表紙 日程表 1 2 3 4 5 6 7 8 9

 

ギリシャ北部 ピンドス山脈の花

3日目 2025427()

カタラ山とアオース湖

 

 睡眠不足が続いたので、朝7時までゆっくり寝ていました。窓の「木の板のカーテン」を開けると、空は曇っています。

 私の部屋の目の前が写真下です。道路を隔てた目の前の斜面は牧場で、写真右の真ん中の柵を境に、左に黒い馬、右に白い馬がそれぞれ一頭放牧されています。足元は食べ物だらけとはいえ、左側の黒い馬など雨が降っても小屋がないので、濡れたままでちょっとかわいそうです。

 

P1010078 P1010079

 

 今日はメツォヴォの北に位置するカタラ山やアオース湖に行き、花を探します。いよいよ、本格的な花の観察の開始です。

 

 

 8:30からホテルの一階の食堂で朝食です。レストランの一部が朝食専用の部屋になっていて、家具も飾りつけもオシレャレです。

 

 P4270544

 

 食材は豊富でどれを食べようかと迷います(写真下)。朝食で見かけたお客さんの数からいっても、量が多すぎますから、余ったら、どうするのだろうと、つい庶民感覚で考えてしまう。

 

P4270530-1 P4270532-1

 

 黄色い鳥が「これもおいしいよ」と言っていますので、食べてみましょう(写真下左)

 

P4270545-1 P4270536-1

 

 私が一番感動したのが、写真下左のトースターです。日本で言えば昭和レトロな時代を感じさせ、とても大事に使われています。食器も食器棚にきれいに並べられ、いずれもホテルができた頃から使われているような年代物のせいか、皿などデザインが、このホテルの雰囲気と良く合うと、この時は思いました。

 このトースターの保存状態があまりに良いので、帰国後、疑問に思って調べると、Westinghouse 社からRetro Toasterという名前で今でも売られている商品でした。たぶん、食器なども最近の商品でしょう。

 

P4270537-1 P4270539-1

P4270553-1 P4270554-1b

 

 お茶は各人に希望を聞いて配膳してくれます(写真下右)。ただ、朝食にしては野菜が少なく、準備と配膳は二人だけですから、労力をかけないために保存のきく食べ物を中心に出しているのでしょう。

 細かいことは抜きにして、総じて、素敵な朝食でした。

 

P4270560 P4270561

 

クリスマスローズの群落

 予定どおり9:45にホテルを出発して、写真下が本日最初の花の観察です。周囲は山なのに、この一帯だけ平地になっていて、たぶん牧草地でしょう(写真下)

 

DSC_1303-1 DSC_1313-1

 

 近くの丘で目についたのがクリスマスローズです(写真下)。元気に生い茂って花を咲かせています。写真下など一株だと思うが、2030個の花を咲かせています。

 

DSC_1327-1

写真上下 Helleborus odorus subsp. cyclophyllus

 

 クリスマスローズは日本でも栽培品が量販店で売られていて、良く知られています。ほとんどのクリスマスローズは春に咲きますから、クリスマスとはほぼ関係ありません。

 

DSC_1320-1

 

 気になったのが丘の樹木の少なさです。少し雑木があって、クリスマスローズはその下に生えています。これがクリスマスローズの好む環境で、樹木など少し日陰のある下で育つ植物です。

 

DSC_1336

 

 樹木がなくなった空き地にクリスマスローズが増えているようにも見えます(写真下左)。しかし、ここも周囲は樹木があるからで、丘の山頂付近は樹木がなく、クリスマスローズもほぼありません(写真下右)

 

DSC_1415 DSC_1312

 

 写真下左はこの丘の全景で、樹木は間もなく無くなってハゲ山になるだろうと、私は自分の頭を触りながら予想する。雑木がなくなり、ハゲ山になった時がクリスマスローズの最期です。

 

DSC_1445b-1 DSC_1418

 

 樹木が減っている理由は、地球温暖化など遠因もあるが、直接的には人間と牧畜です。クリスマスローズは毒性があるので、家畜は食べないばかりか、誤って食べたら農家にも被害だから、嫌われ物です。人間が入り込み、牧畜に役立たない雑木を切るから、徐々に衰退してきた。むしろ、少しでも残っているのが不思議で、何か保護が加えられているのでしょうか。

 

P1010115 P1010084

 

