台湾の植物と自然観察 2日目 2023年6月21日(水) 埔里 → 合歡山 → 埔里 朝、6:00に起床。窓をあけると、晴れています(写真下)。これから標高3400mほどの合歡山に高山植物を見に行くので、今日だけでも雨は勘弁してほしい。幸い、この天気なら、山の上でも晴れが期待できます。 今日は、埔里(プーリー)から合歡山までを往復して、合歡山主峰に登り、高山植物を見ます。3400mの主峰に登山するなど、すごい話に聞こえるが、登山口から山頂までの落差は200m程度で、道は整備されていますから、天気さえ良ければ普通の運動靴で登れます。 6:30からホテルの一階のレストランで朝食です(写真下)。私は朝食はとらず、そのまま朝の散歩に出かけました。 朝市 高い山に行くので出発が7:45と少し早目で、食事をしていたら散歩に行く時間がなくなります。ホテルの近くで朝市があり、私には朝食よりも価値がある(笑)。下の地図で、青線で示したあたりが朝市が開かれる北環路です。 写真下のお客さんたちはヘルメットをかぶっています。スクーターで買い物に来ているので、車と違い、駐車場がなくても困らない。台湾ではスクーターが庶民の足です。 うまそうなチマキです(写真下)。この暑さで、日持ちするはずがないから、写真下左のように、こんなにたくさんでも売れるくらい、お客さんが来るらしい。買って朝食代わりにしたいくらいです。 野菜や果物も豊富で、南国だから果物は特にうまそう(写真下)。 昨日食べたライチが山積みです(写真下)。写真下右の「黒葉茘枝」とは、葉が黒いのではなく、耐湿性があり、収量性が良い品種です。 写真下左はドリアン、写真下右はドラゴンフルーツ、ライチ、マンゴーです。生産地の果物はうまいに決まっているから、時間があれば、片端から食ってみたい。 ガイドの黄さんから、台湾ではリンゴは高級果物だと聞きました。写真下左の小さいフジは1個15元(約75円)、7個100元(500円)、写真下右では3個100元(500円)とあります。日本でも六月には小さなリンゴ一個が、国内産やニュージーランド産でも120~150円くらいしますから、7個500円なら日本に買って帰りたいくらい安い。一個ずつシールが貼ってありますから、輸入品かもしれません。 写真下右の左側にあるのはモモです。昨日、コーヒーでライチを食べようとしていると小さな桃を売り来た人がいましたから、地元産で、6月に桃が収穫できるらしい。 写真下は日本ではまず見られない光景です。こんなふうに示すのを趣味が悪いと嫌がる人もいるかもしれません。私は、スーパーでパック詰めされた食べ物が、どんな生き物の命を食べているのか、知るべきであり、特に子供たちには示すべきだと思っています。そうすれば、大食い競争や美食飽食などは減るのではないか。 花も売っているものの、種類も数も期待したよりも少ない(写真下)。 バスで山登り ほぼ予定どおりにホテルを出発(7:49)。埔里は標高500mほどの高地にある盆地ですから、周囲は山に囲まれていますから、道はすぐに山道に入りました。これから3000mをこす合歡山の麓までバスで上ります。 仁愛郷のガソリンスタンド霧社站でトイレ休憩(8:26、写真下)。 店の隣の山の斜面にクワズイモが生えていて、花ばかりか、赤い実までついています(写真下)。中国南部、東南アジアだけでなく、日本でも九州や四国などに生えています。名前どおりで、毒性があって、食べるのはダメで、茎などの汁にも触れるなと言われています。コイツは見た目よりも恐い。 写真上 姑婆芋(Alocasia odora、クワズイモ) 写真下左は霧社水庫と呼ばれる貯水池で、湯浅先生によれば、こんなに干上がっているのを見たのは初めてだという。ネットで調べると、2021年には台湾全土の雨不足で、この貯水池がもっと干上がったことが報じられています。近頃は地球温暖化の影響なのかと疑わせる出来事が多すぎます。 仁愛郷のこのあたりの高度は1500~2000mほどで、避暑地としてたくさんの民宿やホテルがあります。 観光客向けに土産物店が並ぶ翠峰農産品市集でトイレ休憩です(9:12、写真下)。 果物、野菜、お菓子、多肉植物まで売っています(写真下)。 お茶も売っています(写真下)。私は台湾の凍頂烏龍茶を普段から飲んでいるので、今回、自分へのお土産として多めに買って帰るつもりでいました。霧社高山茶が150gで350元(約1750円)、450元(2250円)、650元(3250円)だという。アマゾンでの値段と比べると、ここのお茶は高くも安くもありません。円安のせいもあり、割安感はイマイチです。 翠峰農産品市集から1kmも行かずに、標高2309mの翠峰雪季車両管制哨でバスを停めました(写真下)。こうやって頻繁にバスを停めるのは高山病対策に効果があります。 遠くの山の雲が目線と同じ高さになってきました(写真下左)。 道端にヤナギイチゴが生えています(写真下)。日本では関東から南、中国や台湾に分布します。後で調べると、実は甘くて食えるという。しまった!食べてみるんだった(笑)。 写真上 水麻(Debregeasia orientalis、ヤナギイチゴ、柳苺) 山はいよいよ高くなって酸素も少なくなるのに、自転車で登っていく人たちもいます(写真下左)。 鳶峰観景台 標高2700mにある鳶峰観景台で休憩です(9:50)。 南東に開けた展望台には奇萊北峰、奇萊連峰、奇萊南峰の説明書きが日本語でもあります(写真下)。 奇萊連峰とは奇萊主峰、奇萊北峰、奇萊南峰、南華山の四つをさすらしいが、展望台から見える遠くの山は写真下だけで、具体的にどれがそれなのかわからない。いずれにしろ、私たちは奇萊連峰に行くのではないから、気にしないことにしましょう(笑)。 3000mを越える山々を見ながら、さらに進みます。