トルコ北西部の早春の花 3日目 2019年3月31日(日) サリフリ → ブルサ 6 時にモーニングコールがありましたが、目が覚めたのは5 時前で、つまり時差ボケです。この時期、陽が昇るのは7時少し前なので、6 時はまだ薄暗い(写真下)。 今日はサリフリからブルサに移動し、その間に花を探します。この日が400km近い最長の移動距離のため、出発は8 時なので、散歩は無しです。 七時からホテルのレストランで朝食で、食材は豊富です(写真下)。 予定どおりに、八時頃にホテルを出発しました。 風景が日本と違う一つはモスクの塔が目立つことです(写真下)。 もう一つ目につくのが、ワインの産地ですから、広大な葡萄畑です(写真下)。 ツルボランの群生 お客さんが道端にツルボランの群生を見つけてバスを停めました(8:26)。このあたりから道のあちらこちらにツルボランの群生が見られました。ランとついていても、ランの仲間ではありません。仲間にはアロエがあります。 写真上下 Asphodelus aestivus Wikpediaによれば、このツルボランはスペインやポルトガルなど西地中海の国に限定されるとありますから、トルコには生えていないことになります。しかし、姿形はそっくりで、参考にした植物図鑑“Flowers
of Turkey: a photo guide”にも掲載されていますから、Wikpediaの記述が間違っているのでしょう。 遠くには雪山が見えます(写真下)。 私たちの車が山道に入ると、東側(右側)に湖が現れました。川の流れを止めて造ったダム(Demirköprü Dam)で、長さは10km以上もあります。 道端の花 道端に1mくらいの黄色い花を見つけて停車(9:00)。アブラナ科のIsatisの仲間らしいのですが、名前がわかりません。このあたりは火山の石が積み重なっています。 写真下は、見るからにバラ科の樹木で、薄ピンクでアーモンドの花に似ています。 写真下も昨日見かけたが、名前のわからない花です。 ここにも昨日もあったサンシキスミレがあります。 写真上 Viola heldreichiana 写真下は昨日のフマリアに比べて、赤味が強い。 写真上 Fumaria petteri 写真下は白いカタバミの仲間で、ロシア、ネパール、中国など広く分布しているのは、いかにも生命力の強いカタバミらしい。 写真上 Saxifraga sibirica だいぶん走ったのに、まだダムが続いています(写真下)。 ダムを通過して、山を下りて行くと、葡萄やオリーブの畑が広がってきました(写真下)。 建物の外見に統一性があり、ほとんどの壁が白系統で、屋根は茶色の瓦屋根です(写真下)。だから、集落全体の風景がきれいです。街中に電柱や電線もあるが、日本ほどひどくない。 イチゴの絵があるから、産地なのでしょうか(写真下左)。 街外れのガソリンスタンドでトイレ休憩(9:51)。トイレだけ使うのでは悪いので、私は500mLの水を買うと、1トルコリラ(22円)というから安い。 ここでも犬クンたちはのんびりしている(写真下)。紐や鎖でつながれていない犬を見ると、ホッします。 切り立った崖に生えている固有種の花です(写真下)。見事なのだが、撮影は難しい。 写真上下 Alyssum floribundum それにしても、彼らは良い棲み処を見つけました。邪魔者がいないので、自由に繁茂できる。 花はごらんのようにナノハナで、実際、アブラナ科です(写真下)。日本ではミヤマナズナというよりも、アリッサムと言ったほうが通じるそうですが、私は知りません。「崖っぷちの菜の花」なんて名前はどうでしょうか(笑)。 頭上の黄色い花にだけ目が言ってしまいますが、他にも、同じナノハナの仲間で紫の花も咲いています(写真下)。 写真上下 Arabis verna 同じ黄色い花だが、こちらはとても小さい。 道路の周囲には畑と農村が広がっています(写真下)。山は、私の住んでいる東北地方の山に比べるとなだらかで、その斜面の多くは畑になっています。登るのも開墾するのも楽でしょう。 日本の村の神社のように、集落にはたいていモスクがあります(写真下)。 丘の上に広がるデミルジ(Demirci)という大きな街が見えてきました(写真下)。 街のスーパーで昼食の食料などの買い出しです(10:57)。写真下右で、ケレムさんとガードナーさんが見ているのはパンです。パンを売る店は多く、こんなふうにパンが無造作に積み上げてあります。 