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8日目  2006824()  

ラサ ネチュン寺 セラ寺

 

 午前中は自由時間です。

一部の人が隆さんの誘いでヤムドク湖の観光に出かけました。

 

 

私は当初、この自由時間を利用してラサの南東50kmほどにあるガンデンという寺に行くつもりでいました。二十年前ここに来た時も、ガンデンに行くつもりが高山病になり、ラサよりさらに高い4200mにあるガンデンに行くのをあきらめました。ラサのすぐそばにあるデプンやセラと違い、ガンデンは離れているので観光客も少ないと聞いています。

ガンデンは文化大革命で破壊され、ガレキの山と化したとのことでした。

たいていの本には文化大革命で破壊されたと書いてありますが、『チベット入門』(ペマ・ギャルポ、日中出版、1987)によれば、1959年に中国軍によって略奪された後、戦車の大砲で破壊されたという目撃談があるというのです。ラサの三大寺(デプン、セラ、ガンデン)の中でどうしてガンデンだけがこれほど徹底的に破壊されたのか、奇妙に思っていました。1981年からは修復(再興?)も始っているとの話でしたから、復興しているのでしょう。どの程度復興しているのか、破壊の跡は残っていないか、自分の目で見てみたかったのです。

また、こういう政治的な血生臭い話は別として、ガンデンの周囲の巡礼路に花が咲いているのではないかと期待していたのです。

ところが、前日、隆さんからガンデンへの道は一週間前に崩れたまま交通止めだと聞かされました。一週間もたっていれば復旧しているのではないかとは思うが、一か八かで出かけてみるわけにはいきません。

 そこで、ネチュンという寺に行くという人がいたので、私も同行させてもらうことにしました。ネチュンはダライラマが神託を仰いだという呪術的な寺です。昨日訪れたデプンに行く途中にあります。

 

 

ネチュンの観光

File0221File0222

 

 ロビーに8時に集まり、自由行動のために誓約書にサインをして、タクシーで出かけました。

ところが、運転手にネチュンと行っても通じません。観光寺ではないにしても、『地球の歩き方』の地図を見せて説明しても、わかったような、わからないような顔をしています。デプンのそばだと説明すると、とにかく車を動かしました・・・この運転手、わかっていない。

道から見えるから、簡単にわかり、10分もかかりませんでした。昨日、徒歩で登った道路なのに、今日は一変して、ほとんど人がいません。ネチュンの前の広場で下ろしてもらいました。20元。8:20

 

P1010142周囲を散策 P1010143西の入口

 

広場は切り取られた石が積み上げてあります。よく見ると、切り出したというよりも、何かに使われていたらしく、石の一部にはコンクリートが付着しています。門は開いていません。『地球の歩き方』では開門は8時とあったが、後でわかったことは、開門は9時でした。

 

P1010147 P1010148 P1010146

 

 入り口は、我々が入ろうとした西側の他に、専ら東側から入るらしい。そちらには物乞たちがすでにいたし、内側には店もありました。開門まで時間があるので、寺の周りを一周してみましょう。

 

P1010145東側の住居 P1010164東側の正式な参道

 

周囲には民家なのか、それとも僧坊なのかはっきりわからないが、隣接して建物があります。後でわかったのは、どうやら参拝や巡礼の人をあてこんで店を出しているようです。開門の前とはいえ、人も少ししかおらず、静かでいい。

 

P1010149炊事用の薪 P1010150中国式青空トイレ

 

 西門から、時計回りに回ると、東に向かって通路があったのでそこを進むと、薪が積み上げてあり、中国式のニーハオ・トイレがあり、思わず写真を撮りました(写真上)。いつ見ても、ここに仲良くしゃがんで用をたすのかと思うと、どうも彼らの感覚にはついていけません。

 

 

P1010153川に捨ててある割れた瓶

 

その先には立派なコンクリート製のゴミ捨て場があります。ゴミ捨て場があるのに、周囲はゴミだらけです。さらにその東側は谷なっていて、ガラスが大量に捨てられてあります(写真上)。いつ見ても、チベット人たちのゴミに対する感覚にはあきれます。きれいな水が流れている谷をあんなに汚さなくてもいいだろうに。

 

P1010165 P1010166湯沸かし集光器

 

 東の門から南に下りていく道が本当は正しい入り口のようです。これが寺の参道なのでしょう。その道で、女性たちが何か洗い物をして(写真上左)、また店を出す準備をしています。

周囲は民家なのでしょう。太陽光線でお湯を沸かす装置が家の前に置いてあります(写真上右)。車を持っている家も何軒かあるかと思うと、建物のひさしの部分を段ボールで作っている家もあります(写真下)

 

P1010156車のある家 P1010163段ボールのひさし

 

