丸池様とバイカモ 夏の暑い2018年7月24日に、涼を求めて牛渡川(うしわたりがわ)のバイカモ(梅花藻)を見に行きました。牛渡川は山形県北部の日本海に面した遊佐町(ゆざまち)にある川です。六月頃から咲き始めるので、時期的には後半です。 私の住んでいる山形市からは出羽山地を越えて、車で約二時間少しかかります。 牛渡川のそばにある箕輪鮭孵化場(みのわさけふかば)に到着しました。日本海から牛渡川に遡上してくるサケをここで捕獲して卵を取るための施設です。今は時期ではないので、ひと気はありません。 バイカモ 孵化場の前を流れている牛渡川にバイカモが生えています(写真下)。 衛星写真(写真下左)と国土地理院の地図(下右)を比較すると、牛渡川は孵化場のために流れを変えたようで、現在、バイカモが見られるのは人工的に作られた川のほうです。 孵化場をすぎると川は山に沿って流れ、こちらによりたくさんの青々としたバイカモが生えています。川幅のわりには水量が多く、すごい勢いの流れです。 水草って、どうして見ていると気持ちが良いのでしょう?私は水草を見ていると飽きない。陸上の植物と何が違うのかよくわからない。ここのバイカモのように水に揺れているのが一番だが、水の中に水草が浮いているだけでも心地よい。水が理由なら魚でもいいはずなのに、私の場合は魚は食うこと以外にそれほど興味がなく(笑)、関心は水草です。 目の前にいつも水草があったら良いなと、昔、水槽に水草だけを育てようとしました。本を参考にいろいろとやってみたが、うまく育ちません。結局、アフリカン・ランプアイというメダカを入れたところ、水草が育つようになりました。だが、後に私のミスで魚を死なせてしまいました。毎日、目を合わせていた相手を自分の不注意で殺してしまったのは後ろめたく、水草の飼育もやめてしまいました。 上流のほうではバイカモの花が咲いています(写真下)。 バイカモはキンポウゲの仲間だというから、ちょっと驚きです。水辺のキンポウゲと言えば、タガラシ、キツネノボタン、ウマノアシガタ・・・区別がつかないが、どれも黄色い花を咲かせます。こちらは白です。 私と同じように涼を求めて、観光客が来ています(写真下)。ただ、人数はそれほど多くなく、バイカモが生えている川は全体で200mほどなので、ひととおり見てしまうと皆さん帰ってしまいます。 長くいるのは写真下の二人で、本格的に陣取ってバイカモの撮影をしています。 水はきれいで豊富で、バイカモはとても素晴らしい。だが、見た目で言うなら、川の堤防をコンクリートではなく、石で作り直すべきです。直線のコンクリ―トは、一言で言えば、みすぼらしい。ここは鳥海山をひかえ、鳥海石という安山岩の庭石で有名です。最近は庭石は人気がなくなったのだから、なおさら地元の石を取り入れて、川の南側に庭園でも造ってはどうでしょう。 ここだけでなく、日本はどこの河川を見ても、「コンクートと直線」で出来ている。安い金額で河川を改修するのにはこれが一番だというはわかります。しかし、効率一辺倒の時代は過ぎており、ましてや、ここは自然を楽しむ観光地です。曲線の水草が曲線的に水に揺れているのに、周囲を無粋なコンクリートで直線的な囲むというのは美観に反します。 河川は水の供給や治水の対象あり、同時に景観や憩いという重要な生活環境の一つです。 日本庭園に見られる曲線の組み合わせを取り入れてははどうでしょう。私自身は日本庭園は人工的な感じがして好きではありません。父が盆栽などをやっていたから、逆に苦手です(笑)。ただ、西洋庭園の計算したような幾何学的な直線や曲線に比べて、自然を模倣しようとしている点は評価できます。日本はこういう伝統的な美観を持っているはずなのに、どうして直線のコンクリートなのだ? バイカモだけでなく、写真下のような細長い水草も一部で見られます。市販されている水草のバリスネリアに似ていますから、たぶんセキショウモです。ただ生えていたのはほんの一部です。 気になったのが、川が森林の中に入る入口のあたりの川底で、灰色の藻のような物が生えています(写真下)。いったい、これは何なのだろう?枯れた水草ではなさそうだし、私がこれまで見た範囲でいうなら、生活排水が処理されないまま流れ込むような汚い水路にこういう灰色の藻が生えていました。しかし、ここは山から湧き出たばかりの清流ですから、考えにくい。