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ヒマラヤの青いケシ

5日目 201579()

シャングリラ → バンガジャン

 

 

ヒルの朝食

 初のテント泊の朝です。四時頃目が覚めて、温度を見ると15.5度。寒くて目が覚めてしまったようです。私は睡眠不足に弱いので、もう少し寝ていようとしばらくじっとしていましたが、努力空しく()、五時頃にノロノロと起きて、準備を始めました。

 

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 外に出ると、雨こそ降っていないが、空は雲で覆われ、どんよりとした天気です。山の天気だから、これから晴れるかもしれないと、この時は期待しましたが、この日は朝がもっともよい天気でした()

 本日は、次のキャンプ場のバンガジャンまで移動し、その間に青いケシなどの高山植物を見ます。いよいよ、このツアーの一番の見せ場です。それだけに天気が心配です。

 

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 六時頃に各テントに洗面器一個分のお湯が配られ、これで顔を洗うとさっぱりします。食事が七時半だというので、私は朝の散歩を兼ねて周囲の花を見にいくことしました。ここは標高3000mですから、テントのすぐそばで高山植物が花を咲かせています。

 

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写真上下 Sambucus adnate

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 写真下は日本でいえばフジバカマのように見えます。

 

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写真上下 Spiraea bella

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.432)

 

 アズマギクの花の上にハエとバッタがいます(写真下)。ハエは水滴をつけたまま、おそらく寒さで動けないのでしょう。ハエは気色悪いが、でもめったにない被写体です。水滴に空が映っています。

 

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 写真下のキンポウゲは良くみかけるが、花が小さいで全体像を撮ると花がわからず、花だけ拡大すると全体がわからない。数が多いのに、良い被写体が少なく、撮りにくい花です。

 

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写真上下 Anemone rivularis

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.615)

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 写真下は花が少なく、適当な被写体がない。

 

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 昨日も見かけたショウガがここにもたくさん生えています(写真下)

 

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写真上下 Roscoea megalantha

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 下の花弁が、写真上のように赤味の強いものから、写真下のように白いものまでいろいろあります。

 

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写真上 Senecio raphanifolius

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.112)

 

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写真上 Potentilla contigua

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.444)

 

 写真下はミゾソバの仲間で、花が薄いピンクと普通のピンクがあります。

 

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写真上 Persicaria runcinata

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.667)

 

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 昨日のセーターを着たアザミと違い、こちらは普通のアザミです(写真下)

 

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 写真を撮っている時、腕に奇妙な感触がありました。見ると、ヒルです(写真下)。昨年のボルネオに続いて二度目です。三千メートルでもいるのだと妙に感動しました()

 私は写真を撮る時、地面に寝転ぶことが多いので、ヒルにしてみれば朝食が来たと大喜びで食いついたのでしょう。ボルネオでは撮り損ねたので、今回は記念写真を撮ってからはがしました。強引にはがすと傷が治りにくいそうだが、虫よけスプレーを持ってきていないので、ヒルに朝食を差し上げたままテントに戻るのも何なので、引っ剥がしました()

 

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 テントのほうを見ると、スタッフたちが食事を始めていますから、もう食事ができたようです。松森さんから声がかかりましたので、テントに戻りましょう。

 

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 肌寒いので温かい物をとると和みます。

 

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セラ峠を通過

 食事を終えて八時出発。八時半の予定でしたが、食事が早かったので三十分繰り上げました。山の天気は後になるほど悪くなることが多いので、出発は早いほうが良い。昨日と同じ道を登り、まずセラ峠まで行きます。

 道端で編み物をしながら、たぶん迎えのバスを待っているのでしょう(写真下左)

 

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 登るにつれて、昨日と同じで、上から雲がかかってきました。実際には私たちの車が雲の中に突入したのです。最初は霧だったのが、次第に濃くなり、霧雨に変わっていきました。

 

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 昨日来たセラ峠に到着(9:10)。標高4200mのこのあたりは昨日と同じように、深い霧と霧雨が降っています。

 

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 霧の中を今日も軍用車両が行き来しています(写真下)。この後、霧の間から眼下に駐屯地が見えました。

 

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 セラ峠から目的地のバンガジャンまでは42004400mの尾根に沿ように進みます。

 セラ峠から幹線道路を離れると、その先の道路は舗装などされておらず、車が一台通れるだけの幅しかありません。尾根伝いのような道路なのでそれほど上がり下がりはありません。晴れていれば、素晴らしい眺望が広がっているのでしょう。現実は写真下のように、目の前の車さえも曇って見えます。

 

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 四千メートルの高地で、荒れ模様の天候の中で道路工事をしています(写真下)。しかも、カッパも着ていない。車が何とか通れるのも彼らのおかげです。熱いチャイを一杯おごってあげたい気分です。

 

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 少し道幅に余裕のある所で車を停めて花を探します。

 

