水辺を巡る 農薬が流れ込まない「じゅんさい沼」 ジュンサイは沼などに生えているスイレンに近い水生植物で、若芽は食材に使われます。ジュンサイを観光の売り物にしている山形県村山市にある「じゅんさい沼」は生態系が豊かで、水辺の散策だけでも楽しい所です。ところが、じゅんさい沼の近くにある他の溜池はジュンサイがないだけでなく、生態系が貧弱でおもしろくない。この違いは、じゅんさい沼は西にある村山葉山から水を直接引いているので、農薬や化学肥料などの流入が少ないからです。ある意味、農薬や化学肥料の悪影響を比較した実験結果のような沼です。 じゅんさい沼 沼などに生えるジュンサイは初夏の食材で、ある時、私はジュンサイを食べたことはあるのに、花を見たことがないことに突然気が付きました!これは大問題です(笑)。山形市から北に車で一時間ほどの村山市に「じゅんさい沼」と呼ばれる大谷地沼があり、ジュンサイを観光の目玉にしています。それなら簡単に花が見られるだろうと2022年7月14日に出かけました。 下の地図が今回散策した5つの沼で、いずれも農業用の溜池です。私が「東溜池」と名付けた沼(●)は、じゅんさい沼の東隣にあって、国土地理院の地図にはありません。ジュンサイはじゅんさい沼(大谷地沼)、東溜池、下溜池にのみ生えています。 じゅんさい沼はジュンサイの葉が浮かんだきれいな沼です(写真下)。ジュンサイは秋田県が生産量が日本一で、日本中に分布していたのに、水質汚染で減っているようです。また「じゅんさい沼」という名前の沼は北海道や秋田県などに何ヵ所かあります。ここのジュンサイは天然物だという。農産物のジュンサイは植えつけられ、三年目から収穫されるのに対して、ここでは自然に生えるままにしてあるという意味なのでしょう。 水に浮いているのがジュンサイで、10cm前後の楕円形の葉を付けます(写真下)。食べるのはこの葉ではなく、葉が水面に浮かび上がる前の若葉で、ヌヌルヌルした粘液に覆われています。 写真上 ジュンサイ(蓴菜、Brasenia schreberi) 写真下のように、箱舟に乗って客が自分でジュンサイを採るのがここの目玉観光です。私は採ったことがないので体験は語れません。体験者によれば、同じ姿勢を長時間続けるので見た目よりも大変で、販売されているのを買ったほうが楽だと言っていました。 最初から自分で採る気のない怠慢な私は(笑)、販売されているジュンサイを確保しなければなりません。本日の販売予定数は12個で(写真下左)、12時から整理券を配り、13時半から受け取れます。整理券は予約券ではないので、13時半に行かないと不要とみなされます。私は12時に行き、4番ですから、何とか買えそうです(写真下右)。たった12個という数字を見てもわかるように、ジュンサイ採りは手間暇がかかり、しかも人手がない。 平日だったこともあり、客が少なく、私を含めて全員が二度並んで、一つ1000円のジュンサイを二袋買いました。じゅんさい沼の前で、誇らしく二袋のジュンサイの記念撮影です(写真下左)。6月にたまたま立ち寄った時は午後も遅かったので、「本日完売」の看板が出ていました(写真下右)。 じゅんさい沼の散策 食べるジュンサイは手にいれたので、水辺を散策してジュンサイの花を探しましょう。花はかなり小さく、しかも地味らしい。ジュンサイは目の前にたくさんあるのに、花らしいのが見つからない。 地元の人に聞くと「その辺にあるよ」と言うのに、私は探し出せない。岸辺しか探していないからでしょう。花が見つからないと、だんだん探すのに飽きてきた(笑)。花よりも風が作り出すさざ波がきれい(写真下)。 見つけた!ジュンサイの葉の間に黄色い花が咲いている(写真下)・・・でも、ジュンサイの花は黄色ではないし、こんなきれいな花ではなかったはず。 葉のそばにあるからジュンサイの花のように見えるだけで、これは食虫植物のタヌキモの仲間です。