海岸のスカシユリとヤマユリ 東北地方の日本海側の海岸にはスカシユリが咲いています。日本海側では北陸、太平洋側は中部地方が南限で、山形県の日本海の海岸では珍しくありません。 そこで写真下の三瀬(山形県鶴岡市三瀬)まで行き、そこから海岸に沿って北上しながら、スカシユリを探すことにしました。自分の都合と天気予報から2018年7月16日に行くことを決めました。スカシユリの開花時期としてはちょっと遅い。 山形市から日本海側には出羽山地を横切る山岳道路を通り、ほぼ直線的に行けます。半分くらいは高速道路と有料道路を乗り継ぐので、割引が適用されても、この日一日で2580円かかりました。 いつも思うのは、走った距離のわりには日本の有料道路は高い。無料にする必要はないから、もっと安くして利用を図るべきです。デフレからの脱却と称して、物価を上げることばかり熱心だが、おかしい。経済を発展させるためには、価格を上げるべき物と下げるべき物があり、下げるべき物の代表が通信費や有料道路などの公共的な料金です。どちらも日本は異様に高い。 山形市から一時間半ほどで、日本海に面した三瀬海岸に到着しました(写真上下)。ここはあまり有名な海水浴場ではないので、客は多くありません。こちらはそれが有り難い。ご覧のように、砂浜はほんの一部で、海岸の大半が岩場です。 ここではスカシユリは珍しい花ではありません。岩場で人の立ち入りが難しいから、スカシユリなどが残ったのでしょう。海水浴場のすぐそばの、人が登れないような岩山や民宿のすぐ裏にもスカシユリが咲いています(写真下)。 日本海側のスカシユリはイワユリと呼ばれているくらいで、岩場に多く、岩が良く似合う。 写真上下 スカシユリ(透百合) スカシユリという名前の由来は、写真下のように花弁の間にすきまがあるからです。透き通った美しいユリくらいの意味かと期待していたので、ちょっとがっかり(笑)。 昨年の2017年にサハリンでエゾスカシユリを見てきました。それと比べると、こちらのほうが小柄なのと毛が生えていない。エゾスカシユリは、気を付けて見ると少し毛が生えているのがわかります。 エゾスカシユリとのもう一つ大きな違いは生えている場所で、サハリンで見た範囲では、岩場に咲いていることはなく、すべて海岸近くの平地だけでした。また、園芸品種のスカシユリもどこでも咲く丈夫なユリというイメージです。それなのに、どうして自然界では岩場だけなのでしょう。 スカシユリは岩場や海岸が好きなのではなく、岩場は樹木や背の高い草が生い茂らないから、背の低いスカシユリでも生き残れたということなのでしょう。サハリンなどは岩場でなくても、海辺は背の高い樹木がないから、残れたのでしょう。 岩場にはスカシユリ以外にもいろいろな花が咲いています。写真下の四種は海岸特有ではなく、一般的な草花に見えます。 写真上左 ツリガネニンジン(釣鐘人参) 写真上左 ヤブカンゾウ(藪萱草) 海岸に咲くハマナデシコというナデシコがあるそうですが、写真下は普通のカワラナデシコでしょう。ちょうど盛りのようです。私の庭にも植えてあり、背が低いので背の高い他の植物に取り囲まれてしまうと負けてしまいます。逆に、周囲に何もないと、急激に広がり、群生すると野生の花にしてはなかなかきれいです。 写真上下 カワラナデシコ(河原撫子) 海岸に分布するという薄紫のエチゴトラノオが岩場にたくさん咲いています(写真下)。 写真上下 エチゴトラノオ(越後虎の尾) 日本海側の東北から北陸にかけで自生するというから、ここの固有種のようです。名前にエチゴとあるくらいで、新潟県が本場らしいが、準絶滅危惧種に指定されていて、数は少ないようです。ここの浜辺ではそれほど珍しくありません。 エチゴトラノオの花にセセリチョウが蜜を吸っています(写真下左)。本州以南で見られ、北海道では少ないそうです。 