御堂森のイワウチワ 2019年 御堂森(おどうもり)と聞いてわかる人は山形県民でも少数で、私もイワウチワのハイキングの募集を見るまでは知りませんでした(写真下)。2019年4月21日、地元主催のハイキングに参加した時の様子を紹介します。 花の名前は『楯山の植物』(土屋義幸、2018年)を参考にしました(写真下)。楯山とは、御堂森の南西方向10kmほどに位置する標高200m前後の山で、すぐそばですから、植生は似ています。この本は「山形新聞」(2018年4月30日)で紹介されました。こういう特定の地方の植物誌はとても助かる。 『楯山の植物』土屋義幸、2018年 山形市内から御堂森の麓の細野地区までは約60km、車で一時間少しですから、集合時間の8:00までに山形市内から行くのはそれほど大変ではありません(下図)。 集合場所は細野地区の「農家レストラン蔵」の前です(写真下)。名前どおりに、蔵を利用して、地域の食材を活かしたレストランを運営しています。 集落の中にはまだ雪がたくさん残っています。ここは標高が240mほどで、その分、春は遅い。 500円の参加費を払い、昼食のオニギリを受けとります。「細野の山を愛する会」の会長さんなどからの挨拶は(写真下)、あまり長くなかったので助かりました(笑)。 トラックの荷台に分乗して、登山口に向かいます(写真下、8:33)。 10分ほどで山の麓に到着して、ここから歩いて登ります(8:44)。 車を下りた近くの斜面に白いキクザキイチゲが咲いています(写真下)。 下の地図で赤で示してある「御堂森登山口」というところまで林道があり、車で行けるのですが、今年は雪が多いため、麓の神社のある所から歩くことになりました。私たちは御堂森(1057m)の山頂までは行かず、その手前の山頂展望台の近くにあるイワウチワの群生地で引き返します。 上図 「やまがた山」から転載 写真下のような雪道では四輪駆動車でも登るのは無理です。ただ車も通れる道ですから、登るのはそれほど大変ではありません。 標高400mほどの尾根の道まで登り、開けた場所で休憩です(9:27)。 参加者は定員50人に49名で、キャンセルが二名というのだから、成績は良い。大半が山形県内からで、一部は宮城県からの参加者もありました。朝、集合時間8時までに車で来れる範囲の人たちでしょう。 スキー場のように広々とした広場(駐車場)でトイレ休憩です(8:52)。ここが本来の登山口で、ここまで車で登って来る予定でした。ごらんのように、スキーができます(写真下)。 広場(駐車場)には登山届けを入れる黄色いポストが雪に埋もれています(写真下左)。私はこの二週間ほど後の5月4日にここを再び訪れた時の様子が写真下右で、短期間に雪が溶けたのがわかります。 北西に秋田との県境にある鳥海山(2,236m)が見えます(写真下)。 駐車場(広場)をすぎて、標高差百メートルほどを登ると、北東方向からの別な尾根の道に合流します(写真下)。 ここが「防火線入口」で、防火線とは山火事の延焼を防ぐために、樹木を伐採して築かれた土塁で、その上が山道になっています(写真上)。人間の手だけで、これだけの土塁を作るのは大変だったでしょう。 防火線に入って少し進むと、進行方向に御堂森が見えてきました(写真下左)。写真下右は二週間ほど後の5月4日に撮ったもので、山の雪が少なくなり、緑が増えて、冬の山が春の山になっています。 尾根の道は多少の上り下りと、一部はきつい坂もあるが、大半はそれほどでもありません。 山頂展望場を示す看板が出たあたりから、道の周囲に少しだけイワウチワが現れました。先に群落があるとわかっていても、やはり撮ってしまう(写真下左)。 イワウチワは人が歩いている山道のそばから林の斜面に沿って咲いています(写真下)。 イワウチワが咲いている場所もネットで公開されていますから、盗掘が心配です。私はガイドしてくれた若者に、ぜひ看板を立てるように提案しました。保護していることを示すのは、確信犯以外にはそれなりの効果があります。 イワウチワの生えている斜面にはまだ雪が残っています。 私がこのハイキングを知ったのは、「山形新聞」(2018年4月19日朝刊)で紹介されたからです。2018年で二度目とありますから、私は三回目に参加したことになります。 細野地区の人たちがいわゆる村おこしとして始めた企画なのでしょう。ホームページのタイトルは、 清流と山菜の里 ほその村 尾花沢市細野「かあちゃん広場」 とあり、女性たちを中心に2011年から始まったようです。イワウチワの他にも、山菜採り、縦走登山、イワナ釣り、ソバなど、二月から十一月まで企画が並んでいます。 