花の真ん中が赤いことからイヌタヌキモでしょう。 写真上下 イヌタヌキモ(犬狸藻、Utricularia australis) 「狸」という名前もひどいのに、こんなかわいい花に「犬狸」ですよ!名前を付けた人に、タヌキモに代わって抗議したい(笑)。 水の中にカメラを入れてみると、イヌタヌキモの葉の根本に黒い点々が付いています(写真下)。これは水中のミジンコやボウフラなどの虫を吸い込む捕虫嚢(ほちゅうのう)らしい。 水中での水の透明度を見ればわかるように、じゅんさい沼の水は薄く濁っており、透明度が高いわけではありません。これは今回訪れた五カ所の沼に共通しています。 薄いピンクに縁取りされた白い花が、水の上に落ちたように咲いています(写真下)。これもジュンサイの花ではありません。写真下の画面の奥にも二輪の花が咲いているのが見えます。 写真上下 ミズオオバコ(水大葉子、Ottelia alismoides) 水の中をのぞくと、ミズオオバコのホウレンソウくらいの葉が繁茂しています(写真下)。花が咲いているのに、緑だけの葉は少なく、大半は赤味を帯びているのは、枯れ始めているのか、元々の姿なのか。昔は田んぼでは良く見られた雑草なのに、あちらこちらで絶滅危惧種らしい。私の自宅近くの田んぼではしっかりと除草剤がまかれますから、見かけたことがありません。 村山葉山からの水 じゅんさい沼の水源は、直線で西に15kmほどに位置する村山葉山(標高1,462m)で、じゅんさい沼の北側の川に(写真下左)、西から流れ込んでいます。それが写真下右で、農道と田んぼの間の細い水路です。1960年代後半から除草剤が使われ始めるとジュンサイが激減したことがあり、そこでこの専用の水路を作って、村山葉山からの水だけが流れ込むようにしたところ、ジュンサイが復活したそうです。 このジュンサイの復活の話は、喜ばしいというよりも恐い話です。なぜなら、除草剤など農薬が水系の植物を絶滅させていることを意味するからです。実際、昔は田んぼでは良くみられた植物のいくつもが今では探すのも苦労するほどです。農家にとってイネ以外の植物は雑草であり、駆除するために熱心に除草剤をまいています。 じゅんさい沼の水は、この後に紹介する東溜池と下溜池にも流れ込んでいます。 今も、ネオニコチノイド系の農薬が飲み水にまで入り、成長期の子供にも害をなしているのではないかと、一部の学者からの指摘があります。農薬を使わなければ農業は成り立たないから、難しい問題です。ただ、もう少し自然のほうに人間が妥協しないと、ネオニコチノイドのように、別な形でしっぺ返しを受けそうです。 上の衛星写真を見ても、じゅんさい沼の北側は長年の土砂の流入と植物の進出によって埋め立てられているのがわかります。水路から北に川がのびているのは、水が流れ込むので土砂で埋もれることなく残ったのでしょう。川といっても、北側は行き止まりですから、まるで細長い池みたいです(写真下)。川は対岸の東側は道もないから立ち入り不可能で、西側も草刈りした跡はあるものの、今は夏ですから、ひどいヤブで、岸辺には草と樹木が生い茂り、近づける状態ではありません。 ヤブの間から水面に見えるスイレンのような白い花はヒツジグサです。じゅんさい沼のジュンサイ採りが行われている南側でもヒツジグサの葉だけは見られます。 写真上 ヒツジグサ(未草、Nymphaea tetragona) 写真下左がここのヒツジグサ、右は私の自宅の池にあるスイレンで、良く似ている。実際は、ヒツジグサのほうが花も葉も小さいので見た目で区別がつきます。ヒツジグサだけが日本固有のスイレンです。つまり、私の家の池には外来種のスイレンと外来種の黒いコイと外来種のアメリカザリガニがいます(笑)。 ヒツジグサの周囲にあるのはジュンサイだと思い込んでいたら、良く見ると葉が小さく、縁にギザギザがあります(写真下)。川を埋め尽くしているのはジュンサイではなく、ヒシで、汚れにも強く、猛烈な勢いで増える浮草です。 