 写真下左は丘の西側にある平地で、たぶん人間が来る前はここにも雑木とクリスマスローズが生えていたのでしょう。写真下右は丘と平地の境で、まだ低木が残っているのでクリスマスローズが生えています。この平地の姿が、おそらく十年後の丘の姿で、雑木もクリスマスローズも消えてなくなる。

 

DSC_1426 DSC_1423

 

 十年後、ここに来た時には、クリスマスローズは消滅しているでしょう。日本でも何度も体験しているので、さびしいことだが、珍しいことではありませんから、今のうちに観ておきましょう。

 

DSC_1421b

 

 同じ丘に群生していたのがムスカリです(写真下)。とても丈夫な植物で、私の畑でも広がっているのと同じ種類で、たぶん低木がなくなっても、このムスカリは生き残ります。

 

DSC_1342 DSC_1307

写真上 Muscari neglectum

 

 写真下は春先の花らしい黄色いサクラソウで、欧州からシベリア南部までの広い範囲に分布します。

 

DSC_1353dd

写真上下 Primula veris

DSC_1355 DSC_1354b

 

 赤いランが目立ちます(写真下)。欧州、北アフリカからイランまで分布するランです。昨日もメテオラで見たランで、脈の入った花弁がトンボの羽のように付いているのが特徴で、「緑色の翼のラン(green-winged orchid)」と呼ばれる理由です。

 

DSC_1359 DSC_1407b

写真上 Anacamptis morio

P1010091 P1010094

 

 写真下左は、旅行会社から渡された植物一覧表では名前が決定されていません。私は素人の強みを生かして独断と偏見で下記の名前に決めました。写真下右は昨日のメテオラでも見られました。

 

DSC_1419 DSC_1437

写真上 Onosma erecta          写真上 Cruciata laevipes

 

 写真下左の白と黄色のスミレは欧州、西アジア、北アフリカでは一般的です(写真下)。日本では2006年に栃木県で帰化が確認されて、マキバスミレという和名まで付けられています(北川他『雑草研究』5, 14, 253, 2006)

 写真下右は、これも日本にも帰化しているヒメオドリコソウで、春先など畑に群落しているのに、こちらでは群落はせず、いたった控えめです。

 

P1010110b-1 DSC_1383B

写真上 Viola arvensis   写真上 Lamium purpureum

 

 丘の中腹にほんの少しだけスイセンが咲いています(写真下)。日本でいうクチベニスイセンで、スペインからギリシャなど南欧が原産地で、欧州の他の地域にも帰化しています。

 

DSC_1387b DSC_1393b

写真上 Narcissus poeticus

 

 丘の西隣の平らな草原に群落しているのが、写真下のキンポウゲの仲間です。日本ならウマノアシガタに相当します。チベットやサハリンでも、草原や湿地帯に黄色いキンポウゲが一面に咲いている光景を見ました。これが群生しているのだから、地面には湿気があるはずです。

 

DSC_1400b-1 DSC_1443

写真上 Ranunculus sprunerianus

 

カタラ山中腹

 天気が悪い上に、カタラ山に向かって高度を上げているので、ついに霧というか、雲の中に入りました(写真下)

 

DSC_1454

 

 寒冷で陽射しが少ないせいか、クリスマスローズは先ほどの所に比べて株が小さく、派手な緑です(写真下)

 

DSC_1458 DSC_1822b

写真上下 Helleborus odorus subsp. cyclophyllus

 

 量販店で売られているクリスマスローズは白やピンク、あるいは八重咲など、私の好みに合わず、買いたいと思ったことがほぼありません。しかし、ここの緑色のクリスマスローズなら一鉢ほしい。もちろん、ここで引っこ抜いたりはしません。

 園芸種の元の花を見ると、そのまま増やして売ればいいのにと思うことが良くあります。手間暇と改良を加えて、本来の良さが失われている。

 

DSC_1480b DSC_1472b

 

 写真下は、ナズナ(Thlaspi)の仲間というだけで、ガードナーさんにもわからないようです。ネットで調べてみましたが、不明で、ここにしか生えていませんでした。

 

DSC_1518b DSC_1518q-1

 

 写真下は見た目のままで、ジンチョウゲの仲間です。ただ、ジンチョウゲのような強い香りは感じません。北ギリシャからユーゴスラビア、ブルガリア、ルーマニアに分布しますから、ここは南限です。

 

DSC_1459 P4270582-1

写真上下 Daphne blagayana

 

 写真下は日本でも山で見かけるエンゴサクの仲間で、欧州から西アジアにかけて広く分布します。

 

