ミドリニリンソウは西日本にはない?! ニリンソウの花は白なのに(写真下左)、緑色のニリンソウがあるという(写真下右)。ニリンソウなどありふれた山野草なのに、私はミドリニリンソウを見たことがありませんでした。2023年春、奥羽山脈の両側にある鎌倉山、青麻山、氾濫原、二ッ森にミドリニリンソウを探しに出かけました(下地図)。 写真上左 ニリンソウ(二輪草、Anemone
flaccida) 写真上右 ミドリニリンソウ(緑二輪草、Anemone
flaccida f. viridis) 裏山のニリンソウ 春が来ると山野に咲く花の一つがニリンソウです。山形市の私の自宅の裏山では、キクザキイチゲやカタクリなど春の妖精(Spring
ephemeral)が咲き、それを締めくくるのが写真下のニリンソウで、これが終わると「春の始まりの終わり」で、野山には次の花が咲き始めているのに、ちょっとさびしい気分になります。 写真上下 ニリンソウ(二輪草、Anemone
flaccida) 一輪や三輪のニリンソウもある ニリンソウという名前の由来は、一本に花が二つ咲くからで、写真下は二輪のニリンソウです。 写真下も二輪のニリンソウです。一輪しか咲いていないが、花の茎(花柄)の根本に二輪目のツボミがあります。 写真下は花の茎(花柄)は一本しかない一輪のニリンソウです。根本にツボミがありませんから、ちょっと寂しげです。イチリンソウという名前の別な種類のキンポウゲもあって、紛らわしい。 写真下は花が3つある三輪のニリンソウです。写真下左は三輪とも咲いていて、一番古い手前の花は雌しべが膨らみ始めています。写真下中は二輪が咲いて一輪がツボミ、写真下右は一輪が咲いて二輪と三輪がツボミです。一輪や三輪のニリンソウはそれほど珍しくはありません。 花びらは花弁ではない! 普通のニリンソウは花びらが5つです。ところが、これは花弁ではなく、ガク片だという。アネモネの仲間は花弁のように見えるのはガク片だそうです。「花弁のようなガク片」とはまた紛らわしい。そこで、ここでは「花びら」と呼ぶことにします。 写真下のように、普通の花の形で、これが花弁ではなくガク片だと言われても、素人にはよくわかりません。 ネットでの解説をまとめると「花弁の下にはガク片があるはずなのに、ニリンソウにはそれらしい物がないから、これは花弁ではなくガク片である」という説明です。しかし、どうして花弁が残り、ガク片が無くなったことにはならないのでしょう。 ガク片だという主張の根拠は、ニリンソウが属するキンポウゲ科(Ranunculaceae)の仲間には、花弁が退化して、代わりにガク片が花弁のような顔をしているという事例があることのようです。 写真上 セツブンソウ (2023年2月28日、筑波実験植物園) 例えば、写真上のセツブンソウは、花弁に見えるのがガク片で、黄色いオシベのように見えるのが花弁だそうです。クリスマスローズのオシベの根本には退化した花弁が残っているそうです。つまり、こういうキンポウゲの仲間たちの様子から、ニリンソウも花弁が消えてガク片が残ったという主張らしい。 ただ、セツブンソウについて屁理屈を言えば、花弁にしては数が多すぎるし、オシベの一部が突然変異で黄色くなったようにも見えます。 花びら(ガク片)の数がバラバラ ニリンソウの花びら(ガク片)は普通は写真下左のように5枚ですが、例外はそれほど珍しくなく、写真下右は7枚です。ネットを見ると、10枚くらいまであるそうで、私が見つけた一番多いのは8枚です。花びらが増えた八重咲もあるそうで、ギンサカズキイチゲ(Anemone flaccida f. semiplena)という名前が付いています。 逆に、花びらが少ないのはほとんど見たことがありません。 奇妙なのは花びらの数だけではありません。一本に咲く二つの花の花びらの数が違うことがあるのです。写真下はその例で、「上6下5」とは二つの花の内、背の高いほうが上で花びらが6枚、背の低いほうが下で花びらが5枚という意味です。 これらの写真の範囲で言うなら、上よりも下のほうが花びらの数が同じか、少ない。上のほうが先に咲きますから、最初は頑張って数を増やしたが、息切れして、二つ目では続かなかったということでしょうか。素人目に驚くのは、花びらの数が遺伝で決まっていないことです。花びら(ガク片)の数は遺伝ではなく、それぞれの花が適当に決めているらしい(笑)。 上6下5 上6下6 上7下6 上8下6 ピンクのニリンソウ 私の裏山にはミドリニリンソウはないのに、薄いピンクのニリンソウはたまにみかけます(写真下)。 どちらかというと、表よりも裏がピンク色であることが多く、またツボミの時には外側の花びらのほうがよりピンク色です(写真下)。 ネットでの書き込みを見ると、ピンクのニリンソウは全国的にもそれほど珍しくなく、ウスベニニリンソウ (Anemone flaccida f. rosea)と別名と学名がついています。学名の「f.」は「品種」を表わし、同じ地域に生えていても、花の色が違うとか、葉の形が違う場合に付けられるそうです。