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ススキと電力

 

 ススキは河原などどこにでも生えている雑草というイメージでしたが、最近あまりススキの野原は見かけません。私の住んでいる近くに田んぼや畑があり、休耕地が増えているのに、子供の頃に見かけたススキの野原は少ない。

 昔は茅葺(かやぶき)などに利用していたから、ススキ野原は保護されていたが、今は十五夜でススキを飾る程度で、ほとんど利用されていないからでしょう。

 ここに掲載した写真はススキだけでなく、ヨシなどのイネ科の植物も含まれています。

 

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 昔は庭にススキ生えると、根が深く、除去するのが難しいので、大きくならないうちに取り除くようにしていました。ある時、周囲が宅地開発で田畑が消えて住宅地になっていて、ススキをあまり見かけなくなったことに気が付いて、庭に残っていたススキを保護するようになりました。

 

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 写真下は廃止された公務員宿舎の単身寮のススキです。敷地が広いので、様々な草花が咲き、秋にはススキが群落していました。廃止されてからは人もおらず、草刈りの回数も減り、ススキはどんどん広がっていました。今はこの風景はありません。

 

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 ススキがもっともきれいに見えるのは午後の陽ざしが斜めになる頃です。陽ざしを通してススキがきらきらと光る。そこに強い風が吹けば申し分ありません。ススキは風に激しく揺らされ、そのたびに陽ざしの当たり具合が変化するから、色や光具合などススキの表情が一瞬も同じではない。

 

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 風は一方向に吹いているのではなく、時には渦を巻くように右に左にススキを揺らします。ススキはまるで自分で光を放っているように、当たる角度が変わるたびに、金色や銀色にキラキラと光ります。

 

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 同じススキでも、西日が当たった時は金色に(写真下左列)、ちょっと陽がかげると銀色になります(写真下右列)

 

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 ススキが舞台の上で光を浴び、頭を振りながら激しく踊っているような光景です。音楽はスパニッシュ・ギターのようなリズムのはっきりした激しい楽曲が合うでしょう。いっせいに一つの方向に向かったかと思うと、バラバラになり、さらに細かいグループになってそれぞれ別々の動きをする。太陽が動くだけでなく、雲があると陽ざしが途切れますから、次々と変化していき、いつまで見ていても飽きません。残念なのは、私の写真の技術ではその激しい変化までは表現できないことです。

 

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 日差しがあり、陽が斜めになり、写真を撮る位置と逆光になるように陽が射して、しかも強い風が吹いているのが理想で、うまくこの条件が重なる日に私が行けるのは、そう何度とありませんでした。太陽はかなりの速度で動きますから、理想的な条件が整うのは一時間弱です。その時が来ると「ススキの狂宴」を心ゆくまで楽しみました。観客は、もちろん、いつも私一人でした。

 

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海外の茅葺屋根

 日本でのススキの有効利用は茅葺(かやぶき)屋根でした。茅葺は断熱性に優れているので、夏は涼しい。しかし、維持費がかかり、茅葺の職人もいなくなったので、今では一般住宅としてはかなり珍しく、稀に山間の集落で見かけると、なつかしさに車を停めて、無遠慮に写真を撮ってしまいます。

 

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 茅葺屋根は日本などアジアの屋根なのだろうと私は長い間思い込んでいました。ところが、南アフリカに行った時、茅葺の家があるのを見て驚きました(写真下)。アフリカの文化ではなく、植民地にしていたイギリスやオランダから伝えられたようです。「おかっぱ頭」がかわいい。

 

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 イギリス、デンマーク、ドイツ、オランダなどでは今でも茅葺の屋根があるようです。写真下はイギリス南西部のHeanton Punchardonという小さな村にある茅葺の建物で、ストリートビューから転載しました。

 

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 テレビで、デンマークの農村を再現した博物館が紹介されました(Funen Village Open-air Museum)。写真下はストリートビューから転載した博物館の敷地内の様子です。白壁など壁に色が塗られているので、日本の農家とはちょっと雰囲気が違うが、屋根の形が似ています。

 