とてもそんな高山に見えないほど緑が多い。 合歡山の南にある昆陽駐車場に到着しました(10:14、写真下)。このあたりで標高3100mです。ここから先はトイレがないので用を済ませ、バスで登山口まで移動します。 合歡山主峰の登山口までの道路は狭く、登山口のわずかな隙間にバスを停め、急いでバスを降ります(10:30)。路上駐車を防ぐために、わざと道幅を必要最小限にしているのでしょう。 登山開始 幹線道路は狭いのに、登山道そのものは軽四輪車なら走れるほどの幅があるので、進入禁止の看板まであります(写真下左)。 車が通れるほど「大通り」を登るのでは面白みがないと登山客が思う結果、あちこちに脇道や近道が複雑に作られています(写真下右)。登山口が標高3200mなのに、皆さん、足が速い。高山病に弱い私は、もちろん付いていく気はありません。Google Earthのストリートビューでこの登山道を山頂まで登れるので予行演習をして、地図も準備して、しかも今日は晴れているから、遅れても道に迷う可能性は低い。 登山道の周囲は玉山箭竹という笹竹に覆われているのに、地味なので目がいきません(笑)。 箭竹とは矢に使う竹という意味で、20~50cm程度の短い竹でどうやって矢を作るのかと思ったら、玉山箭竹は標高2,000~3,800mに生えていて、もっと低地では5mにもなるという。タケノコは大変おいしいので玉筍や雲筍と呼ばれます。 写真上 玉山箭竹(Yushania niitakayamensis ) 写真下は、なんだ、これ、花なのか葉なのか?ハナヤスリというシダの仲間で、開花中です。 写真上 高山瓶爾小草( Ophioglossum austroasiaticum、タイワンハナヤスリ) 黄色いリンドウ 登山口の近くで早くも見つけたのが黑斑龍膽という黄色いリンドウです(写真下)。合歡山の目的の一つがこれで、時期的に見られるかどうか、湯浅先生は心配していたようです。合歡山を紹介したパンレット「合歡山 國家森林遊楽區」によれば、開花は5~8月だという。ツボミがあるくらいだから、時期的にはピッタリなのでしょう。 写真上下 黑斑龍膽(Gentiana scabrida var. punctulata) 日本にはトウヤクリンドウという黄色いリンドウがあって、もっと大柄で、花の色も黑斑龍膽ほど濃くなく、白に近い薄黄色です。 中国名の黑斑龍膽は黒という言葉が入っているので、黒っぽいリンドウかと誤解してしまいそうです。黄色いリンドウに黒とはずいぶん変な命名だと思ったら、すでに黄斑龍膽(黄花龍膽)という他のリンドウがあったからです。ところが、黄斑龍膽を写真で見ると花の真ん中は黄色だが、見た目の印象は白です。つまり、白いリンドウには黄色、黄色いリンドウに黒と名前を付けた。 黑斑龍膽の黒斑とは花弁の内側の黒いソバカスをさしているらしい。黑斑龍膽は前は玉山龍膽(Gentiana scabrida var.
scabrida)とされていたが、1978年に台湾大学の先生が、ソバカス(黑斑)が玉山龍膽よりも黑斑龍膽のほうが色が濃いから別なリンドウと分類したようです。 黑斑龍膽は普通10~14cmくらいで背が低いのに、写真下のヤブの中に生えているのは、赤い矢印が根本ですから、軽く30cm以上あります。 写真下の青紫色のリンドウも良く見かけます。日本の高山のリンドウはこちらの色のほうが一般的です。 写真上下 阿里山龍膽 (Arisanensis Gentiana) 阿里山龍膽という名前から、台湾の阿里山に生えていると普通は考えます。阿里山龍膽は阿里山にはありません(笑)。この間違いを誘発したのは日本人の植物学者だった川上瀧彌(1871~1915年)で、彼が採集したこのリンドウの標本に阿里山山脈の祝山で採集したという記述があったため、後に植物学者の早田文三(1874~1934年)が命名したようです。 植民地時代という時代背景があったとはいえ、彼らは台湾の植物学の草分けです。 合歡山の草花 日本ではフウロソウは高山植物の定番で、合歡山でも普通に見られる花のようです(写真下)。しかし、今回は時期がずれているのか、花はほんの少ししかありません。写真下も台湾の固有種で、このフウロソウの中国名は「早田氏香葉草」で、写真上の阿里山龍膽の名前を付けた植物学者の早田文三の名前が付いています。 写真上下 早田氏香葉草 (Geranium hayatanum) フウロソウよりも頻繁に目につくのが黄色いキンポウゲで、高山の湿り気のある場所では定番です(写真下)。 写真上 蓬萊毛茛 (Ranunculus formosa-montanus) 学名にフォルモサ(formosa)が入っています。これは台湾に来たポルトガル人が台湾を表現した言葉で、美しいという意味であることから、「美麗島」と漢訳されています。 写真下は日本の高山でも良くみかけるミヤマアキノキリンソウ(Solidago virgaurea subsp. leiocarpa)ですから、同じか近い種類で、簡単に名前がわかると思ったら、そうはいきませんでした。 混乱の始まりは、後で立ち寄った合歡山管理站で購入した図鑑で、この本ではこの花を 一枝黄花 Solidago virgaurea var.leiocarpa (『合歡山的彩色精靈 植物解説圖鑑』頼國祥、63ページ) と書いてあります。ミヤマアキノキリンソウとは学名が「subsp.(亜種)」と「var.(変種)」の違いがあるものの、台湾のミヤマアキノキリンソウはこういう学名なのだろうと納得しかけたから、話はそれでは終わりませんでした。 「一枝黄花」を中国版のWikipedia(维基百科)で検索すると、 一枝黃花(學名: Solidago decurrens ) とあり、図鑑とは学名が違う。しかも、ネットで検索すると中国ではセイタカアワダチソウも一枝黃花と呼んでいるようです。だが、セイタカアワダチソウ(Solidago altissima)は一枝黃花とは学名が違います。 セイタカアワダチソウなど含めないアキノキリンソウの呼び方は、Wikipedia(维基百科)によれば、次のような名前です。 毛果一枝黄花(学名:Solidago