DSC_1484b DSC_1493b

写真上 Corydalis solida

 

ガレキの中の小さなバイモ

 標高1600mくらいの霧の中、花などなさそうなガレキの中を探したのがバイモです(写真下)。小さくて、かわいい。高さは10cmあるかないかくらいです。足元を気を付けないと踏んづけてしまう。色が地味なので、一度その場を離れると、どこにあるのかわからなくなるから、他の人に「ここにあるよ」と教える時は場所を動けません。

 

P1010170

写真上下 Fritillaria epirotica

 

 一つ見つかると目が慣れるので次々と見つかるが、それでも数は多くありません。大半がガレキの間から生えて、周囲に背の高い植物のいない場所を選ぶことで、太陽からの光を受けて、石の下のわずかな土の中で栄養を貯める。周囲に自分より背の高い植物がないから、花を咲かせても虫から見つけてもらえます。

 

P1010175b

 

 ツボミの時は緑色が残っていて、だんだん紫色が混ざってきます(写真下)。写真下右で、右側のツボミはまだ緑色が残っているが、左側はほとんど紫色になっています。

 

P1010151b P1010207b

 

 根本の葉は横に広がることが多いのに、写真下ではまるで踊っているみたいに葉がクネクネと捻じれて立ち上がっています(写真下)。前にイランの高地で見たバイモの葉もこんな様子で、どの角度からでも陽射しを浴びるためと推測したが、そうではなく、やはり踊っているのでしょう。

 

P1010198b P1010212b

 

 やがてツボミはチューリップのように先のほうが少し開き始めます(写真下)。ツボミの時は完全に下を向いているのに(写真上)、咲き始めると「顔」を上げて、シベが目立ち、虫が入りやすいように、花が斜めになります。ツボミの時は表面に粉を吹いたような印象なのに、開くと表面はツルツルで光っています。たぶんこのほうが虫の目につきやすいのでしょう。

 

P4270606 P4270616

 

 花弁を内側から見ると、花弁全部が紫になっているのではなく、緑色が残っていて、鱗のようなマダラ模様になっています(写真下左)。内側と外側では色が違うことになり、私は花をばらしてみたい衝動を抑える。

 写真下右のように、花の茎がのびないまま、地面に頭を乗せたような恰好で咲いているのもあります。怠慢でいい加減な性格の同類かと私は共感しそうになったが、環境が厳しく花の茎を十分にはのばせなかったのでしょう。

 

P4270614 DSC_1526b

 

 写真下の黄色い花は、トウダイグサ(Euphorbia)の仲間で這うことを選んだたった一種類なので、名前を決めるのが簡単です。先ほどのクリスマスローズの生えていた丘にも少しありました。イタリアからギリシャなどのバルカン半島をへてトルコやイランにまで分布します。

 

P1010156 P4270594-1

写真上 Euphorbia myrsinites

 

 写真下はこれでもアブラナの仲間と聞いて驚きました。葉の付き方からベンケイソウの仲間かと思いました。欧州の高山地帯に生えています。

 

P1010141 P1010140b

写真上 Aethionema saxatile

 

 写真上で周囲に見えている赤い玉のような植物のほうがベンケイソウの仲間のセダム(sedum)属の植物で、名前がわかりません(写真下)。写真下左で緑色の葉がやがて赤い玉になるらしい。

 

P4270588b-1 DSC_1494

 

 写真下のワスレナグサは見るたびに、おとなしい姿の花なのに、なんと素敵な名前を付けてもらったのだろうと感心します。人間から何と呼ばれようが、花には関係ないが、中にはオオイヌノフグリ、ヘクソカズラ、ドクダミ、ハキダメギクなどひどい名前を付けられた花もありますから、それに比べるとずいぶん得をしています。ただ、写真下はガードナーさんも判定できないらしいから、名前が忘れさられてしまったワスレナグサです。

 

DSC_1500b P1010142b

写真上 Myosotis sp.

