クロユリを見に雪山登山! 2017年 東北地方でクロユリが生えているのは月山と飯豊山のみです。飯豊山は山形県と福島県の県境にあり、山形市からも遠いし、登るのもけっこう大変な山です。その点、月山は山形市内から簡単に行けます。咲いている期間が六月末から七月上旬ですから、梅雨と重なり、登山日を選ぶのも大変です。 天気予報とにらめっこして、2017年6月29日に出かけました。 登山口の姥沢駐車場に到着(7:23)。それほど車は多くありません。月山は山開きは七月上旬で、まだ登山が本格的には始まっていないからでしょう。 駐車場からリフト下駅までの斜面には残雪がかなりあります。ここでさえこの雪では、山の上の雪が気がかりです。 リフト乗り場に行くと・・・あら、動いていない。山開きの前なので、8時からの運転だとは知りませんでした。 晴れた空の下のリフトは気持ちが良い。遠く朝日連峰が見えます(写真下左)。 リフトの上からいろいろな花が咲いているのが見えます。蔵王でも良くみかけたオオカメノキとムラサキヤシオツツジが咲いています。 写真上 オオカメノキ(大亀の木) 写真上 ムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅) ニッコウキスゲは夏の月山では良く見られるが、この時期はリフトのある1500m以下でしか見られません。 写真上 ニッコウキスゲ(ゼンテイカ、禅庭花) ここで一番目を引いたのが写真下のフキノトウです。周囲にあるフキの葉と比較すればわかるように、かなり大きく、最初はフキノトウだとわからなかったほどです。実を結ぶ時には80cmにもなるとありますから、これがそうなのでしょう。 写真上 フキ(蕗) 雪山登山! リフトの上駅に着いて、不安は当たり、目の前にある姥ケ岳の山頂まで一面に雪で覆われています(写真下左)。山菜取りに毎日のように登っているというおじさんに積雪の状況を聞くと、月山山頂までは行けるが途中は雪が多いという。 前回の二年前は姥ケ岳経由で月山に登りましたが、山菜取りのオジサンの話を聞いて、姥ケ岳はあきらめて、牛首までの直行ルートに変更しました。 雪でもなんでも、こうなったら腹を決めて登るしかない、と激しく決心したところで、私はエライことに気が付きました。車にストックを忘れて来た!雪があると聞いていたので新しいストックを買い、忘れるといけないと、わざわざ前日に車の中に入れておいたのに忘れた。まったく年はとりたくない、と普通の老人はぼやくだろうが、私の場合は若い頃からこの調子なので気にならない(笑)。もちろんアイゼンなんて結構な物は装備しておらず、登山靴一つで雪山を登ることになりました。もちろん、私は冬山登山なんてしたこともない。 グループで登山する人たちが私と同じように牛首を目指すようなので、私は後ろからついて行くことにしました(8:13)。雪でどこが道なのかわからないので、他人の歩いた跡をたどるしかない。ご覧のように、完全に雪山登山です・・・花を見に来たはずなのに。 元々足の遅い私がストックも持たず、カメラを抱えながら、よろよろと雪の上を歩いて行くのだから、だんだん引き離されて、やがて彼らは雪原の向こうに消えてしまい(写真下)、私は一人でトボトボと進むことになりました(笑)。 雪そのものより怖いのは、この斜面のように雪が溶けて凍った状態です。一見、雪のように見える氷が危ない。雪は一度溶けて固くなっているので、人間が歩くことはできるが、斜面なので非常に滑りやすい。スキーには好都合でしょう。実際、スキーをしている人がいます(写真下右)。 いくら雪国に育って慣れているとはいえ、もう怖いのなんのって、一歩一歩、細心の注意を払いながら進みます。こんな所で滑って転び、捻挫や骨折でもしたら、死活問題です。 ようやく雪原を渡り終えて雪のない山道に出て、ホッとしました(8:45)。牛首のだいぶん手前のようです。たかだか三十分ほどの雪原でしたが、緊張で三時間くらい登ったように疲れました(笑)。ただし、これで終わったわけではなく、この後も頂上まで何カ所か雪原を渡りました。 初夏の高山植物 冬山を通過して、ようやく夏山に到着(笑)。さっそくコイワカガミが出迎えてくれました(写真下)。 写真上下 コイワカガミ(小岩鏡) イワカガミの岩は岩のそばに生えている意味で、鏡とは葉がテカテカして反射するからだそうです。 ミヤマキンバイが登山道の花壇のようになって咲いています(写真下)。 写真上下 ミヤマキンバイ(深山金梅) 葉がイチゴの葉と似ています。両方とも同じバラ科です。低地のキジムシロに相当するのだろうが、こちらのほうが花も大きく、群落しています。 本州中部から千島列島やサハリンにも分布しています。 写真下は、写真上のミヤマキンバイに花が似ていますが、まったく別種です。数はミヤマキンバイが圧倒的に多い。 