ただ、素人目でニリンソウを見ている範囲で言うなら、色がちょっと着いたくらいで、わざわざ別な名前を付ける必要もないような気がします。 花びら(ガク片)の先のほうがピンク色になっていることが多く、全体がピンク色というのは見つかりません。 写真下左などは桜色で、右はさらに色が薄い桜貝色でなかなかかわいい。 苞がピンク色 写真下はツボミが桃から生まれたようなおもしろい姿です。花が二重になっているのではなく、割れた桃のように見えるのは「苞(ほう)」という葉です。葉なのに、まるで花びらのようにピンクをしているだけでなく、良く見ると、向こう側の葉(苞)の一部は緑色です。 写真上のように苞が白やピンク色になり、形も変わっているのは稀に見られ、写真下左も一例です。写真下右の矢印で示したように、普通、苞(苞葉)は花の茎(花柄)の根本に二枚ついている小さな葉で、これが写真上や写真下左の場合、花びら(ガク片)と同じ色になっています。しかも、普通の苞は葉の形なのに(写真下右)、写真上と写真下左はまるで花びらのような姿で、反り方も逆です。 写真下は花びらの外側が緑色に見えないこともありません。一輪目の背の高いほうは白です(写真下右)。このように、ニリンソウはどれも同じ花のように見えるのに、丁寧に観察するとこれだけ変化に富み、多様性があり、掟破りの多い花です。 ここまでは私の裏山の話で、では、ミドリニリンソウを探しに出かけましょう。 青麻山:ピンクのミドリニリンソウ 宮城県の青麻山でのミドリニリンソウの目撃をネットで読んで、2023年4月22日に出かけました。青麻山はアオソヤマとアオソサンという二つの呼び方があるようです。山形市から青麻山までの道の大半が高速道路なので、それほど遠くはありません。 登山口の一つである下別当に車を停めました。駐車場は草に覆われて整備されていないので、登山客は手前の道路脇に停めています。 青麻山は山頂が標高799mでも、登山口が標高約300m、目指す地点は標高約500mなので、山頂を目指さないヘソ曲がりにはそれほど大変ではありません。ニリンソウが山頂に生えているはずはなく、たいてい沢の近くの半日陰の林にあるからです。 林の中の山道の中にヤマブキの黄色が目につきます(写真下)。日向でも木陰でも良く咲く植物です。 写真上下 ヤマブキ(山吹、Kerria
japonica) 私の裏山のヤマブキよりも花が大きく見栄えがするのは種類が違うからだろうか。 足元にもヤマブキが咲いている・・・いや、ヤマブキではありません(写真下)。ヤマブキソウは印象が似ているだけの他人の空似で、花弁の数も違います。 写真上下 ヤマブキソウ(山吹草、Hylomecon
japonica) ヤマブキソウは茨城県など数県で準絶滅危惧種に指定されているくらいで、私は野生では見たことがなかったし、林のあちこちに咲いているので、つい何をしに来たかを忘れて、夢中になって撮ってしまう(笑)。 ミドリニリンソウは、意外にも人通りの多い山道の脇に生えていて、簡単に見つかりました(写真下)。 ミドリニリンソウ(緑二輪草、Anemone
flaccida f. viridis) 白い花びらに緑色の模様があるのか、緑色の花びらの一部が白くなっているのか、よくわからない。しかも、一つの花でも各花びらの白と緑の面積が違う。 花びらの数もいい加減で、写真下左は花びらが7枚で、外側に4枚、内側に3枚あるように見えます。写真下右は、外側に大きな花びらが5枚、内側に小さな花びらが3枚がある二重構造になっています。 写真下左の花びらの先を良く見ると、ピンク色です。つまり、これはウスベニニリンソウのミドリニリンソウです。これは花びらの色がピンク色になるのと緑色になるのでは原因が別であることを示しています。 写真下はメシベとオシベもはっきりと見えていて、ニリンソウとの違いは見られません。しかし、ネット上では、メシベがないとか、オシベが別な形に変化していたなどという報告もあります。 花全体が緑色のミドリニリンソウです(写真下)。見た目は葉と同じ色なので、ニリンソウの中からミドリニリンソウを見つけるのは簡単ではありません。花びらの表面に細かい毛が生えています(写真下右)。普通のニリンソウの花びらの表にはこれほどはっきりした毛は生えていません。 簡単にミドリニリンソウが見つかったので、こんなわかりやすい所にあるなら、もっとあるに違いないと、登山路から外れた沢の奥に入ってみました。あたりはニリンソウのお花畑です(写真下)。 写真上のあたりは雪解けの時期に水が流れていたのでしょう。適度な半日陰と湿気があるので、ニリンソウは気持ちよさそうに咲いている。 ここにもピンクのニリンソウがあります(写真下)。ミドリニリンソウと違い、ピンク色のニリンソウはとてもかわいい。斜面には足の踏み場もないほどニリンソウが咲いているのに、ミドリニリンソウは探せませんでした。 ウスベニニリンソウに夢中になっていると、上のほうでガサガサと大きな動物が動くような音がして、私は熊かとギョッとしました。登山客でした(笑)。クマガイソウを探しているという。