virgaurea) これはミヤマアキノキリンソウだけをさす名前ではないので、結局、素人の私は台湾のミヤマアキノキリンソウに相当する花の学名も中国名も探せず、こんなわかりやすい花なのに、名前は特定できませんでした。 アキノキリンソウ(Solidago virgaurea var. asiatica)は日本の漢方では一枝黄花と呼ばれ、名前だけは今の中国名と同じです。中国では古くからアキノキリンソウの仲間をすべて一枝黄花と呼んでいて、このまま日本に伝わったのでしょう。 写真下は台湾では標高2400m以上の高山に生えるオトギリソウの仲間で、かなり一般的らしい。学名はnagasawaeなのに、nagasawaiと間違えて紹介しているのがネットで見られます。 写真上 玉山金絲桃(Hypericum nagasawae) トラップ大佐のエーデルワイス 写真下のウスユキソウはかなり限定的で、道沿いではほとんど見つかりませんでした。玉山薄雪草は台湾の標高3200~3800mに生える固有種です。 写真上下 玉山薄雪草 (Leontopodium microphyllum ) ウスユキソウがエーデルワイスとして有名になったのは映画『サウンド・オブ・ミュージック』(アメリカ、1965年)で「エーデルワイス」が歌われてからです。この花を、 ♪ Small and white, clean and bright ♪ (小さくて白く、清らかで明るい) と絶賛しています。 映画を観た頃の私は、ウスユキソウを高山植物にしては地味な花だと思っていたので、見る人によってこんなに違うのだと驚きました(笑)。歌詞のエーデルワイスはナチスに占領されたオーストリアの象徴であり、やがて亡命を余儀なくされるトラップ大佐一家の気持ちを表現したものでしょう。でも、文学的素養がイマイチの私は文面どおりに受け取りました。 映画は実話をもとにして作られ、公開から半世紀もたっているのに、今の台湾の人たちはトラップ大佐と同じような立場になりつつあります。台湾の人たちが大佐と同じような気持ちでこの花を見る時が来ないといいのにと、共産主義よりも赤いと言われる習近平氏の顔色をソッと見ると・・・難しそう。 写真下には、白花香青というきれいな名前が付いています。ただ開花直後は周囲が赤いので、白くも青くもない。日本でこれに近いのはミヤマハハコグサでしょう。七月上旬から咲くという解説がありますから、開花はこれからのようで、実際、咲いているのは少ない。薬用だけでなく、お茶としても飲まれるという。 写真上 白花香青( Anaphalis morrisonicola ) 崖を見上げると、いくつもの花が咲いています(写真下)。中国名の阿里山落新婦を日本語で連想読みすると、阿里山から落ちた新婦というとんでもない意味になってしまうから、そのように読んではいけません(笑)。この花もまた台湾の固有種で、標高3200~3800mにかけて生えています。 写真上下 阿里山落新婦( Gaultheria itoana ) 写真下はオオルリソウの仲間で、花の周囲が毛でおおわれているなど、いかにも高山の寒い地域の植物らしい。これも台湾の固有種で、台湾の中北部の標高3,500~3,700mの高山に分布します。「高山勿忘我」とも呼ばれ、高山のワスレナグサですから、そのままの名前です。 写真上 高山倒提壺(Cynoglossum alpestre ) 白いスミレが少しだけあります(写真下)。雪山菫菜は標高3,200~3,800mの高地に分布します。葉が他の植物の間に埋もれていますが、丸に近いハート型です。 写真上下 雪山菫菜(Viola adenothrix) 「雪山のスミレ」というきれいな名前で、しかも台湾の固有種だと聞くと、すごく立派なスミレに見えてきます。ただ、花は日本のどこにでもあるツボスミレ(ニョイスミレ)にそっくりです。 シュロソウの仲間が赤紫の花を付けています(写真下)。標高2,500~3,700メートルの高山の草原に生えます。学名のformosanumは台湾のことですから、台湾のシュロソウという意味になります。 写真上 台灣藜蘆( Veratrum formosanum) 新高山と玉山 お客さんが、南の雲の間に玉山が見えると言う。高山植物の名前に良く出てくる玉山です。肉眼で見える大きさは写真下左で、望遠レンズで見ても写真下右です。赤い矢印が玉山らしい。よくこんな小さな山を探せたもので、眼が良い。 写真上右を拡大したのが写真下左で、写真下右のWikipediaにある玉山の写真と比較すると、形が良く似ていますから、間違いありません。左側が玉山東峰(3,869m)、頂上部が雲に隠れている右側が玉山主峰(3,952m)です。玉山は間もなく雲に隠れて見えなくなりました。まるで挨拶をしにわざわざ出てきてくれたみたいと空想をめぐらす(笑)。 写真上右 Wikipediaから転載 玉山(3,952 m)は台湾の最高峰の山で、日本では新高山(にいたかやま)という名前で知られていて、台湾の植物の日本名にも「ニイタカ〇〇」という名前がよく出てきます。例えば写真下の合歡山の山頂近くで見られる玉山圓柏を日本名ではニイタカビャクシンといい、台湾の「玉山国家公園」の日本語のホームページでもそのように紹介しています。 写真上 玉山圓柏 (Juniperus squamata) ただ、高山植物の中国名には「玉山〇〇」はあっても「新高〇〇」はありません。