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 同じデンマークのロラン島(Lolland)では今でも茅葺屋根の建物が現役のようで、テレビで紹介されました(『世界ふしぎ発見』TBS20171125日放送)。写真下はストリートビューから転載したロラン島の茅葺屋根の家です。簡単に探せましたから、珍しくないようです。実際に人が住んでいる建物です。

 茅葺に使われていたアシが絶滅したため、1992年に日本からススキを移植したという。茅葺屋根の製作が仕事として成り立っているほど茅葺が多いようです。

 

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 茅葺屋根が点在するというロラン島をネットで調べると、とても興味深いことが書いてありました。風車など自然エネルギーを使った発電によってエネルギー自給率が500700%だという。つまり、風車で発電事業をする島なのです。

 ロラン島は最初からこうだったのではなく、1970年代の石油ショックの時期にはデンマークはエネルギー自給率は2%と低く、ロラン島でも原子力発電が提案されていました。しかし、島の人たちは豊富な風力の利用を選択しました。今日のように地球温暖化で再生可能エネルギーの利用が勧められている時代と違い、彼らが風力を選んだのは1985年だというから、その先見の明には驚き、また振り返って、日本を見た時、うらやましい。

 

 

失敗から学ばない日本

 石油ショック当時のデンマークのエネルギー自給率が2%であったといいますから、日本よりもはるかに条件は悪かったのです。日本は資源のない国だから海外からの石油の輸入や原子力発電に頼るしかないといった主張が聞かれますが、そんなのは嘘だと、このデンマークの事例でもわかります。政治家たちがどちらに舵取りするかでまるっきり事情が変わってしまう。

 そして日本のエネルギー政策は世界の流れから見て時代遅れになっていることをご存じでしょうか。

 

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 日本は2011年に原発崩壊という大惨事を経験したばかりなのに、懲りずに数年後には原子力発電を再開し、今後も電力供給の2022%を原子力発電に頼るのだという(『長期エネルギー需給見通し』経済産業省、20157)。脳味噌に学習機能がついているのだろうか、と皮肉を言いたくなります。

 原発崩壊は不幸な出来事だったが、エネルギー政策を転換する絶好のチャンスであり、日本は世界に先駆けて、将来世界があるべき模範を示すことができたはずです。だが、チャンスを活かすどころか、逆の選択をしました。

 

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 二割を原子力発電に頼るなど、日本の将来を考えて判断したというよりも、原子力発電に投資した分の元を取りたい電力会社や、原子力発電から利益を得ている人たちの既得権を守るための数字でしょう。経済面のみを見ても、原子力発電は後始末まで考えたら非常に高価な電力です。値札がついておらず、いくら請求されるかわからない商品です。世界が再生可能エネルギーなど安全で安価な電力に転換していく中、日本が危険で後でツケの回ってくる原子力発電の電力を選んだのは愚かとしか言いようがない。

 

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 2011年の原発崩壊以後、風力発電や太陽光発電が見直されました。それまでの風力発電の研究などは国からの予算がつかず苦労していました。皮肉なことに原発事故が追い風になり、風力発電などが見直されたのです。私は、太陽光発電も産業用と家庭用の両方で普及が進めば、原子力発電や化石燃料に依存しなくても良い時代がいよいよ来ると期待しました。

 

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 しかし、数年たつと、太陽光発電の買い取り価格が下落するのはしかたないとしても、ついに2014年には九州電力が再生可能エネルギーの新規買い取りを中断するという発表をして、東京電力、中部電力、北陸電力を除く各社もいっせいに追随しました。再生可能エネルギーの発電をしても、買い取ってもらえないなら、やれません。電力は溜めておくことが難しいので需要と供給のバランスが崩れるという電力会社の言い分はあるものの、2016年の電力自由化をにらんでの抵抗、あるいは嫌がらせだったのでしょう。

 

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 電力の専門企業でありながら、電力供給がだぶつくのをコントロールできないなど、時代の流れに対応できず、社会的な責任を果たせないのなら、今の経営陣は引退するべきです。また、そのように政府がアメとムチで舵取りしなければならないのに、見て見ぬふりです。この反応を見ても、政府の再生可能エネルギーの推進などポーズにすぎないのがわかります。

 

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北海道から東京に送電できない?