私たちが歩道で話をしていると、二階の窓から若い二人がこちらを見ている。手を振りました(写真下左)。 街をすぎると、再びなだらかな山野が広がります(写真下)。 「黄色いクロッカス」という黄色いクロッカス クロッカスを探しに松林の奥に入っていきます(11:27)。トルコでは良くみられる真っ直ぐで立派な松です(写真下)。 写真下はフキタンポポと呼ばれ、日本にも明治時代に帰化しているそうですが、私は初めて見ました。フキノトウのように生えるタンポポで、わかりやすい名前の付け方です。 写真上 Tussilago farfara 林の奥の陽だまりの中にクロッカスがありました(写真下)。陽がささないと開花しないようで、陽だまりの所だけ咲いています。 写真上下 Crocus flavus このクロッカスの英語名は「黄色いクロッカス(yellow crocus)」といい、そのまんまというか、いまひとつ工夫のない名前です。ギリシャ、ブルガリア、ルーマニア、そしてここトルコ北西部に分布します。 さらにスノードロップを探しに山道を進みます。最初はしっかりした山道なのに(写真下左)、スノードロップが生えている場所には道などありません(写真下右)。 木立の斜面にスノードロップがあちらこちらに咲いています(写真下)。生えている範囲は広くはありません。このスノードロップの分布は、トルコ、ギリシャ北東部、エーゲ海東部、ブルガリア、ウクライナ南部などの意外に狭い範囲です。 写真上下 Galanthus glacilis 私たちが撮り終えて引き返す途中で、助手のケレムさんが遅れて登ってきました。すれ違う時、私は引き返して案内しようかと思いました。スノードロップの生えている場所はそれほど分かりやすくなかったからです。しかし、彼は若いし、登山で鍛えた健脚で、足の遅い私が追いかけて案内しても、かえって足手まといだろうと思い、引き返しませんでした。これが失敗で、彼は見つけられませんでした。 こういう花の生えている場所は、実際には、ケレムさんが探せなかったように、大まかに教えられても案外難しい。こういう花のツアーは現地の植物ガイドこそが頼みの綱です。その意味ではガードナーさんはとても優秀です。 スノードロップの周囲にはムスカリも生えていました(写真下)。葉が一枚だけ立っているという特徴ある姿をしています。 写真上 Muscari latifolia 写真上と下では葉の形だけでなく、花の付き方も違い、見るからに別種です。 写真上 Muscari neglectum 道に白い花束が落ちたような花が咲いています(写真下)。 写真上 Ornithogalum montanum Pacific Bulb Societyの説明では、Ornithogalumの仲間は地中海で広く分布していて、ここにあるのは、乾燥した石の多い草原に生える、とあります。たしかに、その説明のまんまの所に生えています。 山の中での昼食 道端の水飲み場で昼食です(13:10、写真下)。 昼食は先ほどのスーパーで買った物で、私はこういう素材のままがわりと好きです。春の陽ざしのもと、きれいな花を見た後、皆さんとの食事は楽しい。 山を下ると、周囲は麦畑など畑が連なる、なだらかな丘陵地帯が続きます(写真下)。 放牧では牛よりもヒツジが目につきます(写真下)。 このあたりは農家が点在という言葉がそのままで、まとまった集落よりも、距離をおいて建っていることが多い(写真下)。 離れて建っていても、やはり建物の壁や屋根の色に統一性があるので、風景を壊していません。日本はこういう点、滅茶苦茶、バラバラで、景観も何もあったものではない。 ピカディチュ(ピカチューではない)という街でガソリンを詰めました(写真下)。トイレ休憩で寄ったガソリンスタンドでは給油せず、また、すぐ手前にもガソリンスタンドはあったのに、わざわざ幹線道路を逆行して、ここを選んでいます。ドライバーの知り合いでもいるのだろうかと見ていたが、そうでもなさそうです。 黄色いアヤメ 黄色いアヤメがあるという丘に来ました(15:52)。 最初に目についたのが、すでにお馴染みのアネモネです(写真下)。ただ、ここのアネモネは白や薄紫など、色が薄い花ばかりです。 写真上 Anemone coronaria 写真下は英語名がBlue Globe Daisyで、外見そのまんまの名前です。トルコやバルカン半島に分布し、園芸種として栽培されているようです。 