 寺自体がそれほど大きくないので、一周するのに時間がかかりません。そろそろ周囲を回るのも飽きた頃、寺が開門しました。

 

P1010137ネチュン寺の山門の壁画 P1010138

 

 四天王が描いてある西の門から入ります(写真上)

 

P1010180

 

 

普通の寺と同じように、正面に本堂があり(写真上)、周囲を回廊(写真下)で取り囲んだ四角い広場があります。

 

P1010176 P1010179周囲の回廊

 

周囲の回廊にはどういう訳か、薪や段ボール箱がたくさん捨ててあります(写真上)

回廊の壁には様々な神仏の絵が描いてあります。チベット仏教の僧院の壁画は一般におどろおどろしい神仏が描かれるのが普通ですが、ここはそのおどろおどろしさが一ランク上です。

 

P1010183 P1010186

 

上の写真の神仏の上に何かぶらさがっているのがおわかりでしょうか。人間の皮をはいで広げた様子が描かれているのです。これが本殿では露骨に天井や壁に描かれていました(写真下)

 

P1010237 P1010236天井の人の皮の絵

P1010197

 

 回廊だけでもおもしろいのですが、本殿のほうに行ってみましょう。

 

P1010187本殿前の狛犬 P1010189本殿入り口

 

本殿の前には、いわゆる狛犬があって、日本人には親しみを感じます(写真上左)。本殿の扉は六枚あり、いずれも人間の生皮が描かれています(写真上右)

 

P1010193 P1010191入り口の周囲の壁画

 

扉の両脇の壁には、護法神らしい忿怒神が描かれています(写真上)。彼らの姿は日本人のイメージからいくと火炎を背負った不動明王が一番近いし、実際に、元をただすと、これらはインドから輸入されたものです。

 

P1010192入り口前 P1010190

 

本殿入り口も、回廊の一部になっており(写真上)、柱や天井(写真下)などが色鮮やかに模様が施されています。うれしいことに、観光客らしい姿は我々以外にはありません。

 

P1010323本殿入口天井

 

本堂に入ると、それほど広くはないが、通常の寺院のように、僧侶が読響する場所と、天井からは様々なマンダラやタンカがぶら下げられています(写真下)。特徴的なのはタンカの中に、ネチュンらしい人の姿も描かれている点です。

 

P1010198 P1010195本殿内

 

 

でたあ!ネチュン!

 本堂の左奥に僧侶たちがいて、チベット人の参拝者もそちらに入っていきます。加持祈祷をする場所らしい。入ると、チベット人が100元を出して、酒を捧げました。すると、僧侶は何か経文を唱えながら、その酒をお供えの器に注いで、短い時間だが、何か加持祈祷をしてくれるようです。

ここの神様は酒が好きだったのだと初めて知りました。後で、東側の売店に行くとたしかに酒を売っているし(写真下左)、本殿の二階に行くと、酒瓶がたくさん並んでいました(写真下右)

 

P1010332東口にある店。酒を売っている P1010350二階の建物にあった酒瓶

 

祈祷してもらうおうと100元を出しましたが、酒がないのでダメのようです。

しかし、それまでは写真はダメだったのに、急に撮ってもいいことになりました。すごい!恐い神様だと思っていたら、酒が好きで、物わかりのいい現金な神様だったなんて、私は一気にネチュンのファンになりました()

 では、さっそく、まずは許可してくれた三人の僧侶から記念撮影と行きましょう。(写真下左)

 

P1010201g祈祷室の僧侶 P1010205祈祷室左側の仏像

 

 この部屋で私が最も写真に撮りたかったのが、飾ってあったネチュンの写真です(写真下)

 

P1010202ネチュンの写真 P1010203

 

 上記の二枚の写真がネチュンです。映像や、下記の本などでは見たことがあるが、生の写真は初めてです。彼に神様が降りきて、何かお告げをしているところなのでしょう。激しく暴れるから、右の写真では二人の僧侶が必死に押さえています。二枚ともすごい形相で、顔が赤らんでいますから、酒を飲んでいるのでしょう。それで暴れたら、ただの酒乱ですが、彼はいま神様そのものになっているのです。ダライラマの亡命、文化大革命など、ネチュンにとっての冬の時代でした。しかし、写真の日付が199159日とありますから、最近でも行われているようです(写真上右)

 

File4722

写真上:『チベット滞在記』(多田等観、白水社、口絵)より転載

 

 上の写真は多田等観(1890-1967)の著作に載っている写真です。彼はインドからヒマラヤを越えてラサに行き、1923年まで約十年間ラサに滞在しチベット仏教の修行をしました。

「シャーマン。神がのりうつっているところ」

と説明書きがあります。ネチュンのことです。白黒の写真は不鮮明だが、頭部の飾りや、胸部の金属の円盤など格好はそのままです。チベットでの様々な混乱はあったが、少なくとも装束は復元されているようです。

 下の写真は、チベット亡命政府の元で公開されたネチュンで、1983年に南インドで行われたとあります。おおまかには同じ格好ですが、胸部の金属製の円盤がありません。

 

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写真上:『雪の国からの亡命』(ジョン・F・アベドン、地湧社、1991)より転載

 

 日本でも恐山のイタコなどが神下ろしで有名です。最近では、宇宙人まで下りてくる「宇宙イタコ」が流行っているようです。

 

P1010200ネチュンの衣服? 