そういう目でもう一度見ると、写真下の沼と接している川の入口あたりにはジュンサイがほとんどなく、コウホネがみられるくらいです。じゅんさい沼なのに、水が流れ込む所にはジュンサイはなく、しかもその奥の川にはヒシが繁茂している。どうして? 人間の手が入っているからでしょう。じゅんさい沼は観光用の沼なので、天然物とはいいながら、ジュンサイを保護するためにヒシやヒツジグサなどジュンサイの競争相手を駆除しているらしい。その結果、観光客用の沼の南側はジュンサイが生い茂り、観光客の来ない北側は放置されて、繁殖力の強いヒシがジュンサイなどを駆逐した。 川の北側は行き止まりですから、水が澱み、富栄養化が進み、ヒシにとって好都合な環境になったのでしょう。ジュンサイは貧栄養から中栄養くらいの水を好むそうで、この点でもジュンサイは化学肥料を使う農業とは相性が悪い。 豊かな水辺の生き物 ジュンサイを抜きにしても、じゅんさい沼は散策したくなるようなきれいな水辺で、トンボは種類も数も多い。村山産業高校の生徒が調査したところ、16種類のトンボが見つかったというから驚きます。(矢作峻人、小関千晴「 希少生物の保護を目指して ~日本一の生物宝庫~」森林・林業技術交流発表会、2012年) 汚染されていない水らしくイトトンボが多い。目につくのが黄色いイトトンボで、名前はそのままキイイトトンボです(写真下)。 写真上 キイイトトンボ(黄糸蜻蛉、Ceriagrion melanurum) 産卵の様子がおもしろい。写真下左のように停まり、メスが水の中にシッポを入れて産卵している(写真下右)。 写真下右など、シッポをずいぶん水に深く入れています。別なトンボを見て理由がわかりました。 写真下では、トンボは水の中に卵を産み落としているのではなく、シッポを曲げて水草の茎に卵を産み付けています。卵が流されないためでしょう。トンボが水の上をジャンプするようにして産卵しているのを見かけるから、トンボはすべて水の中に産み落とすのかと思っていました。 この沼にはコバネアオイトトンボという珍しいイトトンボがいるらしい。写真下は、残念ながら一般的なクロイトトンボのオス(左)とメス(右)でしょう。 写真上下 クロイトトンボ(黒糸蜻蛉、Paracercion calamorum) 写真下のトンボも産卵の格好だが、一匹だし、水から出た茎だから違う。では、何をしているのだろう? ショウジョウトンボはいつ見ても見事なまでの赤トンボです(笑)。 写真上 ショウジヨウトンボ.( 猩々蜻蛉、Crocothemis servilia
mariannae) チョウトンボは黒いから、逆に良く目立ち、沼のいたるところにいます(写真下)。チョウトンボも良く見ると、羽の透明な部分に違いがあります。 写真上 チョウトンボ(蝶蜻蛉、Rhyothemis fuliginosa) タニシは私の自宅の近くの小川にいくらでも見られたのに、今はほぼ全滅です(写真下)。近くの田んぼで見かけることも珍しい。 水路でアオダイショウが水浴びをしています(写真下)。暑いので身体を冷やしていたのでしょう。私は子供の頃からの知り合いなので「やあ、しばらくぶりだね」と挨拶をする。ヘビの嫌いな方には恐縮ですが、ヘビも生態系の重要な生き物で、マムシやヤマカガシと違い、アオダイショウは毒もなく、性格は穏やかで、自分から攻撃はしませんから、生温かい目で見てやってください(笑)。 東溜池:農薬汚染の少ない沼 じゅんさい沼の東にあって、私が東溜池と名付けた沼に行きました(写真下)。すぐそばなのに、誰もいません。沼の片側にかろうじて通れるくらいの草だらけの道があります。つまり、この沼には人が来ていない。 元々、ここは観光用ではなく、ジュンサイを採取するのが目的らしく、採取用の箱舟があります(写真下)。どちらも水が入り、最近使われていない。