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キヌガサソウを探しに月山へ

2021

 

 月山にキヌガサソウを探しに出かけました。キヌガサソウは写真下のような、直径が5cm以上もある白い花を咲かせる日本の固有種で、本州中部から東北にかけての高山や亜高山に生えています。極端に珍しい花ではないが、見られたらラッキーで、私は山で見たことがありませんでした。

 

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 山形県でキヌガサソウが生えている有名な山は秋田県との県境にある神室山で、日本最大ともいわれる大群落があります。標高が1365mと高い山ではないが、山形市から日帰りで行ける山ではありません。

 

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 ネットで月山の装束場でキヌガサソウが見られたという書き込みがあり、私は三年前の2018年に探しに行ったのに、見つかりませんでした。今回、2021年7月8日に別な登山口から登り、再度、探してみることにしました。

 

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 月山のキヌガサソウは六月末から七月初旬に咲くので、7月1日の月山の山開きの後に行くつもりで狙っていたのに天気が悪い。西日本では記録的な大雨など警報が連発され、7月3日には熱海での土石流の衝撃的な映像が流れました。今年は無理かと思っていたら、7月8日の登山指数はA、登山に適しているとある(下図)。しかも、この後、しばらくはCで登山に適さないという。では、行くしかありません。

 

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橋が流された

 八時半頃、月山の麓にある、出発地点の県立自然博物園(ネイチャーセンター)に到着しました(写真下)。空は雨が降り出してもおかしくないような曇り空です。これまでもこの山の天気予報は良く当たりましたから、雨が降り出したら、すぐに引き返すつもりで、出発することにしました。

 

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 ちょうど博物園の職員が外に出て来たので、私はキヌガサソウについて聞いてみました。ところが、彼女が教えてくれたのは、私が三年前に探した場所です。しかも、とんでもない話が出てきました。私の登山コースである石跳川コースは増水で橋が流失して通れないというのです!私は高い高速料金を払ってここまで来て、スゴスゴと引き返すのかとショックを受けていると、職員が別なルートを教えてくれました。

 

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 本来は下図の自然博物園から石跳川沿いに登るのがコースなのに()、右側の自然観察コースを迂回していくことになりました()。少し遠回りでも、大した違いはなさそうです。

 

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 自然博物園の敷地内の山道は良く整備され、案内表示もあるのでわかりやすい。

 

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 小川にかけられた橋はまだ新しく、四角い柱のような材木を金具で留めたものです(写真下)。形が単純で重いから水にも流されにくい。材木は一人や二人で持てるものではない大きさと重さで、山道はかなり急な坂もあり、真っ直ぐでありませんから、運ぶのは大変だったでしょう。

 

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 触覚の長い虫も橋を渡っている(写真下)

 

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 山道には宗教的な遺跡があります。写真下で「首なし地蔵」という気味の悪い名前がついているのは、明治時代の廃仏毀釈の蛮行の跡のようです。月山は羽黒山と湯殿山と合わせて出羽三山と呼ばれ、修験道など山岳宗教の盛んだった地域で、ここも元々、参拝や修験の道だったのでしょう。

 

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 笹竹やお菓子などを供物にしてあるが、熊や猪の餌になりかねないので、置いたままは良くない(写真下左)

 

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 自然博物園の山道で真っ先に目についたのがギンリョウソウです(写真下)。ほぼ全体が白く、花の奥が青くなっています。

 

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写真上下 ギンリョウソウ(銀竜草、Monotropastrum humile)

 

 花も葉も葉緑素がないのを見てもわかるように寄生植物です。樹木の根に付く共生菌に寄生するらしい。共生菌は名前どおりに、樹木と互いに助け合うのに対して、ギンリョウソウは共生菌を助けているという説明はないから、単なる居候なのでしょう。

 

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 受粉はマルハナバチなどで、熊本大学の杉浦直人氏の研究によれば、ギンリョウソウの種を運んでくれるのはモリチャバネゴキブリで、名前どおりに、森に棲むゴキブリです。このゴキ君がギンリョウソウの実を食べると、種は消化されないまま排泄され、しかも、このゴキ君は飛ぶのが得意なので、遠方まで種を運んでくれる。ギンリョウソウの分布が、北は千島列島、サハリンから、日本、台湾、中国を経由して、ビルマやヒマラヤまで広く分布するのも、ゴキ君の努力の賜物で、案外、両者は分布が重なっているかもしれません。

