トップページ 日程表 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 チリ・アンデスの奇妙なスミレたち 3日目 2019年12月12日(木) ポルティーヨ → ファレヨネス 昨日は11時頃と遅く寝たので、ゆっくり眠るつもりでいたのに、犬の吠え声で五時すぎに目が覚めてしまいました。明け方まで暖房が止まっていたので、部屋の温度は19.9度と低い。 今日は、午前中、もう一カ所でロゼットヴィオラを見た後でここを発ち、サンティアゴを経由して、ファレヨネスに行きます。ファレヨネスはほぼ真南に100kmほどだが、山脈があるので大きく迂回し、倍以上の距離を走ります。 朝の散歩は、当然、目の前にあるインカ湖です(写真下)。 空気は澄んで、陰影がはっきり出すぎて、写真は撮りにくい。 八時から湖の見えるホテルのレストランで朝食です。たいていのホテルの朝食はビュッフェ形式が多いのに、ここでは一皿ずつ配膳してくれます。 マツカサすみれ 九時にホテルが準備してくれたトラックに乗ってロゼットヴィオラを探しに行きます。パトリシオさんは昨夜から高山病で体調を崩しているので、ホテルで待ちます。幸い、お客さんは誰も高山病の症状は出ていません。 写真上の瓦礫の斜面を探し回っても、他の花は少しあるが、ロゼットヴィオラはない。 写真上 Sanicula graveolens 写真上 Senecio looseri 写真上 Astragalus
vesiculosus 後でわかったのが、トラックを降りたすぐ近くにありました・・・人生ってこんなもんだよな(笑)。昨日と同じ、あの白い毛を生やしたロゼットヴィオラです。 写真上下 Viola atropurpurea 写真下の花など、縦の花弁にも少し白い毛が生えています。黒や紫よりも白のほうが虫を呼びやすいのでしょうか。もっとも、人間と違い、紫外線を感知する虫もいるというから、彼らの眼にこの花がどう見えているのかはわかりません。 ネットによれば、日本ではロゼットヴィオラの前は「マツカサすみれ」と呼んでいたという。こちらのほうがイメージ的にはぴったりきます。写真下など団子を積み上げたようになっています。まるで高層マンションだとお客さんが言っていました。ロゼットヴィオラのマンション群です。 ここのヴィオラは大半がマンションの最上階あたりに花を咲かせます。ただ、他の種類のロゼットヴィオラは必ずしもそうではないようです。 写真下左は、下の部分に葉が足りなく、スーパーで売っているカイワレダイコンみたいになっていて、中の構造が良くわかります。葉を密に積み重ねて気密性を保っている。 多くは高層化と同時に団地化しています。草なのに、まとまって生えて来て、しかも背の高い「マンション群」まで作るとは、いったいどうなっているのだろうと不思議に思っていたら、ちゃんと理由がありました。 『アンデスすみれ旅』(神山隆之、125ページ)によれば、これらは地下茎でつながっているそうです。つまり、宿根性のスミレなのだ。その根茎から芽が出て、こういう集団を作るらしい。もちろん、私は掘って確認はしていません。 群落しているように見えるのは集団ではなく、全体が一つの植物だということになります。地下茎に栄養を貯めているのであれば、何かあって地上部が枯れても、地下茎だけで復活できます。帰国後、改めて調べてみると、スミレは一年ごとに生えて来る植物だと思っていたら、宿根性のスミレもあるようです・・・知らなかった(笑)。 こんな所に犬がいる・・・いや、キツネだ(写真下)。人間を恐れる様子はないから、たぶん餌をもらっているのでしょう。オオカミと違い、キツネは人にはなつかないと聞いたことがあります。 トラックで険しい山道をホテルに戻り、セントバーナード犬のお見送りの中、バスに荷物を積んで出発です。 ロッジではなく、この黄色いホテルに宿泊できるなら、もう一泊して周囲を散策したいところです。 外来種も多い 昨日来た道をサンティアゴまで引き返し、途中で花の観察をします。まずは七曲りの急な坂道を一気に500mほども下ります(写真下)。昨日と同じように大型トラックが走っていて、この時間はアルゼンチン方向から来るのが多い。 昨日もちょっとだけ見かけた花で、ここは数も多く、ちょうど盛りです(写真下)。 写真上下 Tropaeolum polyphyllum この植物は地面を這うようにして、茎をのばしています。いくら高山でも、真夏の直射日光を浴びている石ころだらけの地面を這ったら熱の心配がある一方、寒さを防ぐには地面近くのほうが寒暖差が少ないという利点もあります。 