 

部屋の右奥に祭ってあるのはネチュンの衣装かもしれません(写真上左)。暴れるネチュンとはちょっと違うようにも見えますが、胸につけている金属の丸い板が同じです。

上記の図面を見るとわかるように、この部屋は通常の配置とちょっと違っています。

 

P1010206祈祷室本尊祭壇 P1010199祈祷室の本尊

 

普通は本尊などが一番奥にあるのですが、本尊の壇は部屋の真ん中のかなり中途半端な位置にあります(写真上)。これは深い理由などなく、ただ部屋が狭いだけなのかもしれません。あるいはこの部屋だけで考えているのではなく、本堂の本尊の位置などを考えての配置かもしれません。

 

P1010204祈祷室右側の仏像 P1010205祈祷室左側の仏像

 

もう一つ面白いのは、ここには忿怒の姿をした像は本尊以外にはない点です。周囲は仏像などが祭ってあり、それらは釈迦、パドマサンババ、ツォンカパらしい人たちで、いずれも忿怒の姿ではありません(写真上)

本堂のほうにはあれほど忿怒の神々が祭られているのに、ここでは本尊のネチュン以外は、穏やかな顔をした仏、菩薩、あるいは宗祖たちです。

 もう少し丁寧に調べてみたいが、なにせ暗くてよく見えません。お坊さんたちもいつまでも我々にいられたのでは、加持祈祷にも邪魔だろうし、忿怒の姿になったりするとマズイですから、そろそろこの部屋からも退散することにしましょう。

 

本堂に戻ると、ようやく本尊の御開帳だという。

一瞬、緊張が走った!!(格好いい)

いったい本尊は何なのかと興味津々だったのです。ネチュンは仏教以前からあるポン教のような呪術宗教でしょうから、チベットに昔からいる古い神様が本尊なのではないか。何か忿怒の姿をした神様とか、あるいはドクロとか、はたまた、人間の生皮だとか、怖そうものを考えていました。

いよいよ御開帳で扉が開くと・・・あら?なんだ、ネチュン本人の像じゃないか。

 

P1010217 P1010234

 

神懸かりになり歯をむいたネチュンの像が祭ってありました。さっきの祈祷室の本尊がまさにネチュンの本尊だったのです。ドクロを期待していたのでちょっとがっかりしましたが、ネチュンの寺なんだから、本人が本尊なのは当然といえば当然。

私は扉を開けてくれた坊さんに100元をお布施に渡しました。もちろん、ここは物わかりのいい神様ですから、写真はOKになりました。ガラスの反射が気になりますが、仏像の雰囲気はこんなものです。

 

P1010278 P1010274

 

 本堂内の本尊の右隣の、祈祷室とは対称位置にある部屋もドアが開いていました。部屋の中には誰もいません。部屋は壁が棚状になっていて、入って右半分はガラス窓になっていて仏像が、左半分は仏画を描いた扉が閉まっています。ここも色彩の洪水です。太鼓などがあるから、ここも祈祷する場所のようです。

 

 本堂に戻り、入口の右側にも部屋があります。鍵穴から中を覗くと、何か置いてあるのが見えます。私が覗いているのを見て、坊さんが開けてくれました。

 

P1010303 P1010294なかなかきれいな菩薩

 

この部屋の本尊はパドマサンババのようです。しかし、目を引くのは壁一面に描かれたきれいな菩薩です。

 

P1010300部屋の三面が菩薩の壁画 P1010308南側の窓

 

黄色に下地を塗って、その上から赤や黒などわずかな色で一面に菩薩像がたくさん描かれています。ターラ菩薩のようにかすかに笑っており、なかなか美しい。ここにも忿怒神はなく、パドマサンババが目をむいているくらいで、菩薩たちはにこやかです。

 本堂に戻ると、祈祷室にいた僧侶が我々を見かけて、「まだいたのか」という顔をして笑いました。

 この時撮った写真に奇妙な物が写っていました。

 

P1010256 P1010255

 

