしれませんが、実はだいぶん前から問題になっていました。散弾が射撃で鳥の身体に入るだけなく、飛散した散弾が砂の中に紛れ込み、鳥などが小石と間違えて鉛を飲み込んでしまい、鉛中毒を起こすのです。

 

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 日本では2014年にようやく北海道のみは鉛弾の使用が禁止されました。北海道ではオオワシやオジロワシなどが次々と鉛中毒で死んだからです。これは鉛の散弾で撃たれたシカなどをワシが食べたためです。しかも、禁止対象はシカやクマの狩猟のみでカモなどに対しては禁止されていませんから、努力して法律を作った方々には失礼だが、ザル法です。

 北海道以外の日本では鉛弾が野放しです。

 

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 これだけ鉛中毒が問題になっているのに、どうして日本全体で中止しないのか、皆さん不思議に思いませんか。理由は、鉛弾が散弾銃の玉としては非常に優秀で、完全に代わる代用品がないからです。つまり、狩猟をする人たちの身勝手、エゴです。

 

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 鉛の危険性は世界的にも前から指摘され、先進国の間では鉛を使わない方向に変わりつつあります。電気製品がそうで、2006年からEU内での規制に応じて、鉛は使われていません。今は、電気の配線で用いられるハンダも鉛の入っていないハンダが多く用いられています。

 

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 しかし、一方で散弾銃の例のように、必ずしも鉛への人々の意識は十分ではありません。量販店で売られていた水草は鉛のリボンで束ねてありました。店員に、世界の流れは鉛フリーだから、別な物を使ってはどうかと告げても、何を指摘されたのかもよくわからないという顔でした。

 また、コンクリートの壁にネジを固定するのに、穴を開けて鉛の筒を打ちこむ方法があり、これも量販店で堂々と売られています。壁だから無害だと思うのは間違いで、いつかはその建物は壊されるのだから、コンクリート壁と一緒に鉛が廃棄されることになります。

 

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 ハクチョウのような大型の鳥が鉛中毒で死んだというのは恐ろしい話で、人間の口にも鉛が入り込んでいる可能性があります。

 魚介類を多く取る日本人の髪の毛には、欧米人よりも水銀が多く含まれています。マグロなどの大型の魚は海の中では食物の頂点にいるから、水銀が濃縮され、それを食べる人間はもろに水銀に汚染される。だから妊婦に大型魚を食べさせてはいけません。元は人間が水銀を自然界に垂れ流しにしたからで、そのツケを払っているのです。同様に、今のように散弾銃で自然界に鉛をばらまけば、やがて人間の食べ物の中に戻ってきます。

 これを読んだ方だけでも、散弾銃はもちろんのこと、自分の周囲に鉛がないか、気を付けてください。結局、それは自分を守ることです。

 

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