「ニイタカ〇〇」という名称は過去の植民地時代や戦争と結びつき台湾人にとって印象が良くないだろうし、わざわざそんな呼称を用いる必要もないので、私は用いていません。 玉山という名前の入った草花をいくつか紹介します。 写真下は日本のタカネヨモギにそっくりです。平地のヨモギとは似ていない。台湾の固有種で、学名に「niitakayamensis」と新高山の名前がありますから、この学名を付けたのは植民地時代の日本人であるのがわかります。だが、中国名は玉山艾(玉山のヨモギ)で、新高山艾(新高山のヨモギ)ではありません。 写真上下 玉山艾(Artemisia niitakayamensis ) 写真下の薄紫のきれいな花は登山道の両側に良く見かけます。これはオオイヌノフグリの仲間、つまりヴィロニカの仲間です。日本で見慣れているオオイヌノフグリと違い、茎が立ち上がって、花も大きいので、見た印象がかなり違いますが、花の形を見ると、たしかに似ている。他にも玉山前山水苦賈、臺灣高山水苦賈などと呼ばれています。 写真上下 玉山水苦賈(Veronica morrisonicola) 台湾の固有種として切手が2023年6月6日に発行されたばかりです(写真下)。 写真下の小さな花は、台湾の固有種だという説明と、日本や朝鮮半島にも分布するという説明もあります。ただ、学名で調べても、ほとんど台湾の植物として出てきますから、前者でしょう。 写真上 玉山筷子芥(Arabis morrisonensis) 合歡山の樹木 写真下は、高山薔薇という名前どおりに標高2400m以上の高山に生えています。日本で見かけるノイバラと姿形はそのままです。台湾の固有種だという説明と、フィリピンにも分布するという説明もあって、どちらかわかりません。 写真上 高山薔薇( Rosa transmorrisonensis ) 写真下は、中国から東南アジアまで広く分布し、日本でもオオバライチゴ(大薔薇苺)として関東南部から南に生えています。高山植物ではないらしい。赤い果実は甘酸っぱく、おいしいとあります。 写真上 虎婆刺( Rubus croceacanthus ) 写真下もキイチゴで、真っ赤な実を付けるとあるのに、おいしいとは書いてありません。標高2,500~3,500mに生えていて、台湾の固有種だという説明と、中国や日本にもあるという説明もあります。実際、日本ではこれをサナギイチゴ(猿投苺)といって、本州、四国、九州、朝鮮半島にもあるとあります。 キイチゴは私の畑にもあって、初夏の頃にはいつもおいしくいただいているので、キイチゴを見ると、花よりも果実の味が気になります(笑)。 写真上 毛刺腺懸鉤子 (Rubus pungens var. oldhamii
) 写真下も、簡単に言えばキイチゴ(懸鉤子)です。地面にへばりつき、背が低いので、競争を避けて岩の上など他の植物が生えない陽当たりの良い場所を選んでいます。ネットの写真を見ると、果実は典型的なキイチゴで、赤くてうまそうで、実際に薄甘いそうです。 ヒマラヤ、中国南西部、フィリピンまで分布し、台湾では標高1800m以上の山で見られます。 写真上下 玉山懸鉤子( Rubus pentalobus ) 写真下も台湾の草イチゴ(台灣草苺)というストレートな名前が付いていて、見るからにイチゴで、実際赤いイチゴがなります。食べられると聞くと、草花というよりも、うまそうに見える(笑)。台湾全域の高地に分布するというから、一般的なイチゴです。 写真上 台灣草苺 (Fragaria hayatai ) 写真下の玉山金梅は台湾の固有種だという説明と、ネパールやブータン、中国、ヒマラヤにも分布するという解説もあり、これもはっきりしません。 写真上 玉山金梅 (Argentina leuconota ) 山道に面した岩の上を這いながら白い花を付けた植物があります(写真下)。玉山舖地蜈蚣は、台湾から日本に輸入してコケモモカマツカ(カマツカコケモモ)という名前で売られ、盆栽のように育てるようです。寒さ、乾燥にも強く、秋には赤い実がなり、種でも挿し木でも増やすことができるので、日本でも普及したのでしょう。庭の石にはわせたら、和洋のどちらでも似合いそうです。 写真上下 玉山舖地蜈蚣 (Cotoneaster morrisonensis ) 中国名の玉山舖地蜈蚣とは玉山のムカデという意味らしい。地面を這う枝の様子から連想したのだろうが、かわいい花にムカデはないだろう。台湾の標高2300~3500mの高地に生えていて、固有種だという説明もあります。 写真下を最初見た時、日本の高山で見かけるアオノツガザクラ(Phyllodoce aleutica)かと思いました。印象が似ているだけで、高山白珠樹はシラタマノキ属、アオノツガザクラはツガザクラ属ですから、別種です。標高1,600~3,000mに自生し、台湾だけでなく、フィリピン、ボルネオ、オーストラリアの高山にも分布します。 写真上下 高山白珠樹 (Gaultheria itoana ) 鳥はなついてくれるか 人の影が長くのびません(写真下)。つまり、太陽がほぼ真上にある。実際には玉山あたりを北回帰線が通っています。影が短いのはかまわないが、薄いのは困る(笑)。 鳥が人を恐れる様子もなく近づいてきます(写真下)。人間が餌をくれるのを知っている。 写真下のタイワンキンバネガビチョウは台湾の固有種で、頭部の眉状の白斑と翼と尾羽の金色が特徴だというが、金羽と言われても、地味な黄土色にしか見えない(笑)。 写真上 台灣噪眉 (Trochalopteron morrisonianum、タイワンキンバネガビチョウ、台湾金羽画眉鳥) 写真下はもっと地味なイワヒバリで、こういう高山に棲息していて、台湾固有の亜種です。