 

 カタラ山を少し下りて休憩をとった頃には天気がいくぶん良くなり、遠くにメツォヴォの街並も見えます(写真下、12:28)。ただ、ギリシャの天気はそんなに簡単に機嫌を直してはくれません。

 

DSC_1534 DSC_1538

 

道端で昼食

 カタラ山を下りて、北にあるアオース(Aoos)湖に行く途中で昼食です(12:40、写真下)

 

DSC_1589-1 DSC_1591-1

 

 食事をした場所の周囲は湖に向かって小川が流れており、リュウキンカが咲いています(写真下)。皆さん、食事に忙しいのか、声をかけても誰もリュウキンカを見に来ません。欧州だけでなく、北半球の温帯の湿地帯では一般的なリュウキンカで、日本のリュウキンカの学名はCaltha palustris var. nipponicaと前半は同じで、変種ですから、このギリシャのリュウキンカとは姉妹です。

 

DSC_1577 DSC_1579

写真上下 Caltha palustris

DSC_1582 DSC_1569

 

 小川でもう一つ目立ったのが写真下で、葉を見るとフキの仲間で、この花はギリシャのフキノトウです。日本のフキのように、欧州では広く分布して一般的で、昔から様々に利用されてきたようです。

 

DSC_1559

写真上下 Petasites hybridus

DSC_1549 DSC_1586

 

 周囲の土手にはスミレも咲いています(写真下)。色や形は春先に見かけるタチツボスミレのような印象です。

 

P4270667b

写真上下 Viola canina

P1010226 P1010225b

 

踊る紅白ラン

 ガードナーさんが開けた斜面に群落する白いランを見つけました(写真下)

 

P4270645 P4270650b

写真上下 Dactylorhiza sambucina

P4270648bb-1-1

 

 白い中、少しだけ赤いランがあります(写真下)。色が違うだけで同じ種類で、虫を集めるために、時々こういう赤いランを咲かせるのだそうです。ただ、ネットで見ると、半数近くが赤ということもあるようですから、意図的に数を少なくしているのではなく、遺伝子の組み合わせによる偶然のようです。

 

P4270637b P4270621b-1

 

 たくさんついた花は一個一個が別な顔を持っていて、頭巾をかぶって手を振りながら踊っているように見えます(写真下)。人間が見ているから踊りを止めているだけで、いなくなったら、また楽しそうに踊り出す。

 

P4270644b-1

 

P4270639b P4270627b

 

アオース湖

 アオース湖が見えてきました(写真下)。ところが、また小雨がぱらつく(13:44)

 

DSC_1596 DSC_1597

 

 下の地図のアオース(Aoos)湖は標高1343 mにある人工湖で、1991年に完成しました。湖岸が複雑で、島もあるので、観光地にはぴったりです。周囲の山々には熊や鹿ばかりか、狼がいるというからすごい。ニホンオオカミは絶滅してしまった。ニホンオオカミは現在の家畜化されたイエイヌと遺伝的にもっとも近いと言われています。

 私たちは地図の右下から来て、湖の南側から時計回りに一周します。

 

 

DSC_1616-1b DSC_1607-1b

 

森の毛虫列車

 森は新緑が美しい。松の木に何か白い綿毛のような物がついているのをお客さんが車の中から見つけました(写真下左)。写真下右の蛾(Thaumetopoea pityocampa)の幼虫である毛虫の集団営巣です。松を枯らすのでギリシャでも問題になっていて、Wikipediaによれば、この蛾と毛虫は西暦100年前後のギリシャの記録にすでに登場するそうですから、付き合いは長い。

 

DSC_1661 moth01

写真上 Wikipediaから転載      

 

 この蛾の毛虫は松を食い荒らす他にも問題があり、一つは毛虫の毛が細いトゲになっていて、触ろうものなら大変なことになることと、もう一つが集団行動での見た目の気持ち悪さです。それが写真下で、たくさんの毛虫が数珠つなぎになって蛇のようになってクネクネと地面を進んでいる「毛虫列車」です(写真下)

 添乗員の山野さん(仮名)が皆さんに「見ないほうがいい」と警告し、見た客は「気持ち悪い!!」と逃げ出す中、私だけが、どうやったらこの気色悪さを読者の皆さんにも感染させられるかと、使命感に燃えて写真を撮っていました。

 彼らは湿った土の中で蛹から羽化します。成虫になって交尾の相手を探し、卵を産むまでたった一日です。セミは成虫の寿命が短いから可哀そうだと学校で教えられましたが、約一名のへそ曲がりの生徒は、幼虫時代も「人生」とみれば、むしろ長生きだと思いました。この蛾の毛虫は越冬するなど、寿命は12年らしいから、虫としては普通の寿命です。

 

P1010241 P1010243

 

 気色悪い毛虫はこのくらいにして、新緑の森の中で花を探します(14:09)

 

DSC_1648 DSC_1630

 