写真上 ミヤマキンポウゲ 写真下は夏の高山の定番のハクサンチドリです。ランらしく華やかさがあります。 写真上 ハクサンチドリ(白山千鳥) 写真下は葉に黒い模様があり、その様子がウズラの卵に似ていることからウズラハクサンチドリと呼ばれているようです。 三度目のシラネアオイ シラネアオイです(写真下)。今年はこの花を目当てに二度も蔵王に登りました。まさか月山で三度目が見られるとは期待していませんでした。 写真上下 シラネアオイ(白根葵) 蔵王などではこの時期にはもう終わっているはずで、いくら月山でも六月末にこれだけたくさん咲いているのは、今年は夏が遅いからでしょう。 オシベを見ると、真新しいのは少なく、花の多くが「人生の後半」なのがわかります。周囲のクマザサが邪魔で、草刈りしたいくらいだが、案外、両者は共存しているかもしれないで、うっかり手は出せません。蔵王でもそうだったが、シラネアオイはこういうヤブの中に生えていることがあります。こういう環境が好きなのか、それとも人が入りこめないから残ったのか、いずれにしろ、撮るのに苦労する。 ここは薄紫よりも薄ピンクの花が多い。 また雪 二カ所目の雪原です。こちらはロープも張ってあり、人の足跡もはっきりして道がわかりやすい。危なさは同じです。 私は緊張でガチガチになっているから疲れるが、雪道は起伏がなく平らですから、その点では歩きやすい。 ヒナウスユキソウもいかにも高山植物です。深山に咲く薄い雪の草なんて、素敵な名前を付けてもらいました。深雪は勘弁してほしい(笑)。欧州のエーデルワイスも「高貴な白」という意味です。 写真上下 ヒナウスユキソウ(雛薄雪草) 東北地方の日本海側の高山にだけに生えています。東北地方よりも南に生えているのは、ミネウスユキソウなどの別種です。白い花弁のように見えるのは葉(苞葉)です。 月山の頂上手前の急峻な登りにさしかかりました(写真下)。普段ならここが一番きつく感じられるのだが、雪で滑る心配がないので今日は楽です(笑)。 眼下に先ほど歩いた雪原が見えます。標高が低い山に雪があり、高い山に雪がないのがおもしろい。 写真上左 ミヤマリンドウ(深山竜胆) お地蔵さんの超能力 急峻な坂の途中にお地蔵さんが立って・・・いない(写真下左)。えっ?まさか、こんな所から地蔵を盗んだ奴がいる??黄金の仏像ならともかく、ただの石(失礼!)を盗むとは、なんという物好き。 良く見ると、お地蔵さんは岩の室の中に横に寝ています(写真下)。誰かがいたずらして壊したのだろうか。事情は帰りにここを通りかかった時にわかりました。 写真下は下山する時の様子です(12:31)。なんと、午前中はなかったお地蔵さんが台座の上に立っている!赤い鳥居も午前中はなかった。私は雪に幻惑されて見間違いをしたのか、あるいは月山のお地蔵さんは超能力で定位置に戻ったのか(笑)。 周囲に設置の作業を終えた人たちが一休みしていました。話を聞くと、雪の力で壊されてしまうので、冬の間は台座から外して室に収めるのだそうです。たまたま私はその作業日に登ったらしい。お地蔵さんの超能力でなくて残念(笑)。それにしても、重い石まで動かしてしまうとは雪の力とは恐ろしいものです。 写真上 ハクサンハタザオ 月山はチングルマが多く、しかも蔵王などでは咲き終えている七月末まで咲いています(写真下)。六月末はまだ咲初めなのか、今回はあまり数は多くありませんでした。 写真上 チングルマ(珍車) 山頂に登れない! 急峻な坂を登り切った所にある石碑を通過すると(写真下左)、頂上付近の湿原に出て、向こうに山頂にある月山神社の建物が見えてきました(写真下右)。 頂上付近にある有料トイレに立ち寄り(写真下左)、山頂にある月山神社に行くと、「門内立入り禁ず」と看板が立っていて閉鎖されています。登山客の一人が「ここでお守りを買おうと思っていたのになあ」とぼやいています。 ここは500円の加持祈祷を受けないと山頂には入れません。私は最初から入るつもりはないから、どうでもよいが、山頂まで行きたい人が行けないというのはずいぶんな話です。まだ山開きしていないから宮司が来ていないのでしょう。しかし、六月末ですから、山頂付近だけでも数十人の登山客がいて、しかもひっきりなしに登ってきます。 月山は神社の私有地だからと山頂を独占するなら、登山客の多いこの時期に常駐するか、開放するのが当たり前でしょう。ここの神社のご神体は月山ではなく商魂らしい。 神社の周囲に建てられた石碑の陰気臭さと違い、周囲はとても素晴らしい景色です。北側に、秋田県との境界にある鳥海山が見えます(写真下右)。あちらもずいぶん雪が多い。 写真上 キバナノコマノツメ(黄花の駒の爪) クロユリ 月山のクロユリは山頂付近にしか生えていません。道以外は立入禁止なので、道の周囲を必死に探すと、かろうじて、花が咲いたクロユリを4本、ツボミを1本見つけました(写真下)。