二匹が私の周囲をずっと動き回るのは、私がビスケットを持っているのを知っているからではなく、ウィキペディアによれば、イワヒバリは警戒心が低く、山小屋の残飯なども食べることもあるという。餌付けが良くないのは知っていても、足元をチョコチョコと歩き回られると「オレは人間には嫌われても、鳥には好かれるのかもしれない」と錯覚して、ついやってしまう(笑)。 写真上 岩鷚 (Prunella collaris fennelli、イワヒバリ、岩雲雀) 写真下はメギ(小檗、小蘖)の仲間で、台湾の3000m以上の山に生える固有種です。メギは落葉の低木で、日本では紅葉し、赤い実を付けるので好まれます。このメギも赤い実をつけるらしく、台湾では紅果小蘗、赤果小蘖、つまり赤い果実を付けるメギという別名もあります。 写真上下 玉山小檗(Berberis morrisonensis) 写真下は中国名が假繡線菊で、菊という字が入っていてもキクではなく、バラ科のシモツケの仲間です。台湾では標高3000~3500mに分布します。シモツケは花もきれいなので、日本でも園芸用に販売されています。 写真上 假繡線菊 (Spiraea hayatana) 台湾のシモツケは崖っぷちが好きらしく、岩にしがみつくように生えています。 シャクナゲが斜面に少しだけ生えています。台灣高山杜鵑は台湾の高山に生えるシャクナゲという意味だから、そのまんまです。合歡山ではこのシャクナゲは五月が花のピークというから、ここにあるのは咲き残りらしい。このシャクナゲは葉の縁が裏側に反り返っています。 写真上 台灣高山杜鵑(Rhododendron rubropilosum ) 30種以上の外来種 合歡山主峰(合歡主峰)の山頂に到着(12:19、写真下)。山頂は標高3417mと数字はすごいのに、登山口からの標高差はわずかで、体力的には楽でした。ここは3000m級の山が連なっており、その中で合歡山主峰は一番楽に登れる山のようです。 ちょうどお昼で、山頂で昼食をとるのが普通ですが、最初からその予定はなく、このまま下山して、先ほどの昆陽駐車場で昼食です。少し前から南側の山に西から雲がかかり始めていましたから(写真下)、私も食事よりも、花の撮影を優先させたい。 写真下は私の目にはフランスギクに見える。私の畑にもたくさん生えている外来種です。少し下を車がひっきりなしに通り、これだけ簡単に登れる山なら、外来種がはびこってもおかしくはありません。 写真下は教えてもらうまでなく、外来種のセイヨウタンポポです。私の住む山形市のそばの蔵王は観光化され、スキー場などで山の斜面を大規模に工事したことで、どこもここも外来種だらけです。また山形市の北西の月山には元々ないコマクサが、山頂付近で保護されていますから(苦笑)、車で簡単に来られる合歡山が外来種だらけなのは当然の結果でしょう。 写真上 西洋蒲公英(Taraxacum officinale、セイヨウタンポポ) 写真下も誰が見ても外来種のシロツメクサで、山頂近くまでの道端に生えています。種が靴に付いて運び上げられたのかと湯浅先生に質問すると、登山路を作るのに運び込んだ砂利に混ざっていたというのです。 写真上 白花三葉草(Trifolium repens、シロツメクサ) ここの岩は薄く割れますから、土木工事にこのまま使えそうなのに、わざわざ持ち込んだらしい。 台灣生態學會の楊國禎理事が、合歡山には30種以上の外来種が侵略しており、特に広がっているのは、ブタナ(猫耳菊)、エゾノギシギシ(大羊蹄)、シロツメクサ(白花三葉草)、セイヨウタンポポ(西洋蒲公英)だと指摘したことを、「環境資訊中心」(2023年3月1日)が報道しています。この四強外来種は日本でもおなじみで、大半の日本人はどこかで見かけています(写真上下)。 写真上左 ブタナ、猫耳菊、Hypochaeris
radicata
(Wikipediaより転載) 写真上右 エゾノギシギシ、大羊蹄、Rumex
obtusifolius (「日光植物園」より転載) 同じ記事の中で、台灣大學生命科學系の王俊能教授は、これらの外来種は道路の斜面保護の工事で種が散乱したか、持ち込まれた土砂の中に入っていたと、湯浅先生と同じ指摘をしています。外部から工事用の土砂を持ち込むのは、低地の植物の種をわざわざ撒いたようなもので、無神経というか、無知です。 ここの山道は登山路にしては立派で、山頂まで四輪駆動車なら楽に登ることができるのは、頂上付近にある写真下左の電波塔だけでなく、軍隊が常駐していて、前は立ち入り禁止になっていたからです。 今も軍隊は武陵駐屯地に常駐し、2018年には雪で立ち往生した民間車両の救出のために装甲車が出動したという(写真下右)。大陸の赤い雲の動きを見ると、装甲車が本来の目的どおりに使われることに比べたら、外来種による環境破壊など、まだましではないかと無意味な比較をしてしまいます。 写真上右 「yahoo!新聞」(2018年2月4日)から転載 たった一本のラン 下りる途中、先に行ったお客さんたちが道から外れて写真を撮っています。斜面にシオガマギクが咲いているのを見つけたようです(写真下)。日本でいえば、北海道から本州中部の高山に咲くタカネシオガマです。 写真上下 馬先蒿、玉山蒿草(Pedicularis verticillata ) お客さんに混ざって台湾人の女性が写真を撮っています。お客さんによれば、道から離れた所で彼女が写真を撮っているのを見て来てみたら、シオガマギクがあったというのです。その彼女が撮っているのはシオガマギクではなく、ランです!!本日、たった一本のランです(写真下)。台湾人のお姉さん、ありがとう! 