この藻はここにしか生えていませんでした。 豊かな湧き水 牛渡川は小さな川なのに、この豊かな水がどこから来ているかは下の地図を見れば一目瞭然で、東にそびえる鳥海山(標高2,236m)です。鳥海山に降った雨が地面にしみこみ、伏流水となって流れ出たのが、牛渡川などです。鳥海山の伏流水は日本海の海底でも湧き出ているほどです。 写真下のように川の土手から水が流れ出ている所が何ヵ所かあります。小川が流れ込んでいるのではなく、いきなり土の中から水が出ています。このあたりは伏流水だらけらしい。 水路に沿って東に進むと、川は森の中に入り、通路側の両側は杉などの樹木で覆われています(写真下)。 森林の中では水面には陽が届きにくくなるので、バイカモはそこで完全に消えました(写真上下)。水量や流れはほとんど変わらないのに、ちょっと陽ざしがなくなるとバイカモは育たないのだ。バイカモだけでなく、水草はまったく見られません。 バイカモは私の住んでいる地域でも昔は小川の中に見られました。ところが、河川改修と汚染が進むにつれ、あちらこちらの川から消えていきました。山形だけでなく、秋田、岩手、福島でもバイカモは準絶滅危惧種に指定されるほど減っています。 汚染とは、生活用水や農薬だけでないようで、私の自宅に流れている小川に昔はバイカモが育ったのに、今でも見た目はきれいでも、上流に住宅地ができてからは育ちません。それでいて雨水だと育ちます。この意味では、バイカモを入れると、その水が汚染されているかどうかすぐにわかります。 バイカモは孵化場の前の川にはあるが(写真下左)、そこから下流では急激に減って、百メートルもいかないうちに消えてなくなります(写真下右)。 このように、バイカモが生えている場所は限定的です。一番の見どころは孵化場から東側で、下図のバイカモが「すごくきれい」はわずか100mほどで、それよりも上流は森林で陽があたらないのでありません。孵化場の前の川は「生えている」とあるように、上流よりも密度は下がり、孵化場を離れたあたりから急激に減少し、さらに100m下流では完全になくなります。 上流にバイカモがないのは森林で陽が当たらないからなのはわかるが、問題はそこから200mほど下流では急激に減り、300m先では全滅していることです。これはいくらなんでも変ではないか。生活用水や農業用水が流れ込んでいないのだから、もう少し生えていてもいいはずなのに、いきなりなくなっています。 原因はおそらく孵化場です。孵化場の終わったあたり、つまり孵化場で使用された水が排水されたあたりから、急激にバイカモは減っています。孵化場は一時期しか使用しないが、バイカモに致命的な水を流しているのでしょう。孵化場は漁業には必要なのだろうが、排水を濾過して、混入物を徹底的に除去するべきです。 周囲の茂みには夏の花が咲いています。陸地の植物にも水が豊かでありがたい環境でしょう。 川辺のオレンジの花はクルマユリとヤブカンゾウです(写真下)。 写真上左 クルマユリ(車百合)、写真上右 ヤブカンゾウ(藪甘草) ヤマユリは花が重さで垂れてしまい、水面につきそうです(写真下)。 写真上 ヤマユリ(山百合) 写真下は背中の部分が少し曲がっているから、ヤマアカガエルでしょう。一年を通して、水量が変わらないというから、カエルにとっては住み心地の良い場所なのでしょう。 写真上 ヤマアカガエル(山赤蛙) 「丸池様」という名前の池 孵化場の北側に「丸池様」という奇妙な名前の池があるので行ってみましょう。シャケ君が丸池様はあっちだと教えてくれています(写真下右)。 丸池様に丸池神社が祭られ、池の周囲一帯が神域になっています。神道ではよくあることで、丸池様そのものが御神体で信仰の対象です。個人的には信仰そのものはどうでもよいが、信仰によって自然環境が守られるのなら大賛成です。 丸池様が御神体なら、写真下左のように池を背景として社を建てるべきで、写真下右のように、池と対面する配置はおかしくないでしょうか。 看板には魚を採ってはいけないとあります(写真下左)。神様の魚を捕ろうなんて不届きなヤカラには神様が罰を加えてくれてかまいません(笑)。 魚を放してはいけない、と書くべきでしょう。ネットによれば、この池にはスナヤツメ、カンキョウカジカ、アユカケ、イバラトミヨなどという聞いたこともないような魚が棲んでいるらしい。