下山して駐車場に戻った時、他の登山客にこのクマガイソウの話をしたら、生えている場所は別な所だという。 鎌倉山:変わり者のミドリニリンソウの変わり者 宮城県の作並温泉近くにある鎌倉山にミドリニリンソウがあると聞いて、2023年4月29日に行きました。 作並温泉は山形市からは車で一時間くらいで行ける近場です。山形市から仙台市に行くには、今は高速道路で笹谷峠を通りますが、高速道路ができる前は笹谷峠は難所だったので、大きく北に迂回して関山峠を通るのが普通でした(下地図)。半世紀前はその関山峠も幽霊話が出るほどの山道でした。今は道路も改修され、峠というほどの上り下りもなく、とても楽です。 鎌倉山(標高519m)は国道48号やJR仙山線のすぐそばなので行くのも楽ですし、登山口の標高が約230mで、頂上までの標高差は300mほどなので、登るのも大変ではありません。 連休中の気軽に登れる山の駐車場は満車で、到着の遅い私は歩道脇の隙間に停めました。車の停め方を工夫すればもっと停められるのにという苦情がネット上でありました。道路脇にまだ余裕があるのだから、駐車場を造ればいいだけのように見えます。登山者用の駐車場はどこも整備されていないことが多い。 写真下左が鎌倉山で、南側は急斜面なので、山道は大きく迂回して、北西の方から登るようになっています。 沢に沿って行くと、さっそく周囲にはニリンソウが一面に生えています(写真下)。 写真上下 ニリンソウ(二輪草、Anemone
flaccida) この中から、葉と同じような緑色の目立たないミドリニリンソウを探すのは容易ではありません。 道の脇のヤブの中にミドリニリンソウを見つけました(写真下)。 五つがまとまって咲いているのは珍しい。花はどれも同じような図柄で、花びらの周囲が白く縁取りされています。しかし、共通するのはそこまでで、一つの花でも、花びらの模様が違っています。 写真下左のように、真ん中にミドリニリンソウがあっても、目が慣れていないと気が付きません。さらには、写真下右のように、見つけたと思ったらネコノメソウ(猫の目草、Chrysosplenium
grayanum)で、がっかりする(笑)。 同じようにミドリニリンソウの噂を聞いて探しに来た登山客が何組か通りかかり、そのたびにミドリニリンソウに案内しました。紛らわしいので道のすぐそばにあっても気が付かず、通過してしまう。 写真下は花びらが4枚で、ニリンソウとしても珍しい。 さらに変わり者が写真下で、5枚の花びらの内、後ろの3枚は普通の形なのに(写真下右)、手前の2枚だけが、縁がギザギザの切りこみがあります。 写真上などまだわかりやすいほうで、写真下を見た時には、「なんだ、これ??」になりました。ミドリニリンソウなのに、縁に切れ目が入っているだけでなく、白い。花は終わりかけらしく、傷んでいるが、珍しいミドリニリンソウの中でもさらに珍しい。 詳しく見ると、花びら(ガク片)が三つくらいのグループに分けることができます。緑色のAは花びらの縁がほぼ丸い。その内側に、縁に切れ目のある白いBがあり、さらに細長く白いCがあります。つまり、色や形の違う花びらが10枚ある。 C4が見分けにくいので、写真下左で横から見ると、めくれ上がっているのがわかります。BとCは大きさに少し差があるくらいです。はっきり区別がつくのはAで、写真下右のように、花の下から見ると、三枚が一番下から生えているのがわかります。ニリンソウだと知らなかったら、色と形の違いから、Aがガク片で、BとCが花弁に見えます。 この写真上のような変わり者は他の地域でも見られるようです。 私は今年は二度目の鎌倉山です。二週間前の2023年4月14日もミドリニリンソウを探しに来て、見つかりませんでした。写真下のように、道端にはたくさんニリンソウが咲いているのに、往復して探しても見つからない。帰宅した後、再度、鎌倉山でミドリニリンソウを見たという人のネット上の記録を見て、どうやら、探す場所を間違えていることに気が付きました。 他の地域もそうだが、ミドリニリンソウは一つの山でも特定の場所にしか生えていないようです。 この時はミドリニリンソウを見つけることはできなかった代わりに、他の早春の花を楽しむことができました。樹木の下にはシラネアオイがそちらこちらに咲いています(写真下)。 写真上下 シラネアオイ(白根葵、Glaucidium
palmatum) 四月の東北ですから、スミレも何種類か咲いています。 写真上 エイザンスミレ(叡山菫、Viola
eizanensis) スミレサイシン(菫細辛、Viola