 道端で何度か見かけたのが写真下で、私の畑にもあるリンゴの花に似ていて、親しみを感じます。生成AIに「4月末に標高1000mくらいの北部ギリシャで見た野生のリンゴの名前」を質問したら、3種類の候補を出し、その一つを私が選択しました。「欧州の野生リンゴ(European wild apple)」と呼ばれ、欧州では普通に見られる野生のリンゴだというのが理由です。このリンゴの実は黄色なので、白雪姫の魔女のリンゴにはならない。

 

DSC_1633 DSC_1668

写真上 Malus sylvestris

 

 写真下左のようにリンゴにしては背が高く、これでは果実がなっても手が届かない。Wikipediaの説明では、寿命が80100年で、高さは14mくらいなるというから、高木リンゴです。野生のリンゴが道端に生えているなんて、ちょっとうらやましい。

 

DSC_1600b-1-2 DSC_1915

 

 黄色いマメの仲間が茂みを作っています(写真下)。黄色と茶色の花があるのではなく、茶色は年寄りでしょう。石灰質の乾いた環境を好みます。

 

DSC_1652 DSC_1656

写真上下 Chamaecytisus hirsutus

P4270691 P4270689

 

 同じマメ科でも写真下は草で、花の色がなんとも強烈です。欧州の南東部からトルコにかけての森に生えます。

 

DSC_1638-1b DSC_1675-1b

写真上 Lathyrus digitatus

 

 ここでしか見かけなかったセネシオがまとまって咲いています(写真下)。欧州から中央アジアまで分布します。

 

DSC_1718 DSC_1717bb

写真上 Senecio vernalis

 

 写真下のオルニソガラムは、地中海沿岸の森林地帯では良くみかけます。清楚で目立つ花ではないのになんとなく覚えているのは、「ベツレヘムの星(Star of Bethlehem)」というキリスト教にちなんだ英語名が付いているからです。

 

DSC_1677b DSC_1676bb

写真上 Ornithogalum montanum

 

 写真下は日本のジュウニヒトエの仲間で、セイヨウジュウニヒトエという和名まであります。でも、西洋の十二単って、どんな洋服なんでしょう?

 

DSC_1681 DSC_1446bb

写真上 Ajuga reptans

 

 車を停めた道端にたった1本、ポツンと咲いていたアネモネです(写真下)。昔、イスラエルやトルコでアネモネの群落を見たので、集団で咲くと思っていたら、今回のギリシャでは昨日も、こんなふうにポツンと咲いている真っ赤なアネモネを見つけました。フランスからトルコにかけての地中海沿岸が原産地です。

 

DSC_1694 DSC_1695

写真上 Anemone pavonina

 

 写真下も昨日見かけた白いランで、おとなしそうだが、ランの常で、花を見ると実ににぎやかな形をしています(写真下)。写真下中が正面から、右が横からの写真で、虫を集めるためにこの姿がどう役立つのか、いくら考えてもわからない。

 

DSC_1650b-1 P4270678b P4270685bb

写真上 Orchis provincialis

 

 写真下は、なんとまあ、御立派なランでしょう。真っ直ぐに立ち上がり、葉も花も均衡がとれ、数日後には満開になり、このランの全盛期を迎えます。欧州から中東、北西アフリカにも分布します。

 

DSC_1838

写真上下 Orchis mascula

 

 写真下は上と同でももっとおとなしい。それでも赤いので良く目立ちます。

 

DSC_1709-1b DSC_1714-1

 

 写真下左はツボミで、後ろに尻尾のようなスパー(Spur)がのびています。写真下右は花が開いた状態を横から見ています。

 

1839b DSC_1837f

 

 スパーはスミレなどにも見られ、蜜を貯める場所だという。だが、Wikipediaによれば、

このランは蜜を持たず、受粉昆虫を引き寄せます(This orchid is devoid of nectar and attracts pollinating insects)

とあります。このランは蜜を出さないのに、スパーに蜜を貯め込んでいるふりをして虫を騙しているのでしょう。このランのように派手で、お金目当ての美女にウインクされたら、私など簡単に引っかかりそうだが、大丈夫です。彼女に私の貧弱な財布を見せれば、すぐにいなくなります。

 

P4270701c 1830

 

 写真下左は遠目には小さなランかと思ったら、ヒメハギの仲間で、欧州だけでなく、ユーラシア大陸の温帯に分布しています。写真下右は特徴ある姿で簡単にわかりそうなのに、生成AIがあげた二つの候補はいずれも似ていません。

 

P1010250 DSC_1722bb

写真上 Polygala comosa

 