写真上 Globularia trichosantha 写真下のHyacinthellaの仲間は分布はヨーロッパやアジアで、しかも主にトルコです。その中でも写真下は、このあたりなど、西トルコに分布しています。 写真上 Hyacinthella lineata 目的の黄色いアヤメを見つけました(写真下)。日本のアヤメと違い、せいぜい20cmくらいの小さなアヤメです。ギリシャなどバルカン半島やトルコに分布します。ここのように陽当たりが良く、水はけのよい、石の多い斜面に生えています。 写真上下 Iris attica (Iris pumila ssp.) 黄色といっても、ほとんどのアヤメは花弁の先が紫色で(写真下左)、全体が黄色いのはむしろ少数です(写真下右)。また、ネット上でのこのアヤメの写真では、全体が紫のほうが多いようです。しかし、ここには紫だけの花はありません。 見た目で特徴的なのは、外に開いた花弁(外花被片)の上に毛が生えていることです(写真下)。普通のアヤメはここが虫たちに蜜のありかを示す「蜜標」というマークになっています。虫たちは、メシベかと間違えて集まるということだろうか。 黄色いランが群生しています(写真下)。こういうランはポツンと一株だけ咲いているというイメージなので、群生しているのにはちょっと驚きです。 写真上下 Ophrys lutea 英語名がyellow bee-orchidで、花の形がハチに似ているからか、それとも、受粉がAndrenaというミツバチのオスによって受粉されるからなのか、わかりません。ヨーロッパ、北アフリカから中東にかけて分布します。 中心部分の茶色い模様は、多くが写真下左のようだが、写真下右のように薄いものもあります。 写真下は花弁が青く反射するランで、英語名のmirror
orchidの由来です。地中海全体に分布します。前にポルトガルに行った時、南部のアルガルヴェ(Algarve)で見かけました。 写真上下 Ophrys speculum 写真下の上段はやや青が強く、下段は紫色です。周囲の毛は何なのでしょうか。青い部分はすべるから、虫たちの足場とか? 写真下は上とは別なランで、一本しか気がつきませんでした。英語名がearly spider-orchidなのは花の形がクモと似ているということらしいが、earlyがどうして付いているのでしょう?early spiderというクモがいるのかと検索しても、クモよりもこのランが出てきます。ヨーロッパから中東にかけて分布します。 写真上 Ophrys sphegodes mammosa 写真下はシソの仲間でヨーロッパ、地中海から北アフリカでも見られます。薬用のハーブとして用いられ、種は土の中で50年も生きているというから、すごい。 写真上 Ajuga chamaepitys 写真下はムラサキの仲間です。Wikipediaでは、ヨーロッパ、中東、ロシアから日本など温帯に広く分布しているという。ただ、この学名で調べても、日本にあるという日本語での記事が見当たりません。 写真上 Lithospermum arvense 写真下もムラサキの仲間だが、名前がわかりません。とても小さくて水色で、かわいい。 日本は先進国? 花の観察を終えて、ブルサへの道を急ぎます。道路は良く整備されていて、郊外では渋滞はありません。日本はガソリンから二重に税金を取りながら、道路は狭く、走りにくく、高速道路の料金は異様な高さです。 岡の上に風車が見えます(写真下)。トルコは日本と同じで、あまりエネルギー資源には恵まれていません。それてもヨーロッパでは5本指に入るほど風力発電量の多い国です。原子力発電所は建設中で、まだありません。日本もトルコに原発を売りこんでいたが、2018年に断念したのは朗報です。 日本が海外に売り込んでいるのは、時代錯誤も甚だしいことに、原子力発電所と石炭火力発電所です。そのどちらも世界的には減らそうとしている時に、これを売り込みに行くという商売の感覚が理解できない。お金をもうけたいなら、どうしてこんな時代遅れな物を売りにいくのだろう? ブルサより30kmほど手前のKaracaobaという街のガソリンスタンドでトイレ休憩です。毎度書きますが、ガソリンスタンドとコンビニが一緒で、しかもトイレは自由に使えて、とても便利なのに日本では珍しい。 道路、風力発電、ガソリンスタンドと、たった三つを日本と比較しただけでも、日本はとても遅れた国だとわかります。優れた物をどんどん取り入れるモノマネが得意だという日本人はどこに行ってしまったのか。 ブルサ(Bursa)の街に入ってきました(18:33)。人口は230万人という大都市で、南にはウルダー(Uludağ, 2,443m)という山があり、明日以降、私たちも出かける予定です。 私たちのホテルは写真下の山の斜面に広がっている街の中にあります。しかし、幹線道路が単純な十字路ではなく、ロータリーや立体交差なので、見えているのに、なかなか山の方に進めない。 ケルバンサライのホテル ブルサのケルバンサライ・タルマル・ホテル(Kervansaray