 写真下のようにまとまって咲いているのは、そこがゴキ君のトイレだったからでしょう()

 

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 林の下のあちこちに似たような白い花が咲いています。

 

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写真上 ヤマブキショウマ(山吹升麻、Aruncus dioicus var. kamtschaticus)

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写真上左 ミヤマカラマツ(深山唐松草、Thalictrum tuberiferum)

写真上右 ヤグルマソウ(矢車草、Rodgersia podophylla)

 

 樹木が生い茂っているので、日陰でも咲くような植物が多い。

 

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写真上 ユキザサ(雪笹、Maianthemum japonicum)

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写真上 ズダヤクシュ(喘息薬種、Tiarella polyphylla)

 

 マイヅルソウがまだ花を咲かせています(写真下)。私の家の敷地にもあり、二カ月前に花は終わっています。

 

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写真上下  マイヅルソウ(舞鶴草、Maianthemum dilatatum)

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 写真下は白いカタバミの仲間で、似た花にコミヤマカタバミもありますが、花の底の部分が黄色くなっていないので、ミヤマカタバミとみなしました。

 

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写真上 ミヤマカタバミ(深山片喰、Oxalis griffithii)

 

 写真下は、特徴ある花の形からサワハコベでしょう。写真下右で、葉だと思って撮ったのは別な植物の葉のようです。

 

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写真上 サワハコベ(沢繁縷、Stellaria diversiflora)

 

 写真下は、ボールペンの先と比較してもわかるように、数ミリ程度の小さな花を咲かせています。

 

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石跳川を登る

 道は自然博物園の敷地を通り過ぎ、石跳川に沿ってしだいに上りがきつくなります。このあたりで標高1000mくらいです。道の多くに大きな石が使われています。自然にたまたま都合よく並んでいたはずはなく、昔の人が人力で移動し作ったのでしょう。

 ここは月山への登山コースとしてはあまり一般的ではなく、この日も山菜採りの人に一人会っただけでした。人通りが少ないので、私は熊鈴を二つも付けています。すれ違った人もラジオをつけたままでした。

 

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 私の裏山では、ショウジョウバカマは三月末~四月上旬にかけて咲く花ですから、ここでは三か月近くも遅い(写真下)

 

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写真上下 ショウジョウバカマ(猩々袴、Heloniopsis orientalis)

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 写真下は月山の標高千メートルくらいで、しばしば見かけるミヤマツボスミレで、平地にいくらでも生えているツボスミレと同じように見えます。名前にミヤマと入ると急に高山植物らしく見える()

 

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写真上 ミヤマツボスミレ(深山坪菫、Viola verecunda var. fibrillosa)

 

 黄色いスミレはキバナノコマノツメかと思ったら、葉がずいぶん大きく、先が尖っていますので、日本海側の低い山地に生えるオオバキスミレです(写真下)

 

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写真上下 オオバキスミレ(大葉黄菫、Viola brevistipulata)

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 残雪が見えてきました(写真下)。山道の雪はわずかだったので、準備したアイゼンは使いませんでした。

 

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 タニウツギがそちらこちらで見られます(写真下)。これも私の裏山では二カ月以上も前に咲いていた。

 

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写真上 タニウツギ(谷空木、Weigela hortensis)

 

 ムラサキヤシオツツジも亜高山に生えているツツジで、いつも私の目にはムラサキではなく、モモイロヤシオツツジに見えます。

 

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写真上 ムラサキヤシオツツジ(紫八汐躑躅、Rhododendron albrechtii)

 

 写真下は、ガクが長いガクウラジロヨウラクです、と言いたいが、ガクの長さがそれほど長くないから、ただのウラジロヨウラクかもしれません。

 

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写真上 ガクウラジロヨウラク(萼裏白瓔珞、Rhododendron albrechtii)

 

 石跳川コースは石跳川に沿っています。川の名前の由来が写真下で、いずれもこれが山道です。写真下左など典型で、川の真ん中の大きな石を飛び跳ねて渡るから石飛川という名前が付いたそうです。私は運動神経が鈍いので飛び跳ねません。滑って転び怪我をするよりも、靴が濡れるほうがまだ良い。