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 シャクナゲが少し残っています。しかし、斜面を登り近づいてみると、残念ながら、どれも花が傷んでいます。数種類あったようですが、私が撮ったのはたぶん同じ種類です。

 

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写真上 Rhododendron anthopogon

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.334)

 

 岩の間には写真下のような黄色い花が絨毯のように広がっています。

 

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写真上 Saxifraga stella aurea

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.499)

 

 イワヒゲの仲間が見事に岩に張り付いて花を咲かせています(写真下)。和名のイワヒゲは岩から茎がヒゲのように見えることから来ているそうです。あまりこの花にふさわしい名前ではありません。イワスズランなど外見にふさわしい可愛らしい名前を付けるべきです。

 

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写真上 Cassiope selaginoides

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.309)

 

 綿毛に包まれたトウヒレンです。残念ながら、一つしか見つかりませんでした。

 

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写真上 Saussurea gossypiphora

(Flowers of India)

 

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写真上 Bergenia pwpurascens

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.477)

 

 シオガマギクの仲間は四川省などではすごい種類があるが、ここではそんなに多くはありません。

 

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写真上 Pedicularis roylei

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.158)

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サクラソウ

 写真下の昨日も見かけた黄色いサクラソウは車からも頻繁に見かけます。

 

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写真上 Primula. dickieana.

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.269)

 

 ここから先のサクラソウは車からはとても見えないような小さな花です。写真下は白くて、鈴のような形で、普通のサクラソウのイメージとはちょっと違います。滴のついたベルがきれいです。

 

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写真上下 Primula soldanelloides

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 岩の上にできた土とも言えないようなわずかな土に根を張っています。とにかく小さい。花の大きさはシバザクラくらいです。

 

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写真上 Primula glabra

(Flowers of India)

 

 写真下は同じように小さなサクラソウだが、色が違います。

 

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写真上下 Primula dryadifolia

 

 雨と風の中、岩にしがみつくように小さな花を咲かせている姿は愛らしく、けっこう感動します。

 

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 小さな紫色のサクラソウです。

 

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写真上 Primula gambleana

 

 何カ所かでさらに車を停めるが、ごらんように濃霧で周囲はほとんど見えません。

 

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 山を見たい方には最悪でしょう。花を見たい者にとっては、晴れはベストだが、天気が悪くても致命傷にはなりません。霧で多少暗くなっても、今のカメラは感度が良いので、何とか撮れます。ただ、風はいただけない。

 

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青いケシが四種類

 目を引くのが背の低い黄色いケシです。昨日もセラ峠の山頂付近で少し見かけたプライニアナです。道端にかなりたくさん生えていて、走行している車の中から頻繁に見かけます。

 これまで私が中国側のチベットで見て来た黄色いケシは、どれも茎が太く、たくましい印象でした。このケシはそうではありません。

 

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写真上下 Meconopsis prainiana

(The genus of Meconopsis, p.236,p.264, 『ヒマラヤ植物大図鑑』p.560)

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 ここのプライニアナは黄色ばかりで、青はまったく見かけませんでした。しかし、たとえば『ヒマラヤ植物大図鑑』に載っているプライニアナは青です。ネットで検索しても圧倒的に青が多い。水色系のきれいな青です。

 日本の青いケシの研究で有名な「青いケシ研究会」(http://www.sinohimalaya.com/)に紹介されているプライニアナの写真を見ても、いずれも水色や薄紫で、黄色は一本もありません。また「Meconopsis World - A Visual Reference」というサイトでも水色しかありません。(http://meconopsisworld.blogspot.co.uk/)

 

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 ところが、2014年に出た青いケシの最新の研究書「The genus of Meconopsis」では、アルナーチャル・プラデーシュで撮られたという黄色のプライニアナが載っていますから、これを信用することにしましょう。

 

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 二種類目は昨日も見かけた黄色の背の高いケシのパニクラタです(写真下)

 

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写真上 Meconopsis paniculata

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.546)

 

 三種類目のシンプリキフォリアは、ネパールからヒマラヤに分布しているケシです(写真下)。花は一個だけ咲き、わりと背が高く、この個体も5060cmあり、これが標準的です。私はブータンでお会いして以来15年ぶりの再会です。この日も一株しかなく、今回は少し時期をすぎているせいか数が多くありませんでした。

 

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写真上 Meconopsis simplicifolia

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.553)

 

 写真下は私が初めて見る青いケシのベラです。この日は近くで撮れたのはこの一株のみでした。この日だけで、黄色が二種類、青が二種類の合計四種類の「青いケシ」を観ました。

 

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写真上 Meconopsis bella

(Flowers of India)

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 コリダリスが垂直よりももっと角度をなしている崖にしがみついて咲いています。

 

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写真上下 Corydalis ecristata

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.564)

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 写真下のネコノメソウの仲間は花に派手さはないが、よく見かけます。