ムシトリスミレ

 道路の脇から少し水が染み出ていて、ムシトリスミレが生えています(写真下)

 

DSC_1746 DSC_1734

P1010238bb P4270706

写真上下 Pinguicula crystalline

 

 サクラソウみたいに可愛いのに、肉食だと聞いて「オレは年寄りだから、食ってもマズイぞ」と宣言してから近づく。

 

DSC_1747b P4270708

 

 虫を採るのは葉で、葉の上の粘々した液でとらえて、次に消化液を出して虫の筋肉や内臓を溶かし、それを吸収します。葉から消化液などが流れ出さないように内側に丸まっています。虫取りの性質を利用して、温室などで栽培して、殺虫剤の代わりにするそうで、頭いい。

 

DSC_1756b DSC_1754bc

 

 このスミレはイタリア、バルカン半島からトルコ南東部まで分布し、ここのように水の出る湿地帯で、石灰岩や蛇紋岩の上に生えます。蛇紋岩は水を吸収しやすく、土になりやすいが、栄養が乏しいのでしょう。

 

 DSC_1759c DSC_1751b

 

2種類のバイモ

 アオース湖の周囲の道をさらに進みます。天気は相変わらずで、時おり降る小雨は許容のうちです。

 

DSC_1766 DSC_1769

 

 写真下のオフィリスの仲間は欧州ではあちこちで見かけるランで、欧州から中東にかけて分布し、分布が広いだけあって亜種だけでも十数種類あります。

 

DSC_1790b P1010256

写真上 Ophrys sphegodes

 

 写真下では一本のランの花なのに、唇弁が上二つは黒で、下二つは黄土色です。Wikipediaにも同様の写真が載っていますから、これが普通のようです。古いと黄土色になるのか、それとも黒く塗り忘れた?

 

DSC_1830b P1010290b P1010295

 

 写真下は、カタラ山で見た小さなバイモとは別種のバイモで、20cmくらいあります。このバイモの特徴は花に縦縞が入ったような模様です。花の上に3本、髪の毛のように葉が立っています。実際は、花が下を向いてしまったために、花の下にあった3枚の葉が立っているように見えているだけです。

 

DSC_1819 DSC_1798 DSC_1807b

写真上下 Fritillaria graeca

 

 外側の特徴的な模様を見ると、内側がどうなっているのか見たくなります。花は真下を向いているし、奥行きがあるのでピントを合わせるも難しく、皆さん苦労しています。内側で目につくのが、花弁の根本にある黒い点です(写真下)

 

P1010264b P1010279b

 

 そういう目で外から見ると、写真下のように花弁の付け根の所に黒い点が見えます。しかも、少し盛り上がっているように見えます。個数や位置的にも蜜腺ではないかと思います。

 

DSC_1781b DSC_1815b

 

 写真下左の外から見える縦の筋は、一枚の花弁の周囲に色が付いていて、花弁同士が重なることでできているのがわかります。ただ、写真下左のように明瞭なのは少なく、大半は写真上のようにぼんやりとした模様です。

 

P1010284b P1010282

 

 花の中をのぞくと、写真下左ではシベが完全には開いておらず、バナナを2本合わせたようなオシベが6本あって、真ん中にあるメシベは取り囲まれて、端しか見えません。写真下右ではシベが開いており、メシベが三本指を広げたように突き出て、周囲にはオシベも開いたように曲がり、ここからは5本しか見えません。

 

P1010262b-1 P1010298b-1

 

 山を少し登ると、もう一種類のバイモがありました(写真下)。こちらは、もっと背が高い「やせ型」で花の紫も濃い。この後、このバイモの大群落を見ることになります。

 

DSC_1864-1 DSC_1851

写真上 Fritillaria montana

DSC_1816 DSC_1880

 

バイモのお花畑

 湖のそばの牧場で花を探そうとすると、侵入者に対して番犬が激しく吠えます(写真下右)。それも一匹だけで、他の犬は吠えません。「アイツが仕事しているから、オレらは休憩」らしい。

 

DSC_1895 DSC_1901

 

 犬の仕事を増やしては悪いので、空もようやく晴れてきたし、家畜のいない道の反対側に行きましょう(写真下)

 

DSC_1899 DSC_1916

 

 こちらは一面のお花畑で、皆さん、夢中になって写真を撮っています(写真下)

 

DSC_1945 DSC_1941

 

 ここのお花畑は群落している花の違いで、白、黄色、紫のお花畑があり、なかなか素晴らしい。白い花は日本でもお馴染みのヒナギクです(写真下)。子供の頃は周囲にいくらでもあったのに、最近は見かけません。花はどこに行った?