vaginata) 氾濫原:川が突然消えた! 氾濫原という奇妙な名前の場所でミドリニリンソウを見たという書き込みを見て、2023年5月9日に出かけました。先に結果だけ言うと、見つかりませんでした(笑)。それでも紹介するのはミドリニリンソウを抜きにしても、氾濫原はとても素晴らしい場所だからです。 氾濫原の読み方がハンランゲン、ハンランハラ、ハンランバラなのか、わかりません。普通、氾濫原(はんらんげん)とは河川が氾濫してできた平らな土地を指す専門用語のようです。今回行く氾濫原は、河川の氾濫でできた土地がそのまま呼び名になっているだけで、正式名称ではないらしく、国土地理院の地図には載っていません。 山形市からは直線なら50kmほどなのに、奥羽山脈があるので、倍の距離になります。 下の地図の赤で囲ったのが氾濫原です。氾濫原は駐車場からは大倉山(標高933m)をはさんで反対側にあるので、大倉山の急斜面を登山する南側のコースと、道は楽だが大きく迂回する北側のコースがあり、登山が目的の人はこれを一周します。氾濫原にしか興味がなく、軟弱な私は当然、北側を選びました。駐車場から登山口までの距離が長いので、山道よりもくたびれる(笑)。 上の地図でもわかるように、氾濫原は大倉山の北西に位置します。南西から北東に向かって川が流れて平地を作り出したのが氾濫原です(写真下)。氾濫原の山道はほぼこの川に沿っています。 森はクヌギ、カヤ、トチ、そしてカツラの巨木だそうで、私はどれが何のかはわかりません(笑)。写真から想像できるように、ここはとにかく歩いているだけで心地よい。ここに来た人たちのほぼ全員がその感想を述べています。 大倉山からの川は、氾濫原の南西から入った時には写真下左のように水の勢いもあり、岩があって、いかにも山を流れる急流というイメージです。ところが、氾濫原に入ると傾斜がゆるやかになり、写真下右のように、森の中を静かに流れる川になります。 驚くことに、この川は氾濫原が終わる北東の端まで流れていき、そこで消滅します。写真下左のように水が流れているのに、その後、写真下右のように川は水量も減り流れもなくなります。 これだけの量の流れ水が消えるなんて、そんなバカなと、ていねいに追いかけると、最後はいくつか分かれて細くなり、一部は写真下のように段差があって音をたてて水が流れているのに、その少し後に完全に消えてしまいます。地面に吸い込まれてしまうらしく、穴らしい物は見当たりません。 写真下あたりが北東の端で、ここからは標高が高くなるので、水の出口はありません。まるで手品です。 水が吸い込まれるような特定の穴があるのではなく、地面に吸い込まれるように消えています。南西から氾濫原に入った水は、その直後から地面に吸い込まれ始めているから、北東の消滅点の近くでは水量もかなり減っています。地面に吸い込まれた水は氾濫原から北に直線で1kmほどにある大倉湧口から流れ出ているそうです。 なぜ水が吸い込まれてしまうのか、ネットで調べても解説を探せません。こういう時は、高校時代は地理や地学が不得意だった私の推測の出番です(笑)。 上の地図で見ると、大倉山の北西が崖になっていて、しかも斜面が急斜面になっています。北西側が表面の土砂だけでなく岩石部分まで大崩落し、大量の岩が落ちて、その上に長年かけて土砂が積り、今の氾濫原になった。氾濫原の下は大きな岩でできているので、大きな隙間があり、水が流れ続けるから岩の隙間が土砂で埋まらないとすれば、説明がつきます。 氾濫原という奇妙な名前もそのままで、大雨などで大倉山から大量の水が流れてくると、地面への吸収では追いつかなくなるから、川が氾濫し、このあたり一帯が水浸しになり、水が運んだ土砂が堆積して現在のような平地ができたのでしょう。 写真下は、川の流れからは離れた森の中です。石が丸くなっているから川が流れた跡で、草木が生えていないから、大雨が降れば、今でもここを水が流れるのでしょう。大雨になると氾濫原のあちこちにこういう川が出来て、土砂を運んでいるようです。 写真下は氾濫原の北西側で、土手になっています。北西側が低いはずなのに、土手で遮られて、川が何本できても水が流れ出ることがない。それなら沼ができるはずなのに、地面の下は大岩が堆積して隙間だらけで、水は間もなく抜けてしまい、沼はできないから植物には影響がない。 地面の下に大岩がたくさんあるという推測には一つ欠点があって、それは氾濫原の表面には岩が露出していないことです。もし、大倉山から大量の大岩が転がり落ちてきたのなら、その一部が地上部に出ていてもいいはずなのに、見た範囲ではありません。すべて土に埋もれてしまったということにしておきましょう(笑)。 森の雰囲気はいかにもニリンソウが生えていそうで、実際、そちらこちらに群落しています(写真下)。 写真上下 ニリンソウ(二輪草、Anemone
flaccida) だが、ミドリニリンソウらしい花は見つからないし、周囲に色々な花が咲いているので、ニリンソウよりもつい周囲の花に目が行ってしまう。 写真下のツクバネソウは日本全国にあるのに、私の裏山では見たことがありません。似た外見のエンレイソウと同じで、これも花弁が退化してガク片が残っているそうです。 写真上 ツクバネソウ(衝羽根草、Paris
tetraphylla) ここも春の定番のスミレがそちらこちらで見られます(写真下)。 たぶん上と下では別種と思われますが、スミレは図鑑を見るといよいよかわらなくなる(笑)。 ニリンソウがたくさんあると、写真下のミヤマカタバミは似ているので気づきにくい。 写真上 ミヤマカタバミ(深山片喰、Oxalis