写真上下 綠花凹舌蘭 (Coeloglossum viride、アオチドリ、青千鳥) このランはユーラシア北部からアラスカなど、やや寒冷な地域に広く分布し、日本でも中部以北や四国の高山に、台湾では3000m以上の高地に生えています。中国名に「緑」、日本名に「アオ」が入っているのは、花は緑色が多いからです。台湾の花を紹介するホームページには赤紫の花を掲載していますから、台湾ではこの色は珍しくないようです。中国名に「舌」が入っているのは、花の一番下の花弁が、まるで舌をのばしたように、垂れ下がっているからで、写真下にそれがいくつか写っています。 ランとシオガマギクの記念撮影です(写真下)。西側の斜面なので、霧(雲)が這い上がっている。この斜面にはこういう霧がかかることで湿気が保たれ、草花が生育するのでしょう。 登山口に戻り、バスを待ちます(13:55、写真下)。だいぶん雲が増えたものの、天気はなんとか持っています。 太魯閣國家公園 登山口でバスに乗って昆陽駐車場に戻り、遅い昼食です(14:08)。風が強いせいか、大半のお客さんはバスの中で食べるようなので、私は外のベンチで山を見ながら、本日初めての食事をすることにしました(写真下)。 写真下左は黄さんから果物の差し入れのレンブ(蓮霧)で、印象だけで言うなら、ナシを柔らかくしたような食感と味でした。写真下右は、手前が黄さんが買ってきたライチで、向こうは昨日、五福臨門神木で鴞咖啡を飲みながら食べたライチの残りです。昨日も申し上げたように、ここで両者を食べ比べすると、五福臨門神木のライチのほうが酸っぱさがあるのでおいしいというのが、私と数人のお客さんの感想でした。 私たちがベンチのそばで果物を夢中になって食べていると、真っ赤な鳥が寄ってきました(写真下)。色が派手だからオスでしょう。これだけ派手な鳥なら簡単に名前がわかるだろうと思ったら、候補が二つ出てきました。 酒红朱雀 タカサゴマシコ Carpodacus
vinaceus 臺灣朱雀 タイワンマシコ Carpodacus
formosanus 同じ鳥の別名かと思ったら、学名が違う。Wikipediaの説明を読むと、酒红朱雀は中国からインドやミャンマーにかけて分布する鳥で、その中で、特に台湾いる酒红朱雀を2010年以降に別種とみなして臺灣朱雀と呼んでいるようです。それなら臺灣朱雀なはずなのに、一つ目のパンフレット「太魯閣國家公園 合歡山」は古いままらしく酒红朱雀とあり、二つ目の「合歡山 國家森林遊楽區」には臺灣朱雀とあります。 写真上下 臺灣朱雀(Carpodacus formosanus、タイワンマシコ) 「お前はどっちだ?」と聞いても、彼は餌をくれないかと忙しく動き回るだけでした。 もう一羽飛んで来ました(写真下)。登山路で見たタイワンキンバネガビチョウで、何度見ても、羽が金色には見えないし、さらに上に比べると地味。 写真上 台灣噪眉 (Trochalopteron morrisonianum、タイワンキンバネガビチョウ、台湾金羽画眉鳥) 食事の後、北にある武嶺駐車場に移動して記念撮影です(写真下)。この駐車場は標高3260mで、昆陽駐車場の3080mよりもさらに高い。日本にはこんな標高の高い駐車場はないでしょう。道はこのあたりをピークに北に向かって下り坂になり、私たちは合歡山の管理站まで下りていきます。 爆音をあげてバイクの一団が武嶺駐車場に入ってきました(写真下)。一人がピカチュウの着ぐるみを着て、黄色いバイクに乗っているが、「全然かわいくない」という一人のお客さんからの感想に一同が賛同しました(笑)。 私たちが登った合歡山主峰を含めて、この近くには北合歡山、合歡東峰など主なものだけでも七つの峰が連なっています。ここは太魯閣(たろこ)國家公園の一部なので、昼食をとった昆陽駐車場にもこの名前があります(写真下右)。 地図上 太魯閣國家公園(Wikipediaから転載) 合歡山という名前の山はなく、多くの峰の集合体のようです。例えば、写真下左の石碑を見ると、右後ろに見える高い山が合歡山のように錯覚しそうですが、たぶんこれは、私たちが登った合歡山主峰の南東にある奇萊北峰です(写真下右)。 合歡山は太魯閣國家公園の西の端にあり、公園はここから東の海岸までの広大な地域に広がっています。 私は太魯閣國家公園の東端にある立霧峡に1994年に観光で訪れたことがあります(写真下)。印象に残っているのは渓谷のすごさではなく、河口で砂金が採れたという話でした。それまでぼんやりと風景を眺めていたのに、砂金と聞いて、遊歩道から川の砂にキラキラ光るものはないかと目を凝らしました(笑)。 合歡山管理站 周囲の山は針葉樹で覆われています(写真下)。 近くによって観察していないのではっきりは言えないが、周囲にあるのは、幹が白いことなどから台灣雲杉でしょう。ただ、杉と言っても、マツ科のトウヒの仲間です。 写真上 台灣雲杉(Picea morrisonicola) 道路脇のヤブの中にナデシコがあるのをお客さんが見つけました(写真下)。たった一本しかありません。この玉山石竹は台湾の固有種です。 写真上 玉山石竹(Dianthus pygmaeus) 写真下は日本にもあるカノコソウで、中国や朝鮮半島などにも分布し、台湾では2000m以上の高山に生えています。山形県では減少が心配されている植物です。 写真上下 纈草(Valeriana fauriei、カノコソウ、鹿の子草) 合歡山の東側にある太魯閣國家公園の合歡山管理站に到着(15:29)。ここが今日の最終地点です。 管理站には展示室や売店などもあります。展示室はいま一つ面白くないだけでなく、靴を脱がないといけない(写真下右)。私は気が付かず入ってしまい、他のお客さんに注意されて、あわてて引き返しました(笑)。パネルなど一般的な展示物で、土や埃を嫌うような物はないように見えます。 