 

P1010317d

写真上 Bellis perennis

DSC_1948 DSC_1908

 

 黄色のお花畑はキンポウゲで、朝、クリスマスローズを見た丘の西側にも一面に生えていました(写真下)

 

P1010320d

写真上 Ranunculus sprunerianus

DSC_1953 P1010323b

 

 紫の花は、同じくクリスマスローズを見た丘にも群落してしいたムスカリです。

 

P1010312d

写真上下 Muscari neglectum

DSC_1983 P1010310

 

 そして、すごいのが四つ目の群落で、バイモのお花畑です(写真下)。花の色が地味なので目立たないが、あたり一面に生えています。

 

DSC_1985 DSC_1993

 

 これまでバイモの数が多い所はあっても、ここのようにお花畑は見たことがありません。バイモもお花畑を作るのだと知って驚きです。

 

P1010327

写真上下 Fritillaria montana

 

 写真上下の樹木が倒れているあたりに密集して、キンポウゲなど他の花も適度に咲いていて、私のお気に入りの場所です。写真上下の3枚は同じ場所の同じバイモです。

 

P1010332-1 DSC_1978-1

 

 南欧と東欧に分布し、ギリシャではこのあたりを含めた北部にしか生えていません。このバイモは写真下左のような縦縞ではなく、右のような全体に茶色の混ざった紫が一般的です。

 

P1010335 DSC_1949b

 

 たった1本、黄色いチューリップをお客さんが見つけました。残念ながら、開いていない(写真下)。後日、花の咲いているのを見ました。

 

DSC_2002b

 

 犬に吠えられて、バイモのお花畑も見て、メツォヴォに戻ります(18:07)

 

地元チーズのメツォヴォーネ

 7時に、昨日と同じように街の中心部に行き、夕飯です(写真下)

 

DSC_2036-1 DSC_2013-1

 

 食事の前に広場に面した店に入ってみましょう(写真下)

 

DSC_2014 DSC_2015

 

 食品から土産物まで、なんでもありの店です(写真下)

 

DSC_2024 DSC_2017

 

 店主のオバサンがいろいろと勧めてくれて、私たちは食事前ですから、どれもうまそうに見える(写真下)

 

DSC_2020b DSC_2022

 

 私は写真下のスモークチーズと蜂蜜を買いました。二つ合わせて2 3 2 9(13.70ユーロ)で、カードで買ってしまったので、個々の値段がわかりません。ただ、この二つでこの値段は安い。

 

P1030409 P1030403-1

 

 メツォヴォのチーズは有名だとネット上の旅行記に書いてありました。旅行の前半で、冷蔵の必要なチーズを買うのは不安だが、今は気温がそれほど高くなく、スモークチーズならホテルの冷蔵庫に入れれば、なんとかもつだろう。一か八かで、帰国後、恐る恐る食べてみましたが、うまいだけでした。

 このスモークチーズはメツォヴォーネ(Metsovone)というメツォヴォを代表する二つのチーズの一つだと、食べた後に知りました・・・もっと味わって食えば良かった。

 

DSC_2018 DSC_2019

 

メツォヴォの物語

 この店で目を引いたのが、壁に飾られた写真です(写真下左)。写真下左では、男性は写真下右の人形と同じような格好をしています。Wikipediaの解説では、メツォヴォの社会は裕福な層、中流層、羊飼いの層と3つに分かれていたそうですから、これは羊飼いの正装でしょう。

 

DSC_2030b DSC_2029b

 

 ホテルのロビーにあった『Μέτσοβο(メツォヴォ)(著者Γιάννης Γιαννέλος)という写真集の中にも女性たちの正装と思われる写真がありました(写真下)。写真上左の女性と、写真下左の右端の女性は、同一人物に見えます。写真下左の、右から1番目、3番目、4番目の女性が着ている服の模様がほぼ同じで、それは写真上の女性とも同じです。

 

DSC_2010-1bc DSC_2188

 

 写真下の男性たちの大半は羊飼いの格好です。二枚の写真には同一人物が写っていて、1953とありますから、二枚は1953年の同じ日に撮影されたのでしょう。ただ、写真下左の二人の女性たちの服装は、写真上左とはかなり違います。

 

DSC_2031b DSC_2033b

 