griffithii) ワサビです(写真下)。水のきれいな深山に自生するとされていますから、まさにここはピッタリです。もちろん、私はここで根を掘って食べたりしません(笑)。 写真上下 ワサビ(山葵、Eutrema
japonicum) 山の斜面には白いツツジが真っ盛りで見事です(写真下)。シロヤシオは太平洋側にしかないので、野生で咲いているのを見るのは初めてです。ツツジは背の低いのが多いのに、これは高木です。 写真上 シロヤシオ(白八汐、Rhododendron
quinquefolium) すごいのがシラネアオイです(写真下)。ここの森を歩いているだけで気持ちが良いのに、その下にたくさんのシラネアオイが咲いているのを見ていると、見つけにくいミドリニリンソウなどきれいに忘れてしまう(笑)。 写真上下 シラネアオイ(白根葵、Glaucidium
palmatum) シラネアオイは適度な湿気と日陰があるような、ニリンソウと同じような環境を好みますから、今回訪れた青麻山や鎌倉山でも見かけました。ただ、ここのは数が多い。 シラネアオイはここ宮城県では絶滅危惧II類になっています。たしかに、山形でも昔は低い山にも生えていたのに、すっかり高山植物になってしまいました。 シラネアオイは暑さに弱いから、山形市内でさえも育てるのは難しい。だから、売られていても買わないことです。誰も買わなければ、売る人がいなくなり、盗掘もなくなります。こういう所に咲いているから美しい。 良く見かけるのは薄紫が多いのに、ここではピンク色の花がたくさんあります(写真下)。薄紫よりも薄ピンクのほうが私の好みに合います。 シラネアオイは濃い紫から真っ白まであって、ピンク自体はそれほど珍しくはないようです。私は野生で白色は見たことがありません。 シラネアオイはきれいなので、林の下などに一面に植栽している公園などがあります。ただ、私はああいう明瞭に人の手が加わっている光景が苦手というか、興ざめしてしまう。山の樹木の下に生えているたった一輪に感動するのに、たくさん見事に咲いていてもどうして興ざめするのかよくわからない(笑)。ここのシラネアオイはもちろん誰の手も借りておらず、自然そのままです。 シラネアオイはシラネアオイ属シラネアオイで1属1種という孤高を保っています。さらにはキンホウゲ科ではなく、前はシラネアオイ科と分類したこともあったそうで、そうなると、1科1属1種という孤高の孤高です。花言葉は「優美」「完全な美」だという。優美はいいが、完全な美はちょっと言い過ぎでは。 二ッ森:山形県側のミドリニリンソウ ここまで、ミドリニリンソウを見たのはすべて奥羽山脈の東の宮城県側です。山形県側を探すと、県北部の尾花沢市にある二ッ森でミドリニリンソウを見たというネットの書き込みがありました。 五月も後半の2023年5月17日に奥羽山脈の山形県側の二ッ森(ふたつもり)にミドリニリンソウを探しに行きました。時期的には遅く、私の裏山ではだいぶ前にニリンソウの花は終わっています。しかし、二ッ森は山形市よりも北部で標高も高いのでまだ残っています。 写真下左のラクダのコブのような山が二ッ森で、右が女山(南峰、標高695m)、左が男山(北峰、標高742m)です。外見から地元では荷鞍山と呼ばれ、オッパイ山という通称もあるそうです。 駐車場には5~6台の車が停まっていて、これは登山客だけでなく、ワラビ採りの観光客も含まれます。周囲はなだらかな丘陵で、かなり広い範囲が伐採されていて、無料のワラビ公園になっています(写真下右)。私は裏山にワラビがたくさんあるので、ここで採る必要はありません。 駐車場のすぐ奥に登山口があります。周囲には尾花沢市の花であるツツジが花を咲かせています。ただ、看板のわりにはツツジも花もそれほど多くはありません。写真下右はたぶんヤマツツジで、写真下左の看板のツツジはそうではありません。 北峰と南峰の間に流れる谷川に沿って登山道があり、その入り口にはミズバショウが葉だけ残り(写真下左)、近くでサンカヨウが花を咲かせています(写真下右)。 写真上右 サンカヨウ(山荷葉、Diphylleia
grayi) 小さな沢に沿って登っていきます(写真下)。 横に寝ている樹木はカエデの仲間です(写真下)。このあたりは豪雪地帯で、樹木は雪の重さに逆らわず、むしろ雪を布団代わりにして、厳しい冬を越す。「柔よく剛を制す」という言葉どおりで、相手が武力で来たから、武力で反撃するなど最悪の選択で、彼らはここのカエデの枯れ葉を煎じて飲んだほうがいい。 細い谷川に沿って登り始めると、さっそく道の両側にニリンソウが現れました。 写真下右など、一つの株で花びら(ガク片)が上が八枚で下が五枚と、変わり者が多そうで、ミドリニリンソウの期待が持てます。 山道に咲く花の名前を書いた看板があります(写真下右)。地元の人たちが登山客のために作ったのでしょう。北峰までの新しい登山道が2020年に作られ、無料のワラビ採りなど、地元が頑張っているのがわかります。 写真上左 チゴユリ(稚児百合、Disporum