チリやアルゼンチンなど中央アンデスの固有の植物です。地面を這うということ自体が、この地域の環境に適応した姿なのでしょう。 ここまでの写真を見るとわかるように、この植物の周囲には他の植物が少ない。地面を這いますから、背が高くなる植物と同じ場所なら、負けてしまいます。他の植物が進出できないような荒れた場所をわざと選んでいるのでしょう。 きれいなピンクのシソの仲間で、チリからアルゼンチンにかけて分布します(写真下)。 写真上 Stachys albicaulis ヒルガオは乾いた雰囲気と良く合っていて、昔からここにいるような顔をしていますが、昨日も見た外来種です(写真下)。 写真上下 Convolvulus arvensis 写真下は、花はオオイヌノフグリそのままで背丈が高い。これも欧州などの原産の外来種です。 写真上 Veronica anagallis-aquatica 写真下のシザンサスの仲間は、前回2015年にチリに来た時も頻繁に見かけました。ナスの仲間だと言われるとちょっと意外ですが、「山の小さな蝶(Little Mountain Butterfly)」というきれいな名前も付いています。 写真上下 Schizanthus hookeri たった一本、白花があります(写真下)。 写真下は黄色の花弁の真ん中に赤い点があるという何とも印象的な花です。英語名がmonkeyflowerというのは、サルに似ているという意味でしょうか。写真下左など、口を開けたサルと言われれば、見えなくもない。 写真上下 Erythranthe lutea 日本でもニシキミゾホオズキという名前で帰化しているようです。ただ、その写真を見ると、ここにあるような印象的な赤い点はなく、ほぼ黄色い花で、花や全体の印象もだいぶん違う。 写真下のキクの仲間は、外見はありふれているが、分布がチリとアルゼンチンのアンデス地域ですから、その意味でアンデスの固有種です。 写真上下 Haplopappus scrobiculatus 同じキクの仲間でも、写真下は外来種です。欧州では古くから薬用ハーブとして用いられていたので、今では世界中で栽培されています。 写真上 Tanacetum parthenium 花の下半分が袋になっているキンチャクソウで、この種類は初登場です。 写真上下 Calceolaria andina 川の近くにビロウドモウズイカが何本か立っています。私の畑にも生えており、世界中に広がっている外来種です。こうやってみると、こんな高い山でも外来種がかなり入り込んでいるのがわかります。 写真上 Verbascum thapsus 道端に黄色いスズメくらいの大きさの鳥が死んでいます(写真下左)。英語名がbright-rumped yellow finchといい、草原やアンデスに生息しています。写真下右は、私のわずかばかりの鳥の知識でいうなら、ホオジロに似ています。 写真上左 Sicalis uropygialis 川のそばの乾燥地帯 川が流れ、馬が草を食べている近くで昼食です(12:57)。私は食事は後回しにして、花を探します。 川には水が流れているのに、一歩そこから離れると猛烈に乾燥していて、花どころか、植物そのものが少ない。 シャボテンの花もいくつ見つけました(写真下)。シャボテンもろくに育たないほど乾いている。 写真上 Cumulopuntia ovata 写真下はチリの固有種で、花はガーベラくらいの大きさがあり、なかなか立派な花です。花の少ないこのあたりではかなり目立ちます。 写真上下 Mutisia subulata 園芸品種にもなっているアルストロメリアで、もちろん、ここのは自生です(写真下)。残念ながら、ここは一本しかない。 写真上 Alstroemeria aff. angustifolia この黄色いキクのような花も一本しか見つけられませんでした(写真下)。 写真下は学名にチリの名前が入っているくらいですから、ほぼチリ全土に分布しています。 写真上下 Quinchamalium chilense 写真下のマオウの仲間も学名にチリの名前が入っているように、チリ全土と一部アルゼンチンに分布します。環境が良いと1メートルくらいまで成長するようです。 写真上 Ephedra chilensis 強烈な日差しの当たる乾ききった地面に、小さな花束のような花が咲いています。足元に注意しないと見逃すほど小さい。 昨日も山の斜面で見かけたドライ・フラワーのような植物です(写真下)。