地元テレビ局の番組『やまがた発!旅の見聞録』(山形放送、テレビ埼玉)で、今日の集合場所になった「農家レストラン蔵」の様子が紹介されていました。 今日の企画も、申し込みの受付、トラックの配車、現地への案内、弁当の準備など、かなり数の人たちが協力しています。山道の整備、案内板の設置など準備のための裏方の労力も大変でしょう。 私も裏山の山道の整備をしているから、そういう労力の大変さが良くわかります。雪国では雪の重みで倒れた樹木が山道をふさいでしまうのは珍しくありません。毎年、春になったら、これらの樹木を片付けなければならない。 イワウチワの生えている道端で昼食です(11:44、写真下)。私はいつものように食事の時間が惜しいので、写真を撮っていました。それでも時間が足りないのと、撮影に他人が邪魔なので(笑)、雪が溶けた頃にもう一度、一人でここに来ることにしました。 開けた場所で記念撮影です(写真下)。 同じ道を引き返します(12:18)。雪があるので気を付けないといけないが、今日のコース自体はそれほど大変ではありませんでした。 山の麓で迎えのトラックに乗って戻ります。 この近くの人たちは毎日、雄大な鳥海山を見て暮らしているのでしょう(写真下)。 天気も良く、トラブルもなく、全員が無事に「農家レストラン蔵」の前に戻り、流れ解散です(14:43)。 二週間後のイワウチワ 団体だと初めての人たちとのおしゃべりで楽しい反面、時間など様々な制約があって、花の撮影には向きません。そこで私は約二週間後の5月4日に再びここを訪れました。 山の様子はすっかり変わり、まだ雪が残っているものの、新緑の季節になっています(写真下)。 二週間前と違い、山桜が咲いています(写真下)。私の裏山にある山桜はおもしろい花で、遠くから見ると薄いピンク色に見えるのに、花弁は白です。ただ、学問的なヤマザラクの分布は、日本海側では新潟が北限だというから、山形の山桜は厳密にはヤマザクラではないことになります。 タムシバが少しだけ咲いています(写真下)。モクレンに比べて冴えない印象ですが、山形では春の山に咲く典型的な花です。 少しだけ咲いているツツジはムラサキヤシオツツジでしょう(写真下)。名前と違い、何度見ても、紫には見えない。 何種類かスミレがあり、写真下は後ろに天狗の鼻のように「距」が突き出ていることから、ナガハシスミレのようです(写真下)。 ナガハシスミレ(長嘴菫) 写真下はスミレサイシンのように見えますが、スミレの分類は難しいというか、煩雑です。 春の定番のカタクリやキクザキイチゲです(写真下)。キクザキイチゲは前回は白だったのが、今回は薄紫の花が咲いています。山形でも五月にこれらの花が咲いているのは、やはり標高が高いので気温が低いのでしょう。 二週間もたっているので、イワウチワの花は終わっているかと心配しましたが、前回と同じように林の中にたくさん咲いています。開花時期がかなり長いようです。 やや濃いピンクとほとんど白のような花は、どちらも少数です(写真下)。 写真下上段が明瞭なピンク、下段はややそれが薄く、また色の付き方も不均一です。 これがさらに薄くなると写真下の上段のようになり、下段はほとんど白です。 ただ、白のように見えても、かすかにピンクが混ざっていることが多く、純粋な白はここにはありません。 イワウチワ(岩団扇)とは、葉がウチワに似ており、岩場に咲くから付いた名前だそうです。名前を付けた人はこれだけきれいな花が見えず、葉しか見えなかったらしい。ネット上の写真を見ても、林の中に群落しているのが多く、特に岩場に咲いている花ではありません。このまま園芸種にもなりそうなきれいな花の名前がイワウチワ?!全然イメージが違う。日本の固有種なら、もう少し素敵な名前が付けられなかったのだろうか。 ネットでの解説を読むと、イワウチワという名前は広義で、細かく分けると、宮城から関東の太平洋側にあるコイワウチワ、北陸から近畿に分布するトクワカソウ、そして秋田県から新潟県の日本海側に分布するのはオオイワウチワのようです。この分類に従うなら、ここのはオオイワウチワです。 日本海側と太平洋側では種類が違うと聞いて、ちょっと残念に思いました。前に、茨城県の高萩市周辺にイワウチワの群生があると聞いて、見に行く計画を何度も立てながら、いずれも別用ができて、計画倒れに終わったからです。 林の中に差し込んできた陽射しが透過光になると、花に透明感と立体感が出てきます。花弁の端がレースのように切り込みがあるのがオシャレです。 前回のように大勢でワイワイと楽しく見るのと違い、一人で静かに見ると、ずいぶん印象が違ってきます。 |