 

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 写真下は水に濡れると花が透明になるサンカヨウで、花は後半です。私はいつも晴れている時を狙って山登りをするので、透明になっているのを見たことがありません。

 

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写真上 サンカヨウ(山荷葉、Diphylleia grayi)

 

 写真下のミヤマキンバイは深山金梅という御立派な名前がついている。一方、外見はそっくりのヘビイチゴは可愛らしい花と実を付けるのに、まるで毒があるかのようなとんでもない名前が付けられて気の毒です。

 

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写真上下 ミヤマキンバイ(深山金梅、Potentilla matsumurae)

 

 写真下のうまそうなイチゴはシロバナノヘビイチゴのようにも見えますが、葉がやや丸いので、ノウゴウイチゴということにしておきます(いい加減)。見た目どおりに食べられるそうです。下段がその花でしょう。

 

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写真上下 ノウゴウイチゴ(能郷苺、Fragaria iinumae Makino)

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 同じイチゴの仲間のベニバナイチゴは花も大きいのに、実はまずいそうです。

 

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写真上下 ベニバナイチゴ(紅花苺、Rubus vernus Focke)

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 道端にハナニガナが群落しています(写真下)。低地の山にいくらである花で、花一つ一つはイマイチさえないが、こんなふうに群落すると見事で、高山植物っぽい()

 

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写真上下 ハナニガナ(花苦菜、Ixeris dentata var. albiflora f. amplifolia)

シロバナハナニガナ(白花苦菜、Ixeris dentata ssp. nipponica f. amplifolia)

 

 シロバナハナニガナも混ざっています。

 

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 蝶は花があるわりにはあまり多くありません(写真下)

 

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写真上左 クジャクチョウ(孔雀蝶、Inachis io)

写真上右 ヤマキマダラヒカゲ(山黄斑日陰、Neope niphonica)

 

 写真下は、見た目も飛び方もタテハチョウかと思ったら、蛾の仲間です。

 

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写真上下 イカリモンガ(碇紋蛾、Pterodecta felderi)

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 登山道の真ん中でずいぶん大きな毛虫君が日向ぼっこをしている(写真下左)。このあたりは熊もいるというから、踏んづけられないように気を付けなよ。

 

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 緑青を吹いたようなチョッキリがいて、外見も名前もこのままの宇宙人役で映画に出られます(写真下)

 

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ミズバショウ

 12時少しすぎた頃にようやく装束場の施薬小屋に到着しました(写真下)。自然博物園を出てから、三時間半くらいかかりました。案内によれば、このコースは2時間で、1.5倍以上もかかったのは、遠回りをしたからだけでなく、私の足が遅いからです。

 

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 近くには川が流れていて、しかも、勾配が緩やかなので、湿原のようになっており、そこにミズバショウが生えています(写真下)

 

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 自然博物園の沢のそばのミズバショウは花が終わっていました。ここのも葉が大きく生育して花が終わったのもあるから、かなり長い期間咲いているらしい。

 

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写真上下 ミズバショウ(水芭蕉、Lysichiton camtschatcensis)

 

 ミズバショウの花は高さ30cmくらいが普通なのに、ここでは写真下左のように、可愛らしい花もあります。

 

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 高山では良く見かけるゴゼンタチバナです(写真下)。白いのは花弁ではなく、苞という花を包む葉が変化したものです。北東アジアや北米に分布し、前にサハリンの山の中で群落しているのを見ました。

 

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写真上 ゴゼンタチバナ(御前橘、Cornus canadense)

 

 

見つけた、滑った

 自然博物園の職員の助言も参考にして、前回同様に装束場周辺を歩き回ってみましたが、ミズバショウ以外はみつかません。

 諦めて帰ろうかと、少し場所変えたら、キヌガサソウの特徴ある白い花が見えました。「やったー!見つけたぞー!」と叫んで、大喜びで足を一歩踏み出したら、すべって転んだ。

 土手になっていて、笹が下方向に倒れ、滑り台状態になっている所に足をかけたのだから、滑るのは当然。普段なら、道もない所で足元を見ないで進むなどありえないが、うれしくてキヌガサソウしか見ていない()