昨日と違い、こちらは背も高く、群落を作っています。 写真上下 Chuquiraga oppositifolia 馬がいた川沿いに少し下ると、川の周囲に緑の草木が茂っています(写真下)。 紫のきれいな花が水のない河原で風に揺れて、涼し気です。 写真上下 Malesherbia linearifolia ネット上の解説ではチリの固有種で一部はアルゼンチンにも分布するようです。 キンチャクソウの仲間が見事な群落を作っています(写真下)。先ほどもキンチャクソウは見ましたが、これは別種です。 写真上 Calceolaria polifolia 写真下の花は見るからにナスの仲間で、樹木化して灌木のようになっています。チリやペルーが原産地です。 写真上 Solanum crispum 道端に沿ってアブラナの仲間が生えています(写真下)。 サンティアゴを通過 晴れて気持ちの良い山の間の谷を川に沿って下りて行きます。 やがて山道を下りて、葡萄畑や、山には枯れたようなアカシアがまばらに生えている平野部に入ってきました。 写真下は太陽光発電です。荒野が多く、雨が少なく、起伏が少ないのだから、太陽光発電には向いているはずなのに、今回の旅行ではあまり見かけませんでした。チリは日本と同じで化石燃料の資源には乏しく、昔は隣のアルゼンチンの安価な天然ガスに依存していました。値上げなどを機会にエネルギー事情を見直し、2016年には再生可能エネルギーが22%を占めています。日本など2019年でも18%ですから、遅れている。日本は地球温暖化対策で大きく後れを取っていることをもっと自覚するべきです。 チリが日本と似ているのは石炭火力発電が発電量の約4割を占めていることです。しかし、2019年には、チリの4カ所の石炭火力発電所の閉鎖、2040年までには全廃すると宣言しています。一方、日本はようやく低効率の石炭火力発電所の閉鎖を促す一方で、高効率の石炭火力発電を新規に計画しているだけでなく、海外にも売り込もうとしている。投資した分の元を取りたいという電力会社の意図もわかるが、地球温暖化の危機をあまりに軽く見過ぎています。 道を走っていて目につくのが、写真下の祠です。大きさ、形、立派さなどバラバラで、道端に頻繁に出てきます。 中を見ると、写真下のように、マリア像が祭られているのがあります。日本の道端にあるお地蔵さんに相当するのでしょう。 ところが、写真下のように花などの供物はあるが、何も祭られていない祠もあります。開けたままですから、マリア像などが盗まれてしまったのか。もう一つ考えられるのが、この近くで交通事故などで亡くなった人の慰霊碑です。実際、写真下左の後ろの壁に「Memorial」と書かれ、スペイン語の翻訳機にかけると記念碑とでます。 有料道の料金所でおもしろい光景を見ました。料金所のゲートの手前で写真下左の男性が手を挙げています。すると長距離用の大型バスが停まり、彼は乗車しました(写真下右)。料金所の前がバス停なのだ! トイレ休憩で、コカコーラを買いました(16:31)。容量が591mlという面白い量です(写真下右)。この後も店で見た範囲ではすべてこの容量でした。この後、ファレヨネスのホテルに着いた時、私はこのコカコーラをうっかりバスに置いたまま下りてしまいました。バスは私たちを下ろした後、サンティアゴにいったん戻ったため、私が一口しか飲んでいないコカコーラは捨てられてしまった(笑)。 道はサンティアゴの北部をかすめるように郊外を進みます(写真下)。 道端の看板はそれほど多くありません(写真下)。日本のあの雑然とした看板は何とかならないものでしょうか。 サンティアゴの北東部の郊外に出ると、建築中らしい高層マンションが目に着きます(写真下)。 高速道が終わって、住宅街を通り抜けて、山の中に入ってきました(写真下)。両側の斜面に住宅のある谷の奥に道は続いています。 谷の途中から七曲りの道に入り、ファレヨネスのホテルまで一気に千メートルを登ります(写真下)。 七曲りどころか、百曲がりくらいの道です(写真下)。 コンドルは壁に飛ぶ 百曲がりを登りきって、玄関に犬クンのいるファレヨネスのホテルに到着しました(17:30)。この街は標高2400mほどです。犬たちはだらしなく寝そべっていて、のんびりした雰囲気です(写真下)。 木造なので、心地よい山小屋という雰囲気です。 二組の夫婦で経営しており、二人の奥さんは姉妹のようです。 ネコもいます(写真下)。