 上左の写真の右側や下半分の暗い部分をよくごらんください。何か白い玉のようなものが空中にたくさん写っています。これはレンズの汚れではありません。この前後の数枚の写真にしか写っていないのです。おお、心霊写真だ!さすがは歯をむき出して暴れるネチュンだけのことはあって、本堂の中は霊魂が浮遊している・・・と喜んでいたのですが、答えは、上右の写真にありました。

 オバサンが箒で掃除しています。舞い上がったホコリにカメラのストロボがあたり、ピントが合っていない手前のホコリが白い玉のように写ったのです。

 幽霊ゴッコはこのくらいにして、外に出て、二階に登ってみましょう。

 

P1010347本殿二階 P1010348二階からラサ市街を見る

 

 建物の右側にある階段から二階のテラスに行くと、テラスには参拝者らしい三人の親子がいるだけで誰もいません(写真上左)。テラスからはラサ市内(写真上右)、北西には昨日訪れたデプン寺が見えます。二階にも建物がありますが、鍵がかかっていて入れません。部屋の前には酒瓶が数十本あるから、やはり酒の好きな神様が祭られているのでしょう。

 一階に戻り、東側の出入り口からネチュンを後にしました・・・実におもしろかった。誘ってくださった方に感謝です。11:00

 

 11:30にはホテルに戻りました。

 昼食まで時間があったので、ラサ・ホテルの近くのスーパーマーケットに行ってみました。日本と同じような形式で、カゴに買い物を入れて、レジでまとめて払う方式で、最近できたばかりだそうです。日本との最大の違いは売り場の棚一列ごとに売り子の女性たちが待っています。説明してくれるのですが、おそらく万引き防止が最大の理由でしょう。

 商品はなんでもあり、値段がはっきりしているのでとても買いやすく、道端で買った物に比べると高いが、日本人には向いています。

 

 

セラ寺の見学

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14:30 ラサの北にあるセラ寺の見学をしました。ネチュンのような特別な寺を除けば、チベットのお寺はどこも似たようなもので、おまけに写真を撮らせてくれないことが多いので、素人には一つ見れば十分という気がします。午前中の興奮で、私はあまり気乗りはしなかったが、僧侶同士の問答があるというので行ってみました。

 

P1010375ノレンの模様が白くなっている P1010378ノレンを裏から見ると模様が見える

 

 寺の前にはノレンがかけてあって、昔は白地に黒く模様を縫い込んであり、なかなかおしゃれだったが、今見ると模様が白くなっています(写真上左)。模様があるのは裏側から光を通して見るとはっきりします(写真上右)。隆さんの説明によれば、45年で変えるのだそうですが、これでは全然よくありません。

 寺の北側で行われる問答を見に行きます。

 

P1010407観光客向け P1010382

 

塀に囲まれた木立の間で、数百人くらいの僧侶が身振り手振りも激しく問答の修行をしています。周囲と真ん中に通路があり、観光客はそこから写真を撮る・・・が、迫力はイマイチです。観光客を意識したパフォーマンスのようにさえ見えてしまいます。

 

P1010394迫力イマイチ P1010390問答修行

 

 こういう問答は、知性によって理解することを重んじたお釈迦様の時代からのものですが、かなり様式化されています。日本でも禅宗にも問答を行う儀式があるようです。しかし、日本のそれは完全に丸暗記の儀式にすぎないよう見えます。

午前中の歯をむき出したネチュンに比べて、何かシマリがありません。~16:00

 

 セラ寺をあとにして、バスに乗り、ラサの西側にあるチベット茶の店に案内されました(写真下)

 

P1010412日本語が達者

 

 試飲をさせてくれて、買わなくても良いという話でした。店の奥の部屋に案内され、そこでチベット茶の説明と試飲がありました。説明しているチベット人は日本語がぺラペラです。試飲と説明が終わり、いきなり「買いたい方?」と迫ってきました。日本人から見ても安い品物ではありませんから、一瞬、沈黙。その後、何人かがお茶や茶菓子を買いました。

 店が客に品物を売って得た利益の一部を旅行会社に払うというのは、パックツアーではよくあるやり方です。この旅行会社はこういう販売方法はとらないと聞いていたので、帰国後、この件を旅行社に進言したところ、旅行会社は一銭も受け取っていないとの返事でした。とすれば、あれは大変誤解されやすいやり方です。旅行会社の金儲けだと受け取ったのは私一人ではなかったからです。~17:40

 

P1010420レストランから見た光景 P1010421

 

19:00 ホテルに戻った後、休憩して、夕食を取るためにバルコルにバスで向いました。今回は、前回2回のようにバルコルの中にある店ではなく、ジョカンの前にある広場の近くの店でした(写真上はレストランから見た風景)

 これでラサでの観光はすべて終了しました。

 

 

 

 

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