管理站での収穫は合歡山の植物を紹介した図鑑『合歡山的彩色精靈 植物解説圖鑑』(頼國祥)を買ったことで(写真下右)、300元(約1500円)と値段も手ごろです。湯浅先生から、購買部に全員の分があると前もって教えてもらいましたが、先生には失礼ながら、私はそういう話は買わないうちは信用しない(笑)。帰国後、植物の名前を調べるのに役立ちました。 台灣百合とタカサゴユリ 管理站の花壇と敷地に咲いているのはタカサゴユリです(写真下)。この旅行記では便宜的に、台湾のタカサゴユリを台湾での呼び名どおりに台灣百合、日本に帰化しているのをタカサゴユリと表記します。 写真上下 台灣百合(Lilium formosanum var. pricei) 最初この台灣百合を、台灣百合の学名であるLilium formosanumだと判断しました。ところが、ネット上の「三河の植物観察」の著者katou氏によれば、合歡山にあるのは台灣百合の変種(Lilium formosanum var. pricei)だというのです。台灣百合の変種は三種類あって、合歓山にあるのはその一つらしい。 タカサゴユリは日本にも帰化して、山形市の私の畑にもたくさん咲いていますから、珍しい花ではありません。大きく違うのは背が低いことで、写真上は花だけを写したのではなく、これが全体の姿です。日本では軽く1m以上にもなるのに、ここでは20~30cmで、それでいて花の大きさは同じです。 管理站から少し手前の道路の土手にもたくさん咲いていて、どれもこれも背が低い(写真下)。3000mの高山の厳しい環境に適用したのでしょう。台灣百合は台湾では海岸でも見られるというから、低地から高山まで、様々な環境に適用する能力があるらしい。 最初、日本のタカサゴユリを見て不思議だったのが、原産地は台湾という亜熱帯や熱帯なのに、山形市のような寒い地方でも育つ点でした。前に参加した花のツアーのガイドから、台湾の台灣百合は高山にも生えているから寒さに強いと聞きました。開花は日本では関東では7月くらいから、山形市では8月から、しかも一部は霜が下りるまで次々と咲くという奇妙な性質は、元々の環境と関係しているのだろうと思っていたのです。 写真下のタカサゴユリは、十年前の2013年11月24日につくば市内の住宅地の道路脇に咲いていました。他にも咲き終えた花やツボミもありますから、一本だけの狂い咲きではありません。後ろのブロック塀の一個のブロックの高さが約20cmですから、このタカサゴユリは30cmくらいしかない。ほぼ合歡山の台灣百合と同じ高さです。 せっかく咲いても、冬ですからタカサゴユリは実を結ぶことなく、枯れてしまい、咲いただけ損している。いったい、何のためにこんな季節外れに咲くのか、不思議でした。秋のつくば市の気温は6月の合歡山と似ているから、背が低いのは寒いせいだろうと思ったら、そう簡単ではありませんでした。 写真上 2013年11月24日、つくば市で撮影 前述のkatou氏のホームページ「三河の植物観察」によれば、合歓山の台灣百合は「栽培しても高さは45~60㎝」だというのです。気温が低いから背が低いのかと思ったら、合歓山の台灣百合は低地で栽培してもこの高さだというのです。寒さだけではなく、元々、背が低い台灣百合があるということになります。 ここの台灣百合が日本のタカサゴユリと少し違うもう一つの点は、花弁の裏がすべてはっきりした赤紫色だという点です。すべて縦縞をいれたようにきれいな模様が付いています。 写真下は私の畑のタカサゴユリです。テッポウユリのように白か(写真下左)、多くは模様の色が薄れて(写真下右)、合歡山の台灣百合のようにはっきりしているのは少数です。 写真上 2023年8月16日、山形市で撮影 日本のタカサゴユリの模様は汚れのようで邪魔だったが、台灣百合は縦縞模様がきれいで、見直しました。縦縞の使い方が、バチカンの、ミケランジェロがデザインしたという衛兵の制服を連想させます。ツボミではほぼ全体に色がついているので、開花すると隠れていた部分が白いために縦縞の模様になります(写真下)。 台灣百合を保護し、植栽しようとしてきた様子が次の本に載っています。 『台灣原生百合之美』(蔡月夏、林學詩、行政院農業委員會花蓮區農業改良場、2003年) この本によれば、昔は花蓮の海岸や離島では、野生の台灣百合と鐵炮百合(Lilium longiflorum、テッポウユリ)が3月~5月には咲き乱れて、香りを漂わせていたそうです。花蓮は太魯閣國家公園の東側にあります。ところが、乱獲や自然破壊によってすっかり失われてしまったので、これを回復するために、ユリを人工的に増やして、2000年以降、鐵炮百合と台灣百合の植栽を進めたようです(写真下)。 写真上 『台灣原生百合之美』から転載 ネットを見ると、今も羅明勇氏などが個人的に台灣百合を植栽する運動をしているようです。ただ、気になるのが、そこで増やしているユリは本当に原生品種なのかという点です。『台灣原生百合之美』でも、台灣百合の変種については記述がないところを見ると、知らなかったのではないかと思われます。 増やせばいいというものではなく、厳密にやらないと、とんでもないことになりかねません。日本の事例でいうと、北海道の利尻島に生えているリシリヒナゲシがあります。リシリヒナゲシを増やすつもりが、チシマヒナゲシを植えて交雑してしまい、一株ずつ遺伝子レベルで調べないと駆除できないという悲惨な状況になっています。(参照:「月山にコマクサ?」の「リシリヒナゲシの悲劇」) 私が便宜的に台灣百合とタカサゴユリを区別して表記したのも、日本では混乱しているからです。 タカサゴユリか?シンテッポウユリか? 京都府立大学名誉教授の佐藤茂先生から、日本で見られるタカサゴユリは台湾の台灣百合とは違うのではないか、というご指摘をいただきました。改めて調べてみると、日本で見かけるタカサゴユリはすべて、日本でテッポウユリと交配させたシンテッポウユリ(Lilium formosanum x Lilium