 左手はカメラを持っているので、尻もちをつく時、右手で全体重を支えたから、右手首に激痛が走りました。翌日、病院で診察してもらうと、手首の骨にヒビが入っているという。ギプスで固定された腕は(写真下左)、まるでマジンガーZの腕みたいだ()

 

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 イデデイデデと言いながら、何とかキヌガサソウが生えている所までたどり着きました。花が咲いているのが30株ほどあり、いずれも真っ白ですから、咲いたばかりの最盛期です。

 

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写真上下 キヌガサソウ(衣笠草、Paris japonica)

 

 学名にjaponicaとあるように日本の固有種、つまり日本にしか生えていない植物で、キヌガサソウ属キヌガサソウの一属一種です。おそらく、日本がユーラシア大陸から切り離された後、大陸側では絶滅し、日本にだけ残ったのでしょう。本州の中部地方から北の日本海側に分布します。

 

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 花の初期はここにあるように白で、やがて紅紫、そして薄緑色になります。

 

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 写真下の花弁の数を見ると上段が6、7枚、下段が8、9枚となっているのがわかります。しかも、その数は葉の数と一致します。

 

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 こんなふうに葉が放射状に生えて、真ん中から花が咲くのは、エンレイソウやツクバネソウがあって、遠い親戚くらいの関係にあるようです。ただ、エンレイソウの花は地味な紫色だし、ツクバネソウの花は地味な緑色です。キヌガサソウは衣笠草という名前にふさわしく、上品な雰囲気です。

 

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 右手首を怪我したので、写真を撮るのは容易ではありません。普段なら、ズームを左手で回しながらカメラを支え、右手で持ちながら、シャッターを切るのだが、右手で持つなど無理。ズームを適当に決めて、左手でカメラを持ち、右指でシャッターを押そうとするが、痛くて指に力が入らない。指の関節を突き立てて何とかシャッターを押す。

 

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 骨にヒビも入ったし()、目的のキヌガサソウの写真も撮り終えたので、帰ることにしました。

 

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2018年の帰り道

 今回の帰りは来た道をそのまま戻りましたから、花も風景も同じで面白くはありません。三年前の2018年は、下図のように、リフトの上駅から往復しました。こちらのほうが標高が高く、月山のお花畑がありますから、帰り道はこちらを案内します。

 

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 笹竹の間にシラネアオイが咲いています。キヌガサソウほど珍しくないが、見つけるとうれしい。キヌガサソウと同じで、シラネアオイ属シラネアオイの一属一種です。

 

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写真上下 シラネアオイ(白根葵、Glaucidium palmatum)

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 金姥で白装束の一団を見かけました(写真下)。おそらく月山を参拝した後、ここから装束場まで行き、さらに北側にある湯殿山神社を参拝するのでしょう。白装束や山伏の格好をした人が歩いているのは月山では珍しくありません。

 

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 標高が装束場で約1300m、金姥で約1600mですから、300mほど登ったことになり、尾根づたいにさらに登ります。

 

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 道の両側の低木の中にハクサンシャクナゲが咲いています。北海道から本州を中心に、四国の一部、そして朝鮮半島にも分布します。

 

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写真上下 ハクサンシャクナゲ(白山石楠花、Rhododendron brachycarpum)

 

 写真上のように白の他に、写真下のように模様が入っているために、遠目にはピンク色に見えるのもあります。

 

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 タカネザクラは千島列島、北海道、本州北部に自生する寒さに強い桜です(写真下)。私の目にはただの山桜に見える()

 

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写真上 ミネザクラ(峰桜)、タカネザクラ(高嶺桜、Cerasus nipponica)

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 足元には高山植物の定番ともいえるチングルマが満開です(写真下)

 

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写真上下 チングルマ(珍車、Geum pentapetalum)

 

 チングルマの間にコイワカガミのピンク色が混ざって、なかなかきれいです。

 

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 コイワカガミも月山では良く見かける花です。

 

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写真上下 コイワカガミ(小岩鏡、Schizocodon soldanelloides)

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 写真下のウサギギクは根元から出て来る二枚の葉がウサギの耳に似ていることから付けられたらしい。可愛らしい名前なので、すぐに覚える。北海道と本州中部以北に分布し、東北の山では普通に見られます。