smilacinum) 写真下はこの時期、低山で見かけるラショウモンカズラで、きれいな花なのに、おどろおどろしい名前が付いています。 写真上 ラショウモンカズラ(羅生門葛、Meehania urticifolia) クルバマソウは料理の付け合わせや香り付けに使うそうです(写真下)。 写真上 クルマバソウ(車葉草、Galium
odoratum) 少し陽の当たる山道にはツボスミレが群生しています(写真下)。 写真上下 ツボスミレ(壺菫、ニョイスミレ、Viola
verecunda ) タチツボスミレも春の定番です(写真下)。 写真上 タチツボスミレ(立坪菫、Viola
grypoceras) 見慣れたフデリンドウも山の上で見ると高山植物に見える(写真下)。 写真上 フデリンドウ(筆竜胆、Gentiana
zollingeri) 花に見とれながら心地よい沢に沿った山道を行くと、やがて周囲の樹木がなくなり・・・あら!「土合の鐘」のある北峰と南峰の分岐点に着いてしまったではないか(写真下)。私はミドリニリンソウを見つけそこねたのだ! ここから先は北峰(写真下左)と南峰(写真下右)の尾根沿いの山道で日陰も少なく、ニリンソウなど生えていそうもありません。私は山頂には用がないので、ここで引き返します。 登る時は他の花にも目を向けていたので見つけ損ねたのかもしれないから、下山は他の花には目もくれず、ひたすらミドリニリンソウを探します。 あった!道のすぐ脇にミドリニリンソウが咲いています(写真下)。花は二つしかないのが残念だが、山形県側で確認できた初めてのミドリニリンソウです。この後で説明しますが、奥羽山脈の西側でミドリニリンソウが確認されるのは珍しい。ちょうど通りかかった登山客にこの珍しい花を紹介し、喜んでもらいました。 写真上 ミドリニリンソウ(緑二輪草、Anemone
flaccida f. viridis) ミドリニリンソウは中国、四国、九州にはない?! 下の地図はYAMAPに登山者から寄せられたミドリニリンソウの目撃場所を▲で示したものです。期間は2023年3月19日~6月18日までのちょうど三カ月間の書き込みで、約450件ありました。植物園などは除いてあり、同じ場所での目撃の件数は関係なく、一度でも見られたら記載しています。今年の三カ月の記録ですから、これが本当のミドリニリンソウの分布と決まったのではなく、参考の一例です。 分布図を作って驚いたのは、関西から西の中国、四国、九州ではミドリニリンソウの目撃がない! 西側をカットしたのではなく、大阪の金剛山のミドリニリンソウを最後に、これよりも西では目撃されていません。ウィキペディアには、ニリンソウは「日本では北海道、本州、四国、九州に分布し・・」とありますから、四国や九州でもミドリニリンソウが目撃されてもいいはずなのに、ありません。 もう一つ不思議なのは、東北地方や新潟の日本海側、奥羽山脈の西側で目撃されていないことです。 ニリンソウはサハリン、大陸では中国北部、朝鮮半島などにも分布しますから、どちらかというと寒いのが好きな植物で、ミドリニリンソウは北海道でたくさん目撃されています。ちょうど『にっぽん百低山 藻岩山・北海道』(NHK、2023年5月17日)で札幌市の藻岩山のミドリニリンソウが放送されていました。それなら雪の多い東北地方の日本海側にもありそうなのに、青森の日本海側、秋田、山形にはほとんど目撃例がなく、新潟では佐渡にあるだけです。私が山形県の二ッ森でミドリニリンソウを目撃したのは例外です。 分布の偏りはミドリニリンソウが生まれた原因と何か関係しているのでしょう。 ミドリニリンソウは諸説紛々 なぜ花びらが緑色になるのか、定説は決まっていないようです。原因については主に病変説、先祖返り説があって、外にも突然変異説がありますが、先祖返りも結果は突然変異ですから、この二説で十分でしょう。さらに、細菌に対抗するために、先祖返りの突然変異を起こしたとも解釈できますから、まったく別々の説ではありません。そこで、ネット上で掲載されているこれらの説の素人解説をしてみます。 病変説とはマイコプラズマ(Mycoplasma)やファイトプラズマ(Phytoplasma)と呼ばれる細菌によって引き起こされた病変だという説です。なお、ネット上ではマイコプラズマをウイルスと紹介していることがありますが、ウイルスでないことは証明されています。 もう一つの先祖返り説が遺伝子レベルの変化なのに対して、病変説は遺伝ではなく、細菌に感染して花だけが病変しているという説です。病変で遺伝的に固定されていないなら、これを品種(form)として分類するのはおかしいことになります。 ネットでは、病変説の根拠としてミドリニリンソウは「2~3年程で元の白色に戻ります」と書いている人もいます。これは病変説の有力な目撃例なのに、残念ながら具体的な根拠が示されていません。 大阪よりも西にミドリニリンソウがないか、極端に少ないのだから、気候の違いが大きく影響していることになり、病変説に説得力が出てきます。