longiflorum)が広がったものだという説があります。交配は1951年を最初に何度も繰り返され、園芸販売用に露地で栽培されたため、種が飛んで自然に広がったというのです。 写真上 栽培品のテッポウユリ 一般には花が真っ白なタカサゴユリをシンテッポウユリ、薄紫の模様があるのをタカサゴユリと呼んでいるが、実はすべて交配されたシンテッポウユリだという説です。台湾から台灣百合が日本に持ち込まれたのは1924年以降なのに、各地に広がったのはここ数十年であり、露地栽培や緑化に使われたので広がったとみるほうが説明がつきます。『原色日本帰化植物図鑑』(長田武正、保育社)の初版は1976年で、タカサゴユリもシンテッポウユリも掲載されていませんから、まだ一般的ではなかったことになります。 ただ、この説にも問題があり、一つがタカサゴユリの外見です。ネット上の台湾の台灣百合は写真下左のように模様が薄ぼけた花や、写真下右のようにほぼ白い花もあって、日本のタカサゴユリと良く似ています。つまり、花が白かったり、模様がぼけるのは、交配によって得られた形質とは限らないことになります。 写真上左 「認識植物」から転載、写真上右 維基百科の「台灣百合」から転載 日本のタカサゴユリの外見はテッポウユリの要素がほとんどなく、特に葉は明らかに違う。例えば、園芸種のシンテッポウユリの一例が種苗会社のカタログに載っていた下の写真で、花が真っ白なだけでなく、葉に幅と厚みがあり、これはテッポウユリの形質です。しかし、日本の空き地で生えているのは、合歓山の台灣百合のような細長い葉で、このシンテッポウユリのような葉を持つタカサゴユリを見たことがありません。 写真上 『はなとやさい』(タキイ種苗株式会社、831号、2023年、24ページ)から転載 台湾の台灣百合の開花時期は3~6月の他に、一説では低地では一年中、高地で6~8月だとあります。日本のタカサゴユリの花が盛んな時期は7~9月と言われ、私の目撃では少数は霜が下りるまで咲くことから、台湾の低地での台灣百合が一年中咲く性質と似ています。日本のタカサゴユリは台湾の台灣百合にそっくりで、これらをすべてシンテッポウユリと呼んでしまうのは無理があるように見えます。 佐藤茂先生からいただいた冊子に載っている「テッポウユリ類の帰化植物」(木場英久)では、下記のように遺伝子レベルで調べないとわからないと指摘しています。同様の事を先に引用したkatou氏も述べていて、専門家でも外見だけでは区別がつかないのです。 「ここまでわかっているのですから,「問題の植物」が純粋なタカサゴユリなのか,それともテッポウユリとの雑種なのかを遺伝的に調べることができれば,解決できる問題です.」『FLORA KANAGAWA』(神奈川県植物誌調査会、61号、2006年、760ページ) 「染色体や遺伝子検査を行わないとシンテッポウユリとタカサゴユリの判別は難しい。」(「三河の植物観察」のシンテッポウユリの解説から引用) 台灣百合は環境への適応性が高く、そこに人間が保護し、種を他の地域に持ち込み、他種と交配させたりしたため、状況はかなり複雑になっていて、今も変化しているように見えます。 ここの台灣百合は道路の斜面にはたくさん生えているのに、その上の草の生えている斜面(写真下)を探しても見つかません。台灣百合よりも背が高い雑草が生い茂っているから進出できない。人間の作った道路の斜面には競争相手となるような草があまりなかったから、うまく広がれたのでしょう。元々、合歡山に生えていたとはいえ、ここでも台灣百合に人間が手を加えています。 山を下りる 来た道を戻り、合歡山を下りる頃には山には雲がかかっていました(写真下)。それでも天気が崩れることはなく、合歡山の女神様は歓迎してくれたようです。 帰り道の途中にある台湾大学の山地実験農場梅峰本場(國立臺灣大學生物資源暨農學院附設山地實驗農場)の門の前でバスを停めました(17:11、写真下)。私たちは実験農場に入ったのではありません。周囲の森を観察するのに、門の前がバスを停められる数少ない場所だったからです。地図を見ると、実験農場は三カ所に分かれていて、ここ「梅峰」はその本部です(写真下右)。 門の前の掲示板には実験場の催しのおしらせがあって、2カ月間も開催されるのに、残念ながら10日ほど後からです(写真下)。 湯浅先生によれば、ここから見えるのがこのあたりの典型的な森で、蔓植物が生い茂るのが特徴だとのことでした(写真下)。 臺灣地理中心碑 ホテルに戻る前に、埔里の北東にある、台湾のド真ん中を記念した臺灣地理中心碑に立ち寄りました(18:21)。 公園の奥に鎮座する金属の塔がそれらしい(写真下右)。人間が決めた場所にすぎないから、個人的にはあまり興味をひきません(笑)。 公園の背後は山になっているので、周囲は自然の森らしい。午前中も見かけたクワズイモが大きな葉と赤い実を付けている。植えたのではなく自然に生えたのでしょう(写真下)。葉が巨大なのが南国的でここと合っています。 写真上 姑婆芋(Alocasia odora、クワズイモ) ホテルに戻った頃にはあたりが薄暗くなっていました(18:44)。 7時半から、昨夜と同じホテルの二階のレストランで夕飯です。 特に凝った料理ということはないものの、量も多く、普通に食べられます。 部屋のエアコンが効かないので、黄さんに頼んで部屋を変えてもらい、12階から11階に引っ越しです。前の部屋と部屋の間取りも方向も変わりません(写真下)。今夜はエアコンが効きますから、ゆっくり眠れそう。 二泊した埔里は合歡山が晴れたので印象が良い。 |