 

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写真上 Chysosplenium carnosum

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.509)

 

 写真下のイヌタデの仲間はあちらこちらの斜面に生えていて、数が多く、今が盛りらしく、目立ちます。平地ではイヌタデは農家の嫌われ者の雑草だが、ここでは花も大きく、きれいです。

 

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写真上 Bistorta griffithii

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.659)

 

 写真上のような大きなイヌタデがある一方で、写真下のように五センチほどもないようなタデも見られます。地面に這いつくばるようにして撮ります。

 

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写真上下 Bistorta viviparai

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.662)

 

 派手さはないし、どう見てもただのタデなのだが、こんなに小さくて岩の陰で必死に花を咲かせているのを見ると、けなげで可愛いですね。

 

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写真上 Lignariella hobsonii

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.533)

 

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写真上 Saxifraga melanocentra

(Flowers of India)

 

 

車中で昼食

 道路工事中で通行止めになり、待たされる間に昼食です(12:15)。天気がよければお花畑の中で食べられるのだが、外は雨と強風です。車の中でおとなしく食べました。

 

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 食後、湿原に立よりました(13:24)。谷の下に軍の施設があるらしいが見えるはずもなく、十メートル先も霞んでいます。雨が降っているので、どこからが湿原でどこからが道路の水溜りなのかさえもわからない()

 

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写真上右 Potentilla lineata

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.442)

 

 湿原には黄色いサクラソウが咲いています。しかし、湿原で雨が降っていますから、しゃがんで写真を撮るのでさえ容易ではありません。

 

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写真上 Primula. dickieana.

(『ヒマラヤ植物大図鑑』p.269)

 

暗くて撮影が難しい上に風が強い。気温が下がっているのか、風が冷たく、湿原の途中から私は引き返しました。寒い・・・これがこの後で私の問題になりました。

 

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写真上左 Pycnoplinthopsis bhutanica

写真上右 Rhododendron setosum (Flowers of India)

 

 

天気も体調も最悪

 午後二時頃、バンガジャンに到着。ここも前日のシャングリラと同様に、道路脇にちょっと平らなところがあるだけです。たぶんキャンプ用に一部を平らにしたのでしょう。

 私たちが予定よりも早目に到着したので、到着した時はまだテントが完成していませんでした。かなりの雨の混ざった強風の中をテントを設営するのだから、スタッフたちも大変だったでしょう。写真下左のトラックの奥にあるのが食堂テント、写真下右が調理用のテントです。写真下二枚の位置関係はそのままで、目の前にある道路が私たちが走ってきた幹線道路です。

 

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 ようやくテントができて、私は奥から二番目のテントに入りました。今日はクジ引きは無しです()。天気は悪化してほとんど台風のようで、テントが持つだろうかと心配になるほどの強風です。実際、私は夕飯の時、外に出て見ると、私のテントを抑えているロープが二本ともアンカーごと引き抜かれていました。スタッフのいるテントまで強風の中を歩いて行き(これ自体が容易ではない)、補修を頼みました。夜中にテントを飛ばされることを考えれば、早目に気が付いてよかった。なかにはテントの中に水が入って来て困った人もいたようです。

 

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 私はというと体調は最悪でした。セラ峠からバンガジャンまで、車は四千メートルの高地を強風と雨の中を走っていました。運転手はフロント・ガラスが曇るので、時々窓を開けて冷たい空気を入れ、さらには冷房をかけていたのです。花を撮ることばかり夢中になっていた私は、隣の人から「すごく寒いわねえ」と言われて、初めて自分の身体がすっかり冷え切っていることに気が付きました。まずい。私は冷えに弱く、このままでは風邪をひいてしまう。

 

 キャンプ場に到着した時は今回の旅行中で一番身体がしんどい状態でした。テントが決まったというので、私は倒れこむように自分のテントに入り、あるだけの衣類を着こみ、使い捨てカイロを張りつけ、葛根湯と生姜の粉末を口に放り込み、寝袋の上と下にレスキュー用のアルミのシートを敷いて、横になりました。

 昨夜の睡眠不足もあり、二時間くらい眠ったのでしょう。目が覚めた時は悪寒は去り、だいぶん体調が戻っていました。あまり食欲がなかったこともあり、胃腸に負担をかけないためにも、食堂に行き松森さんに事情を話して、夕飯は無しにしてもらいました。

 

 四千メートルの高地だと聞いて、私は高山病対策だけは準備して来たので、こちらは何の問題もありませんでした。しかし、自分が冷えに弱いことをすっかり忘れていました。前日よりも千メートル上がり温度が下がるのだから、もう一枚衣類を増やすべきだったのに、朝は花の写真を撮ることに夢中になっていて、着るのを忘れていたのです。

 食事の後、湯たんぽが配られ、おかげで気持ち良く眠れました。

 

 

 

 

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