じゅんさい沼と違い、ここはジュンサイが一面に隙間もなく生えていて、舟が入って採取した様子はありません。ジュンサイ採りは手間がかかり、人手不足が問題になっている影響がこの光景なのでしょう。 ジュンサイがたくさん生えているのに、ちょっともったいない。この沼なら舟に乗ってただ浮かんでいるだけでも楽しそうです。 東溜池は、次に行った下溜池と同様に、じゅんさい沼からの水が流れ込んでいます。また、じゅんさい沼との間の西側は林で(写真上)、東側の田んぼは東溜池よりも低いので(写真下)、農薬の入った水が流れ込むことはありません。農薬の影響が少ないのはジュンサイが繁茂していることが何よりの証拠でしょう。 下溜池:農薬汚染の少ない沼 じゅんさい沼の南にある下溜池(したためいけ)に行ってみましょう。東溜池と同様に、じゅんさい沼から水が流れ込んでいます。 下溜池の周囲の田畑とは道路などで隔てられているので(写真下)、田畑から農薬や肥料の混ざった水が沼に流れ込むことはありません。じゅんさい沼と違い、田畑に道をはさんで隣接していますから、飛散してくる農薬の汚染は避けられないものの、最小限で済んでいる。 こちらも観光用の沼ではありません。じゅんさい沼は観光客がジュンサイを採りやすいように、他の水生植物があまりはびこらないようにしていると聞いていますから、逆に、こちらの沼はジュンサイ以外の水系の植物が期待できます。 一面に生えているのはジュンサイで、今はジュンサイの採取が行われているので箱舟があります(写真下)。私の買ったジュンサイはこちらの沼で採ったものでしょう。 ただ、今が採取の季節なのに、水が入ったままの舟もあります。水面には舟が通過したような跡もあるのに、じゅんさい沼に比べてジュンサイの密度が高いのは、採取の頻度が低いからでしょう。 下溜池はL字形で、ジュンサイの採取に利用しているのは北側だけらしく、南側に行くにつれて他の水生植物が多くみられます。写真下の中央部にはヨシが半島を作り、対岸にも密に生えています。 写真下 ヨシ(アシ、葦、芦、蘆、葭、Phragmites australis) 道に沿った岸辺にはウキヤガラがたくさん、ガマが少し生えている(写真下)。 写真上 ウキヤガラ(浮矢幹、Bolboschoenus fluviatilis) 写真上 ガマ(蒲、香蒲、Typha latifolia) 下溜池の南側で多く目につくのがコウホネです。コウホネは葉がハスのように水から出ていて、しかも細長いので、他の水生植物と明瞭に区別がつきます。ただ、本州から南では葉はこれほど細長くはないそうです。 写真上下 コウホネ(河骨、Nuphar japonica) コウホネの黄色い花が咲いています(写真上下)。コウホネの花は全体が黄色なのに対して、月山にあるオゼコウホネは花の真ん中(柱頭盤)が赤なので区別がつきます。 新堤:農薬が流れ込む普通の溜池 ジュンサイの花を探すのは次回の楽しみにして、じゅんさい沼の北にある新堤という溜池に行きました。「新」と名前がついているように、国土地理院の地図で見ると、昭和時代に作られた溜池のようです。 これまで見てきた三つの沼と違い、ここは周囲の田畑を通過してきた水が流れ込んでいます(写真下右)。 このあたりは西に山があり、下の地図のように、東に下がる地形で、水は東にある最上川に流れ込みます。大きな川がないので、溜池をいくつも作ったのでしょう。当然、溜池の上流の田畑から農薬や肥料の混ざった水が大堤と新堤には流れ込みます。 下図の青で囲ったじゅんさい沼など三つの沼と、緑で囲った新堤や大堤の沼は、すぐそばにあり、地形的な環境も似ているにもかかわらず、流れ込んでいる水がまったく違うという点で、農薬や化学肥料の効果が明瞭に区別できます。 新堤は東側の堤防にしか道がなく、沼を一周することはできません。見た範囲では、水面はヒシに覆いつくされています(写真下)。 この沼を単独に見る分には特に変わった点はなく、むしろ緑豊かな沼のように見えます(写真下)。