 

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写真上下 ウサギギク(兎菊、Arnica unalascensis var. tschonoskyi)

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 写真下はミヤマウスキソウと普通は呼ばれるのに、なぜか、月山の花を紹介した本にはヒナウスユキソウという名前で載っています(『花は友だち2』平瀬正吾、村岡健二、2002)。秋田や山形など日本海側の高山に分布します。

 

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写真上下 ヒナウスユキソウ(雛薄雪草、Leontopodium fauriei)

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 写真下は、葉が茎の周りに四枚生えているから四つ葉で、ヨツバシオガマなのはわかる。でも、どうして山に生えているこの花がシオガマ(塩釜)なのでしょう。ネットの解説によれば、日本舞踊の演目で「浜で美しい塩釜」と「葉まで美しい塩釜」をかけて、この花にシオガマギクと名付けたという・・・なんだ、ただのダジャレか。それもかなりつまらないダジャレです。

 風流を楽しむ人たちが付けるのは自由だが、これを植物名とした植物学者がいたはずです。その学者はいったい何を考えて、花そのものと何の関係もない名前を採用してしまったのか、見識を疑います。

 

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写真上 ヨツバシオガマ(四葉塩釜、Pedicularis japonica)

 

 月山では良く見かけるイワイチョウで、花よりも葉のほうが丸くて目立ちます(写真下)。この花もイワイチョウ属イワイチョウの一属一種で、そう言われると、なんか立派な奴に見える()

 

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写真上 イワイチョウ(岩銀杏、Nephrophyllidium crista-galli)

 

 この尾根道で良く見られるのがコバイケイソウで、気のせいか、前よりも減ったような気がします。

 

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写真上下 コバイケイソウ(小梅蕙草、Veratrum stamineum)

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 ゴバイケイソウとニッコウキスゲとの記念撮影です(写真下)

 

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 ゴバイケイソウと同様に、この尾根道に群落するのがニッコウキスゲです。学名は長年議論されてきたらしく、長ったらしい。

 

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写真上下 ニッコウキスゲ(日光黄萓)、ゼンテイカ(禅庭花、Hemerocallis dumortieri C.Morren var. esculenta)

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 ニッコウキスゲは平地から高山まで広い分布しているから、かなり丈夫な植物らしい。

 

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 姥ケ岳(1670mの山頂付近もニッコウキスゲが一面に咲いています。

 

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 ナンブタカネアザミは山形県と県境の山など一部にのみ分布するアザミです(写真下)

 

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写真上下 ナンブタカネアザミ(南部高嶺薊、Cirsium nambuense)

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 姥ケ岳を下りる坂道には残雪があって、スキーをしている人たちもいます。月山は夏スキーが有名で、山頂付近は花畑なのに、その下の斜面には雪が残っています。南東や南の陽当たり良い斜面に雪が残っている。これは日本海からの北西の風が吹いて、南東斜面に雪だまりができるからで、日本海側の山岳地帯では良く見られるそうです。

 

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 これから登る人たちがアイゼンを装着しています(写真下左)

 

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 雪道の前後に見られるのがヒナザクラという白いサクラソウの仲間です。東北地方の高山に分布し、月山の中でもこの斜面に多いのは雪融け水があるからでしょう。学名には日本の名前が入っています。

 

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写真上下 ヒナザクラ(雛桜、Primula nipponica)

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 男性たちがソリに荷物を乗せて運びあげています(写真下)。雪のない所を運び上げるのは容易ではない。荷物はバラバラにはできず、あの大きさとかなりの重量で、姥ケ岳などの山の上で使うらしい・・・いったい何でしょう?

 

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 標高1500mほどにあるリフトの上駅に到着しました。ここから標高1230mほどにある下駅まで楽をします。

 

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 リフトの下にも様々な花が咲いています。

 

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写真上 オオカメノキ(大亀の木、Viburnum furcatum)

 

 2018年はキヌガサソウを見つけられなかったので、かなりがっかりして戻りました。しかし、今回は少々痛い思いをしても、骨折り損のくたびれ儲けにはならなかっただけ、良しとしましょう。

 

 

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