 日本は高い技術力を持っているのに、未だに北海道で風力発電した電気のすべてを東京に送電することができません。21世紀の今の時代に、こんな簡単なことができないなんて、何かおかしいと思いませんか。北海道は電気を売りたい、東京は電気がほしいのに、たった1000kmほどを送電できないといのうです。送電する空き容量がないからだと電力会社は説明するが、大手電力会社10社の基幹送電線の利用率の平均はたった2割、つまり実際はガラ空きなのです(朝日新聞デジタル、2018128)。日本は科学技術の発展途上国なのかと言いたくなるような実態です。

 

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 この数字を見れば、電力会社は独占が崩れるのを恐れて抵抗しているのがわかります。電力会社は利益追求の企業ですから、既得権を離さず、独占的な権益を優先するのは普通の反応で、これに対して政府が国民と国の立場で英断しなければならないのに、電力自由化など最小限のことしかしない。

 

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 朝日新聞が、電力会社の社員のままで地方議員になっている人が99人いることを報じました(朝日新聞デジタル、20121125)。電力会社の労働組合から政治資金の応援を受けたり、選挙の手伝いをしてもらっているだろうから、結局、「電力会社の派遣議員」です。地方議員に99人いるのに、国会議員がゼロなんてことはありえない。

 こんな人たちが政治の中枢にいるのを見れば、電力会社の利益になる原発再稼働を推進し、明治時代と変わらず狭い日本を電力会社ごとに寸断して、再生可能エネルギーの受付中止を黙認するのも説明がつきます。

 

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 最近、日本は海外への原子力発電所の売り込みにことごとく失敗しています。これは2011年の原発崩壊を受けて、原子力発電の安全基準が厳しくなり建設費用が巨額になったことと、再生可能エネルギーの値段が安くなったからです。日本が原子力発電や石炭火力発電所を国にあげて売り込むのは、こういう世界の流れを読み取れない時代錯誤な感覚だからです。あの石炭大国で汚染を出している中国でさえも、2050年までに電力の80%を再生可能エネルギーに置き換えるという目標を掲げたのに、一世代前の技術にしがみついている日本は枯れススキ状態です。

 

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 既得権を握っている人たちが一世代前の原子力発電所や火力発電所にしがみつき、利害を共にする政治家たちが国の電力などエネルギーの方向を決めるのだから、日本が世界の流れから遅れてしまうのも当然です。本来なら、日本が世界の先頭に立って新しい時代のエネルギーの方向を示さなければならないのに、そんな見識のある識者が日本にはいないのは何とも情けない話です。

 

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自分でやれることから

 私は電力会社や政治家とも関係ない庶民だし、彼らが原子力発電を稼働させ、再生可能エネルギーにブレーキをかけるようなことをしてもほとんど抵抗できません。私の理想は、デンマークのロラン島のように、自然エネルギーを用いながら、しかも、彼らのような豊かな生活を送ることです。トイレのないマンションに住むのも、子孫に放射能や地球温暖化というツケを残すこともしたくない。

 

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 自分でやれることから始めるしかありません。電力の自由化が始まった時、私は原子力発電や化石燃料以外の再生可能エネルギーだけの電力を、少し値段が高くても購入するつもりでいました。節電のためにも部屋の灯りの大半をLEDに変えました。ところが、どこの会社も再生可能エネルギーを中心とするとあるだけで、中には半分近くが大手電力会社からの電力だという。

 

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 私の選択は、再生可能エネルギーの割合の高い電力供給会社を選ぶこと、太陽光発電をしている企業を応援すること、選挙では原発推進の政治家や政権に一票を投じないことです。これで計算上は私も自分が使う分の電力くらいは再生可能エネルギーから生み出すことで、原子力発電や化石燃料に依存していないことになります。ようやく野原のススキに追いついた()

 

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 日本人は模倣が上手であり、しかも細かく改善や改良するのが得意です。だったら、デンマークのロラン島を手本にして、日本も環境負荷をかけない社会を作り、今度は世界のお手本になるべきで、それこそが「美しい国・日本」です。放射性物質や温暖化という負の遺産を子孫に引き継がせるのは美しくありません。

 

 

 

 

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