 写真下の二人の女性は、白っぽいスカートとチョッキを着ていて、これまでの写真の女性たちの服装と違うだけでなく、二人とも杖を持っています。

 

DSC_2032b-1

 

66年前のメツォヴォ

 ここから先の白黒写真は、ネットで「LIFE」のLife Photo Collectionの中にある写真で、James Burke1959年、つまり今から66年も前に撮ったメツォヴォの風景と人々の様子です。

 

mvsnow05

 

mvsnow06

 

 一部の写真には撮影が11月とありますから、大半がこの時期に撮られたらしく、写真上下も、晩秋の冷え込んだ朝に陽が射して、朝靄が薄くなっていく光景です。

 

Meview223 Meview224

 

 年寄りは酒場で結婚式の写真を見せて「オレの若い頃はモテタから、村一番の美人と結婚した」などという自慢話が聞こえてきそうな、六十年以上も前の写真です(写真下)

 

MVold12 MVold13

 

 写真下は広場で祭をしているらしく、男性たちが背広姿で踊っています。

 

park017 park024b

 

 写真上の広場は、私たちが夕飯に行くレストランと道路をはさんで反対側にあります(写真下)

 

 

 この広場であることを確認するのに使えたのが、写真下左の階段です。写真下右の街灯の奥に見えるのがストリートビューから見つけた今の階段で、丸みをおびた傾斜など雰囲気そのままでです。

 

park047 mstvi001bb

 

 この広場だとわかるのが、写真下左の左下の階段から右奥にのびる歩道で、これも現在の様子がストリートビューで見られます(写真下右)。写真下右の奥が階段です。今の広場はちょっとした公園にすぎず、樹木などが生い茂り、66年前よりもかなり狭く感じます。

 

park027 pav002b

 

 祭に集まった若い男性たちは背広で(写真下左)、羊飼い風の伝統衣装はほとんどが年寄ばかりで(写真下右)1959年当時、すでに男性は伝統衣装から背広に変わりつつあったようです。

 

park057b park066

 

 写真下左の女性たちの衣装は、土産物屋にあった写真や、『Μέτσοβο(メツォヴォ)』の中の女性たちの服装と似ています(写真下右)。スカートの裾の模様が、写真下の左と右でそれぞれに統一されています。また写真下左の裾の模様は、写真下右の左端の女性の模様と同じように見えますから、一族とか、出身地域などで決まった模様があるのかもしれません。

 

park056b DSC_2010-1bc

 

 写真下は祭の夜らしく、子供も正装で、男性は背広にネクタイで踊っていて、皆さん楽しそう。娯楽の少なかった時代に、祭は大きな楽しみだったのは私も田舎で育ったのでわかります。

 

dance447

 

今日は静かなレストラン

 広場とは道をはさんで反対側にレストランがあります(写真下左)。レストランの前には椅子とテーブルが並べられて、レストランの敷地なのか、公園の一部なのか、はっきりしません(写真下右)。たぶんギリシャでは明瞭な区別をしないのでしょう。

 

DSC_2042-1 DSC_2046

 

 レストランGalaxiasはツタなど蔓性の植物で覆われて、良い雰囲気です(写真下、19:29)

 

DSC_2045 DSC_2048

 

 部屋の中も落ち着いた雰囲気で、おまけに他の客がいない(写真下)。メツォヴォは冬のスキーの時期が観光シーズンで、今は観光客が少ない穴場の時期です。

 

DSC_2062b-1 DSC_2051b-1

 

 暖炉に火がはいり、壁には昔使われた地元の民芸品や民族衣装が飾られています(写真下)

 

DSC_2054b-1 DSC_2055-1

 

 昨日の騒音レストランと違い、皆さんと会話を楽しみながら、落ち着いて食べられます。

 

DSC_2075-1 DSC_2072-1b

 

 お客さんが注文した写真下のワインは、私たちが泊まっているホテルのワイナリーで造ったKatogi Averoffという赤ワインです。やはりこの街では有名なのだ。

 

DSC_2070-1 wine02-1

 

 食事を終えて外に出ると、すっかり暗くなって、灯りのともったレストランもなかなか素敵です(写真下、20:59)

 

DSC_2079-1 DSC_2077b

 

 ホテルに戻り、荷物をまとめます。2泊だけでしたが、とても印象の良い街と心地よいホテルでした。

 

DSC_1223-1 DSC_1254-1

 

表紙 日程表 1 2 3 4 5 6 7 8 9