写真上左 ヒメキマダラセセリ(姫黄斑挵) 写真上右 ゴマダラカミキリ(胡麻斑髪切) 日本には150種類のアザミがある、と聞いただけで、名前を特定しようとする意欲はなくなります(笑)。 ありふれたミヤコグサなのだが、海辺だとなんとなくきれいです(写真下)。ミヤコグサは古い時代に日本にやって来たのに、すっかり日本の草花になっています。 写真上 ミヤコグサ(都草) キリンソンは日本の浜辺に普通に見られる花です(写真下)。 写真上 キリンソウ(麒麟草) 写真下のヒメヒオウギズイセンはどこにでもある外来の園芸種で、スイセンではなく、アヤメの仲間です。幸い、今回、海岸のヤブの中で見つけた花を咲かせている外来種はこの一つだけでした。 写真上 ヒメヒオウギズイセン(姫檜扇水仙) 三瀬を後にして、酒田市方向に海岸に沿って112号を北上します。道の斜面にはあちらこちらにスカシユリが咲いているのが見られます(写真下右)。崖になっているので盗掘を免れているのでしょう。 海辺のヤマユリ スカシユリを探しながら、ゆっくりと車を走らせていると、山の斜面が白くなっているのが目に入り、車を停めました。カメラの望遠レンズでのぞいてみると、何か花らしいものが見えます(写真下)。遠くから見ても、これだけ見えるのだから、かなりの群落です。いったい何の花だろう? 斜面にこれだけの花が咲いているだから、何か観光施設として整備されているのかと、周囲を見渡しても、直接行けそうな道はありません。左側に耕作した斜面があるので、方角が違うが、そこから見当を付けて、ヤブの中を突き進みました。道はありません。 近くまで行かなくても、斜面にあるのはヤマユリなのがわかりました。すごい数です。ただ、ヤブなので、少し進むのも容易ではありません。 お花畑の中を探しても下からの道はありませんから、一般人が立ち入った様子はありません。ただ、写真下のように、赤いビニールの紐を付けたユリが何本かありますから、まったく放置されているというわけではないようです。この赤い紐が何の意味があるのか、よくわからない。 ヤマユリは人工的に植えたものではなく、元々ここに生えていたのでしょう。先ほどスカシユリを見ていた三瀬でも斜面にヤマユリが見られました(写真下)。 周囲の山を見ると、集落の北側の斜面にも白い花の群落が見えます(写真下)。つまり、このあたりの海岸ではヤマユリはありふれた植物のようです。 ヤマユリが北日本、東日本に広く分布していますから、日本海のこのあたりに生えていても不思議ではありません。しかし、これほどの群落があるとは知らなかったので、驚きました。ヤマユリは名前からして山の中にあるユリというイメージで、山の上とはいえ海岸近くにこんなにあるのはうれしい予想外です。山形県内の内陸部に比べて日本海側のほうが圧倒的にヤマユリが多い。 海岸近くの山は樹木が生えていない斜面があり、ヤマユリなど背の低い草花にとっては好都合です。ヤマユリが増えている意外な場所は、常磐道や東北道などの道路の斜面です。擁壁で固めた土手にどこからか種が飛んでくるのか、見事に咲いています。樹木がないという点でここと環境が似ているのでしょう。この点、山形県の内陸部の山は樹木におおわれているし、しかも放置されているから、ヤマユリにとっては好ましくない環境になりつつあります。 ヤマユリはある程度背が高いので、この山のような樹木のない草原の中でも残り、スカシユリは背が低いので、草原さえもない岩場に残った。 眼下には海水浴場があり、それなりににぎわっています。しかし、皆さんは海のほうばかりで、ヤマユリには誰も関心がないらしい。これだけのヤマユリがあれば、整備して十分に観光として成り立つでしょうが、個人的には誰も見向きもないのがありがたい(笑)。 今日はスカシユリを見に来たつもりが、たくさんのヤマユリに出あうという意外な展開でした。大群落のヤマユリに堪能して、出羽山地を越えて、帰ります。 |