後でお客さんがソファーに座ったら、ネコから自分の場所を盗ったなと睨みつけられたそうです・・・それはお客さんのほうが悪い(笑)。 犬と猫の他に、居間の壁にコンドルが停まっています。写真下ではわかりにくいが、かなりデカイ。 残念なのが廊下で、人が一人通れる程度でかなり狭く、火災などの災害の時にはちょっと危険な気がします(写真下)。建物が山の斜面にあるので、十分な広さが取れなかったのでしょう。 道端は外来種だらけ 夕飯まで時間がありそうなので、散歩に出かけることにしました(17:07)。ここはスキー場があり、そのためのホテルや別荘などがあります。まず街中を歩いてみることにしました。 舗装されていない脇道を進む、というか、登ります。標高2400mほどの山の斜面なので、坂道を登るのも楽ではない。おまけに夕方なのに暑い。 道端で真っ先に目についたのがヨーロッパ原産のイヌカミツレです(写真下)。 写真上 Tripleurospermum inodorum 写真下はムラサキの仲間で外来種です。 写真上 Cynoglossum cretica 写真下は日本でもシベナガムラサキとして見られるエキウムの仲間で、ヨーロッパの原産ですから、外来種です。 写真上 Echium
vulgare 写真下は中東原産の外来種です。 写真上 Galega officinalis 今日の午前中も見かけたオオイヌノフグリの仲間で、外来種です(写真下)。 写真上 Veronica anagallis-aquatica 写真下はずいぶん変わった姿の花で、これで花が咲いているのでしょう。道端にまとまってありますから、たぶん外来種でしょう。 写真下のきれいなアザミは日本語ではゴロツキアザミというとんでもない名前の付いた外来種で、欧州や西アジア原産で世界中に広がっています。 写真上左 Onopordum acanthium 他にも写真下のように、道端には何種類かあって、自生種か外来種かわかりません。 写真下左のアルストロメリアなどは自生種です。 写真上 Alstroemeria aff. angustifolia 写真上 Conium maculatum 写真下は今日の午前中も山の中であった、ちょっと変わった姿のシザンサスで、こちらも自生種です。こうやって、人の住んでいる地域の道端は圧倒的に外来種が多いのは日本と同じです。 写真上 Schizanthus hookeri 写真下の看板にある「cultura de montaña」を翻訳機にかけると山の文化と出てきます。 街中はホテルや別荘らしい建物が見られます(写真下)。しかも、冬のスキーシーズンだけ利用するらしく、人の気配のしない建物が目につきます。 個人宅の庭から道路側にピンクの一重のバラがはみ出て咲いていて、きれいです。たぶん、ヨーロッパが原産のRosa caninaでしょう。 好感が持てたのが、写真下のゴミ捨て場です。ちょっとこんなふうに囲っただけでも、ずいぶん雰囲気が違います。 夕陽の中で夕飯 六時半からホテルのレストランで夕飯です。レストランは広くて、私たちしかいないのに、テーブルは壁のそばに寄せてあって、壁側の席に入るのに苦労する(笑)。 食器もそろったコース料理です(写真下)。パッションフルーツのデザートは種が邪魔で食べにくい。 食事の最中にパトリシオさんが急に席を立ちました。彼の座っている所から夕陽が沈むのが見えたのです(20:43)。急いで後を追って外に出ると、あっという間に太陽は沈んでしまいました(写真下)。 写真下が私の部屋で、運よく、家族用の広い部屋に当たったらしい。変則的な形をしていて、入口を入ると通路があり、片側に二段ベッドがあります。元々はこれだけで、階段から上の寝室は後で増築されたのかもしれません。 二段ベッドの脇の通路をすり抜けて、奥の階段を上がると、そこが寝室です(写真下)。ダブルベッドの他に二段式のベッドがあり、下はソファーになっています(写真下右)。階段があるのはここが山の斜面だからで、寝室の壁の向こうは天井の高さに道路があります。ただ、交通量が少ないので、ほとんど気になりませんでした。 入口の脇にトイレとシャワー室があり、お湯も問題なく出ました(写真下)。 バス・トイレが階段の下なのであまり使いやすいとは言えない。暖房装置は作動しませんが、寒くはありませんでした。Wifiがダメで、ゴミ箱がない!このようにいろいろと問題もあるが、広さもあり、木造のぬくもりと窓から差し込んでくる日差しも良く、居心地は悪くありません。このホテルへの個人評価は、五段階評価で少しおまけして4.0で、満足です。ここに二泊します。 |