ミドリニリンソウを作り出す原因の病原菌が寒いほうが好きだから、大阪よりも北で見られるという解釈です。ところが、ミドリニリンソウは東北地方の日本海側の寒い地方になく、逆に、関東地方の高尾山や筑波山といった積雪のない温暖な山にもありますから、寒暖の差だけでは説明がつきません。 病変説の最大の欠点は、これらの細菌がミドリニリンソウから確認されたという報告を探し出せないことです。病変ならもっとたくさんあってもいいのに、どうしてミドリニリンソウは探すのも大変なくらい一部でしか見られないのか。ミドリニリンソウはニリンソウの中に混ざっているのに、なぜすぐそばのニリンソウには感染しないのか。ネットでは二輪の花の一つが緑でもう一つが白というミドリニリンソウがあるという。一本から生えているのだから二輪に感染しているはずなのに、片方だけ緑色なのはおかしくないか、こういった疑問点が残ります。 先祖返り説は、花弁もガク片も元は葉から進化したものだろうから、遺伝的に逆戻りしたという説です。病変説と違い、こちらは遺伝子レベルで変化していますから、子孫に緑色が引き継がれることになります。 ミドリニリンソウの中には緑色の花びらに肉眼でわかるほどの毛が生えているなど、花びらというよりも葉に見えるのがあります。見た目からは、先祖返りという説は説得力があります。 ネット上にあるkatou氏の「三河の植物観察」での説明によれば、花が緑色や葉のようになってしまうのは他の植物でも見られ、中国原産のグリーンローズと呼ばれるバラは、花弁が退化して、ガク片や苞葉がまるで緑色の花のようになっているという(写真下)。 写真上 グリーンローズ(Wikipediaから転載) ネット上ではミドリニリンソウから採取した種を発芽させたという書き込みはあるのに、開花を確認したという話を探せませんでした。もし、殺菌処理をしてもミドリニリンソウの子孫がミドリニリンソウなら、遺伝的に固定された可能性が高いことになります。 病変説か先祖返り説か、決着は簡単で、ミドリニリンソウから細菌を見つけて、普通のミドリニリンソウに感染させてミドリニリンソウになるかどうかを確認するか、あるいは花の色を決定するミドリニリンソウ独特の遺伝子を探せばいい。しかし、たぶん誰もやっていないか、あるいは誰も成功していないようです。 ミドリニリンソウの花びらの色 花びらがピンクのウスベニニリンソウは、花びらにピンク色が混ざっただけで、普通のニリンソウと外見には大きな違いがありません(写真下左)。一方、ミドリニリンソウは色だけでなく、外見も違い、いくつかの型があって、一つに決まっていない(写真下右)。しかも、ある型がある特定の地域に偏在するのではなく、いろいろな型が、ミドリニリンソウが見つかる場所から一様に見つかっています。 両者は単純な色の違いなどではなく、ミドリニリンソウだけが奥が深い。 ミドリニリンソウを花びらの色の違いから大まかに分けてみます。 写真下は花びらが完全緑色で、ミドリニリンソウの数の上では少数派です。ニリンソウの花びらはガク片だというのは、これを見ると説得力がある一方、ガク片が葉っぱに先祖返りしたという単純な変化なら、大多数のミドリニリンソウは完全に緑色になるはずなのに、実際は少数派なのは、先祖返りの中身を示しているように見えます。 写真下は花びらのほとんどが緑色で、縁取りしたように周囲が白い。写真上の完全緑色と違い、白が入っているのでアクセントにはなっているものの、花弁というイメージではありません。 写真下はさらに白い部分が多く、見かけた範囲でいうなら、このタイプのミドリニリンソウが最も多く、また、見た目にもかわいい。 まるで白色と緑色の絵具があって、それを適当に塗った結果、白と緑の面積に差が生じたように見えます。混ぜ合わせも、写真下のように、一つの花でも花びらによって割合が違いますから、どうやら、「現場で絵具を混ぜ合わせる」らしい(笑)。 さらに緑色が少ないのが写真下で、模様がまだらになっていて、薄汚れたようで、きれいではありません。また、これも少数です。 写真下左で緑色が入っているのが後ろに3枚で、手前の3枚は「ソバカス」のように緑色が入っているだけです。一つの花びらの緑色にも濃淡があり、緑色の要素が少なくなると最後はこんなふうになるのでしょう。 写真下右は7枚の花弁すべてに緑の模様が入っています。後ろの3枚はツボミの時の外側なので、すでに枯れ始めて変色し、手前の4枚の花びらがまだ健在で、後ろと前で別グループなのがわかります。 色の変化だけでなく、すでに紹介した写真下のようにニリンソウとしての原型を留めないほどに花びらが変化してしまった花もあります。ニリンソウの葉にはギザギザがありますから、色だけでなく、形も先祖返りしたともとれます。写真下右の花びらの内側3枚は、形は緑の葉まで先祖返りしたが、色は白のままで、形質が混在していることになります・・・訳がわからない(笑)。 ここまでのミドリニリンソウの様子と推測をまとめると次のようになります。 ・ミドリニリンソウの花は色、模様、形に多様性があり、しかも地方や地域に偏らない。 ・花びら全体が緑色は少数で、白色が混ざったミドリニリンソウが多数である。 ・花びらが緑色になる原因はピンク色になる原因とは違う。 ・ミドリニリンソウはニリンソウの中に混ざっており、単独で生えていない。 ・一つの花でも花びらは全部が同じではなく、内外でグループに分けられる場合がある。 ・ニリンソウがたくさんある地域でもミドリニリンソウがあるとは限らない。 ・同じ山でもミドリニリンソウが生えている場所は限られる。 ・ミドリニリンソウは特に増加も減少もしていないように見える。 ・大阪から南にはミドリニリンソウはないか、きわめて少なく、ニリンソウの分布と一致しない。 ・東北地方と新潟県の日本海側にはミドリニリンソウはほとんどなく、佐渡島は例外である。 二種類のミドリニリンソウ 私は、ミドリニリンソウの特徴の中で、花びらが完全な緑色と、白色が混ざったのと二種類あることに注目しています。それを説明するために、ここでは便宜的に次のように名前を付けます。 「白ミドリニリンソウ」・・・・花びらが緑と白が混ざったミドリニリンソウ(写真下左) 「完全ミドリニリンソウ」・・・花びらが緑一色のミドリニリンソウ(写真下右) わざわざこんなふうに名前を付けたのは、この後述べるように、両者を分けて考えたほうが現実を説明できるからです。 写真上左「白ミドリニリンソウ」、写真上右「完全ミドリニリンソウ」 ミドリニリンソウとは何なのか、定説はないようです。そこで、専門家ならやらない大胆で、いい加減な素人説を考えてみましょう(笑)。 ミドリニリンソウは様々な姿があるにもかかわらず、それらが広く見られる一方、ミドリニリンソウそのものは大阪以南や東北地方の日本海側にないという偏りがあることから、病原菌によって今も常に発生しているのではなく、古い時代にある特定の地域で何らかの突然変異によって生じた遺伝的な形質ではないか。 最初は先祖返りで花びら全体が緑色の「完全ミドリニリンソウ」が発生し、遺伝的にも固定された。ところが、緑色の花では虫からは目立たないので、絶滅もしない代わりに増えることもなかった。ニリンソウとミドリニリンソウは遺伝的に近いから、交雑して「白ミドリニリンソウ」が発生した。三者は今も交雑している結果、発生確率的にも完全ミドリニリンソウは少数で、白ミドリニリンソウが多く見られるようになった。 この解釈は、今のミドリニリンソウが最初から発生したとは考えずに、先に完全に先祖返りした完全ミドリニリンソウだけが発生し、次にニリンソウと交雑して白ミドリニリンソウが出来たという前提です。それなら、写真下のような白と緑が混ざったミドリニリンソウが多くを占めることを、次のように確率的にも説明できます。 ミドリニリンソウが最初にできた理由は抜きにして、遺伝的なものであるとして、花の色の白と緑の遺伝子のみを考えてみます。 普通のニリンソウの白の花の遺伝子を「〇」で、ミドリニリンソウになる花の遺伝子を「●」で表すとします。つまり白い花は「〇〇」であり、完全に緑色のミドリニリンソウは「●●」です。白と緑はどちらかが優勢ということはなく、交雑すれば絵具を混ぜたように両者の形質が出てくると仮定します。最初に、完全ミドリニリンソウが突然変異で1本だけ発生して、白いニリンソウと交雑(×)すれば子孫の遺伝子の組み合わせは次のようになります。 「〇〇」×「●●」 → 「〇●」「〇●」「〇●」「〇●」 自然界に一本だけ完全なミドリニリンソウができれば、子孫には今見られるような白ミドリニリンソウがたくさん現れることがわかります。これで、ニリンソウ、白ミドリニリンソウ、完全ミドリニリンソウの三種類がそろいます。 「〇〇」・・・花びらが白い普通のニリンソウ 「〇●」・・・花びらが白と緑が混ざった白ミドリニリンソウ(写真下左) 「●●」・・・花びらが緑色の完全ミドリニリンソウ(写真下右) 写真上左「〇●」白ミドリニリンソウ、写真上右「●●」完全ミドリニリンソウ 次にニリンソウと2種類のミドリニリンソウの交配を考えてみます。白いニリンソウのほうが圧倒的に数の上で多いから、次の組み合わせの交配が最も多いはずです。 「〇〇」×「●●」 → 「〇●」「〇●」「〇●」「〇●」 「〇〇」×「〇●」 → 「〇〇」「〇●」「〇〇」「〇●」- やはり白ミドリニリンソウが多く発生して、現実に白ミドリニリンソウが多数を占めることの説明がつきます。 遺伝的な組み合わせを考えると、自然界に完全ミドリニリンソウよりも白ミドリニリンソウのほうが多いことの説明が定性的にはつくのだから、逆に言えば、細菌によってその個体だけにミドリニリンソウが発生しているのではないことになります。 ニリンソウは身近でありふれた花なので、細かく気を付けてみることもなく、ミドリニリンソウの話を聞いた時も、ニリンソウの花びらはガク片だから、緑に戻っても不思議ではないと軽く考えていました。だが、どうもかなり奥が深く、訳がわからない。山形県には目撃例がほとんどないとわかり、今後、ニリンソウを見かけた時にはミドリニリンソウを探してみるつもりです。 |