いずれも減少や絶滅危惧種の魚ですから、もし、誰かが外来種の肉食魚でも放てば全滅します。 「この池は、県内唯一といわれる湧水のみを、水源としています。直径約20m、水深3m50cm。水はあくまで冷たく澄んでおり、水中の倒木さえもなかなか朽ち果てず、まるで龍のごとく池底にひそんでいます。「丸池様」なる信仰の対象となっており、けっして魚など捕ってはなりません。この「丸池様」の社叢(しゃそう・・人が手をかけず勝手に育ってきた、神社の林、聖なる森という意味)は全くの原始林なので、町の天然記念物にも指定され、保護につとめております。 1996年9月 遊佐環境百年委員会」 この看板の記述で気になるのが二点。一つは、「丸池」ではなく「丸池様」と表記するべきです。池に「様」がついているなんて、日本中探してもたぶんないでしょう。せっかくこんなおもしろい名前がついてしまったのに、丸池なんて平凡な名前に戻すのはヤボというものです。 二つ目は「全くの原始林」という言葉です。写真下左を見てください。神社前の道路と池を隔てて杉が立っています。直線ですから、どう見ても、人の手で植えられたものです。道路反対側の山は杉木立ちで、これもどう見ても人工林です(写真下右)。 ここは水分が豊富なので、水を好む杉を植林したのであって、元々は杉などなかったのではないか。杉の植林が行なわれたにもかかわらず、その後は木材の値段が下がり、さらに「社叢」だから手を付けてはならないことになり、放置されたのではないか。だから、写真下右の杉などヒョロヒョロです。 原始林と言えるのは、池の周囲のわずかな林にすぎないのでしょう。こういう中途半端なことをせずに、私なら、人工的に植えられた樹木は少しずつ切り倒して、自然に樹木が増えるのを待ちます。 池の周囲にはロープが張り巡らされ、立ち入り禁止の看板があります(写真下)。 池のそばにいけるのが、写真下左の神社のそばの手洗い場だけです(写真下左)。池に誰も近づけないように、こういう場所さえも廃止したほうが良い。 通路には、ここにも三脚にカメラを構えてシャッター・チャンスを待っている人がいます(写真下右)。規則を守り、池のそばには入りません。 頭クラクラ 丸池様(まるいけさま)とはずいぶん御立派な名前のついた池です。でも、見てください。「様」を付けたくなるような色をした池です。池の色もそうだが、周囲の樹木で、フジのような捻じ曲がった樹木も池を飾る額縁のような役割をしています。 丸池様は牛渡川のそばにあるが、川は流れ込んでいません。この池には注ぎ込む川はなく、湧水のみでできています。 池のそばにいけないので、反射光が邪魔して池の中にどんな水草があるのかよくわかりません。写真下はバイカモのよう見えます。 写真下の葉の細い水草はさきほどの牛渡川でも見たセキショウモのように見えます。水草が少ないのは、周囲が樹木で覆われて陽当たりが悪いからでしょう。 直径約20mほどの小さな池で、前述のように池のほとりに近づくことは禁止されているので写真は撮りにくいが、これは池の環境を保つためには良いことです。 池の色が何とも言えずきれいで、緑が少し混ざったような薄い青から水色です。この池の紹介文にはエメラルド・グリーンという表現がありますから、季節や時間によってかなり色が違うらしい。 水そのものの他に、水底の土や水草と枯れた樹木、さらに周囲の樹木の枝が水面に映るだけでなく、射しこんだ光が反射しており、これらが複雑に混ざり合っています。どれが水底で、どれが手前にある樹木なのか、それとも水面に映った樹木なのか、距離感がなくなるばかりか、上下さえも曖昧になります。 これらの写真は手ぶれやピンボケの写真ではありません(笑)。いっさい写真に加工はしておらず、見たままで、まるで印象派の絵みたいです。 私はこういう水がまるで濁っているような薄ぼんやりとした青さが大変好きです。もちろん、ここの水は実際には濁っておらず、透明度の高い水です。 丸池様と「様」を付けたくなる気持ちもわかります。こんな池の中に入ったら、上下も左右もわからなくなり、溺れるんじゃあるまいか。見ていると頭がクラクラしてくる。丸池様を見ただけで頭がクラクラするなんて、やはり御神体だけのことはある(笑)。拝んで帰ることにしましょう。 |