いずれも高さはせいぜい10cm程度で小さい。他の登山客が「クロユリがありませんね」と言うので、生えている所を教えてあげました。そのくらい数も少なく、探しにくい。 写真上下 クロユリ(黒百合) 今年は残雪の多さを見ても夏が遅く、おそらくクロユリの盛りは一週間から十日くらい遅れているのでしょう。 クロユリは北海道の低地などに生えている背の高いエゾクロユリと、北海道や本州の高山に生えるミヤマクロユリの二種類があります。月山はミヤマクロユリです。 クロユリはオシベだけの雄花と、オシベとメシベのある両性花があるといいます。しかも、複数の花を付けると雄花と両性花とか同時につくというから、おもしろい。 (http://www.pref.ishikawa.lg.jp/hakusan/kuroyuri/kuroyuri4.html) そう言われてみると、今回見た花はすべて黄色いオシベだけを付けた雄花のようです。 ハクサンイチゲのお花畑 クロユリは探すのにも苦労するほどだったが、ハクサンイチゲは真っ盛りでお花畑が広がっています。登って来た途中にも多かった。 写真上下 ハクサンイチゲ(白山一花) ハクサンイチゲの解説を読んでびっくりしたのが、白いのは花弁ではなく、ガクで、花弁はないというのです。なんのためにわざわざ花弁を衰退させて、ガクを発達させたのでしょう?? 花弁のように見えるのがガクだから、稀に先祖返りした薄緑色の花もあるそうです。植物の進化はおもしろい。 皆さんも熱心に花の写真を撮っています。山頂にありますから「天空の花園」という雰囲気です。 帰り道はどっちに行こうか 山頂付近のハクサンイチゲの群落の中で食事を取った後、下山します。雪を考えると、同じ雪原か、それとも午前中は避けた姥ケ岳のコースか、私は選択に迷っています。 写真上 ショウジョウバカマ(猩々袴) 大きな岩に張り付いてイワウメが見事に咲いています(写真下)。ウメと名前は付いているが、梅の仲間ではありません。 写真上下 イワウメ(岩梅) 日本からサハリン、シベリア、カムチャツカなど広く分布し、これで樹木だというから驚きです。 写真下の登山客は山道を外し、わざと雪の上を歩いています。アイゼンとストックがあれば、土の岩が出ている山道よりも平らな雪の上のほうがはるかに歩きやすいからです。並行して雪のない道を歩いている私を簡単に追い抜いて、やがて見えなくなりました。 写真下はこんな急斜面でスキーをしている人たちです。これらの写真はカメラを傾けてはいません。 姥ケ岳を経由する 雪道はできるだけ歩きたくないが、いずれにしろ雪道が避けられないなら、午前中と違い、姥ケ岳を通ってみることにしました。姥ケ岳が近づくにつれて、イワイチョウが増えてきました(写真下)。 写真上 イワイチョウ(岩銀杏) 姥ケ岳山頂に到着(13:58)。幸い、山頂までの道にはほとんど雪がありませんでした。問題はこれからです。 姥ケ岳近辺で良くみかけるサクラソウがヒナザクラです(写真下)。でも、数が少ないから、まだ最盛期ではないのでしょう。 写真上 ヒナザクラ(雛桜) ここからリフト上駅まではそれほど距離はありません。しかし、途中の下り坂がきつくなるあたりから雪原です。それもシャーベット状の雪の斜面ですから、そうとう怖い。 雪の上にロープ(ザイル)が張られているが、登るのと違い、下りでは役に立ちません。私の前を歩いている女性客はガイドらしい若い人に支えられながらも、何度も滑りそうになって苦労しています(写真下)。 予想と違い、私はここは楽々と降りました。靴のかかとを雪に突きたてるように降りて行くと、滑ることなく、簡単に降りられました。気温が高くなって雪はシャーベット状で、かかとで雪を掘り起こすようにめり込ませると、ブレーキがかかり滑らないのです。つま先を反ったままなので筋肉的にはつらいが、滑る心配がないので、かなりの速度で降りられます。 私のこの変な降り方が他人からはよほど危なく見えたらしく(笑)、先ほどから前後して歩いてきた女性から、ストックを一本貸しましょうかという申し出を受けました。私は、午前中の怖さに比べたら問題なく降りられると、お礼だけ言いました。彼女はアイゼンを装着し、ストック2本で楽々と雪の斜面を降りて行きました。先ほどの雪の斜面を歩いていた男性など、アイゼンの威力に驚きました。私は冬山なんて登ったことも、登る気もないので、アイゼンなんて頭の隅にもなかった。 リフトで降りて(写真上右)、姥沢の駐車場に到着(14:55)。朝方よりも車の数が増えている(写真下)。 まさかこれほどの雪山登山になるとは予想しませんでした。この時期の月山はストックはもちろんのこと、脱着の簡単な簡易型のアイゼンも必要だと痛感しました。目的のクロユリは見られましたが、今年はまだ時期が早いようで、次回に期待しましょう。 |