しかし、他の水草はなく、トンボが飛び交っていることもなく、昆虫も少なく、ヘビもいないので、単調でつまらない。前の三つの沼に比べて、ここはおもしろくない沼だと思ったら、次はもっとおもしろくない沼だった(笑)。 大堤:農薬が流れ込む普通の溜池 写真下は一番北にある大堤という溜池で、図体がデカイだけで、もっとおもしろくない沼です(笑)。農業用の貯水池で、観光用ではありません。 南岸以外は整備された道があり、西側は公園として整備されていて、人もいないので、散歩には良いでしょう(写真下)。新堤と同様に、この沼を単独で見る分には、整備され、それなりに自然が豊かです。しかし、じゅんさい沼のたくさんの水草や昆虫を見た後でここに来ると、「閑散」としていてつまらない。 沼の周囲を一周しても、これだけの沼なのに水生植物が少なく、ヒシが一部で見られる程度で(写真下)、沼の大半には何もない。先ほどの新堤が沼一面を覆うほどのヒシが生えているのに、どうしてここは少ないのでしょう。水辺にいっても悪臭がすることはなく、じゅんさい沼と水の透明度は同じ程度で、競争相手もいないのだから、ヒシが大繁殖してもいいようなものなのに、ほんの一部に少ししか生えていません。 ヒシは根が水底までのびて栄養を吸収しますから、沼が深すぎるのだろうかと、ネットで調べてみると、根は2mくらいのびるとあり、中には5m近いものがあるという報告もあります。(吉村真由、渡邉健太郎、平嶋祐大「解明!なぜ、ヒシモドキは絶滅するのか?Ⅱ」『共生のひろば』10号、22ページ、2015年) 沼の中心部が深くても、岸辺ならいくらでもヒシが増えそうなのに少ない。ここも新堤と同様に農業用の溜池ですから、水を浄化する力のあるヒシをわざわざ除去しているとは思えない。 ヒシは外来種ではなく、アオコを減少させる効果もあるので、これを活用しようという動きもあるようです(宮下洋平「浮葉植物ヒシTrapa japonicaを活用したアオコ防除に関する研究」北海道大学博士論文、2018年)。 ヒシによって水の透明度が高くなり、水質は安定するといった良い面がある一方、密集すると水中の酸素濃度を下げるらしく、他の水生植物に悪影響を与えるという(幸福智、菊地心「達古武湖における水生植物の保全・再生に向けた取り組み」『I-Net』50号、8ページ、2018年)。 ヒシの繁茂に人間が手を加えて、うまく使えば水の浄化には役立つようです。 農薬が有る無しの50年後の実験結果 じゅんさい沼などジュンサイの生えている沼と、新堤や大堤など溜池に使われている普通の沼では印象が大きく違っていました。前者がジュンサイだけでなく、昆虫など動植物が豊かで、歩き回るだけでも楽しく、自然が豊かな印象を受けるのに、後者は前者と比べると単調で貧相です。どちらも人間が手を加えている沼なのに、この違いはどうしてなのでしょう。 明らかに除草剤などの農薬の影響でしょう。 じゅんさい沼にジュンサイを復活させることができたのは、農薬の入らない水を村山葉山から直接引いて来たからだといいます。じゅんさい沼には汚染されていない水が引かれ、その水が東溜池と下溜池も流れ込んでいます。一方、新堤と大堤は、周囲の田畑などからの水が流れ込んでいるから、農薬や化学肥料の影響をもろに受けています。これこそが、両者の違いを生んでいるのでしょう。 農薬の影響がどのように出るか、二つのグループの沼で大規模に実験したようなもので、おおよそ50年にわたる実験結果が今の状態です。 新堤や大堤だけを見たら、水系も緑も豊かに感じます。だが、じゅんさい沼と比較すると、多くの動植物が失われているのがわかる。これはここだけでなく、他の沼でも起きているはずです。じゅんさい沼の生態系が特別に豊かなのではなく、私の周囲にある他の沼が農薬や富栄養化で貧相になったらしい。ところが、そのことに私だけでなく、大半の人たちが気が付いていない。 |