Thermal Hotel)に到着(18:59)。ケルバンサライとはキャラバン・サライ、つまり昔のシルクロードの隊商(キャラバン)が利用したホテルです。昨年、イランでキャラバン・サライに泊まって、いたく感激したので、今回も大いに期待していました。ただ、ホテルの外見は普通のホテルです。 この同じ日のネットでの価格を検索すると、5,851~6,915円で、客からの評価は10点満点で6.0~6.1とあります。ホールの真ん中にあるテーブルにはメダルやトロフィーが置いてあります。おそらく、このホテルへの評価なのでしょう。しかし、私のこのホテルへの評価まったく別で、それは後で述べます。 八時からホテルのレストランで夕食です(写真下)。 食後、お願いしていたガードナーさんの本をサイン入りで受けとりました(写真下)。日本にいる時、彼のホームページで自著を紹介していたので、旅行会社を通じてサイン入りの本をお願いしました。彼は写真が上手で、この本の花はどれもがきれいです。 写真は見事なのだが、本は大きくて重い。ガードナーさんから2kgあると聞きましたが、帰国後測ってみとる2.9kgありました(笑)。 写真上右“Flora
of the Silk Road”,
Gardner, C., Gardner, B., Bloomsbury Publishers, 2019. 髑髏マークの五つ星!? 写真下が私の部屋です。最初の部屋はいくら試しても電子キーでは開きませんでした。昨夜のホテルでも他のお客さんで同様のことがあり、ドア側の電池が切れていたそうです。私は電池ではなく、部屋そのものを交換することになりました。 小さなベランダがついていて、椅子とテーブルもあります(写真下左)。目の前には水の入っていないプールが見えます(写真下右)。 シャンプーや石鹸もそろっており、バスタブがあるのがありがたい(写真下)。 ここまでなら、このホテルへの五段階評価は余裕で4.0で合格だったでしょう。ところが、大問題がありました。 非常階段が使えない。 写真下が部屋の配置図で、私の部屋は真ん中の赤丸(●)のついている432号室です。火事の時には、朱線で示されたように左右のどちらかの非常口に行きます。左下の非常口は隣接する建物に通じているので問題はありませんでした。問題は右下です。私たちのグループのお客さんの大半が右下の非常階段に近い方に宿泊しています。 写真上の右下の非常口のドアを開けると、目の前に現れたのは写真下左です。少々わかりにくいが、見えているのは、部屋の掃除道具やシーツです。もちろん、これらの道具が邪魔して中には入れません。しかし、邪魔しているのは掃除道具だけはなく、その奥の階段が写真下右で、階段と踊り場に何か置いてあるのが見えます。これらはベッドのマットレスです。写真下左の右半分が壁のように見えているのもマットレスの底の部分です。非常階段を使い古しのマットレスの倉庫代わりにしているのです。このマットレスの置いてある所は階下への階段ですから、これでは非常時には逃げられません。 写真上 三階の非常階段の様子 私たちの部屋は建物の三階なので、他のフロアも行ってみました。階段から登れませんから、エレベータで上がりました。四階の非常階段が写真下左で、こちらは階段そのものにしっかりとマットレスが積み重ねてありますから、上に行くことはできず、三階に降りようにも、右側にマットレスが立てかけてありますから、無理です。つまり、火災時はしっかりと逃げられない。 写真上 四階の非常階段の様子 二階の非常階段が写真下です。上からの階段にはマットレスが一つあり(写真下左)、一階に降りるにはドアを開けなければならないのに、そのドアの前にマットレスが立てかけてあります(写真下右)。火事でパニック状態で暗い中を逃げようとしていたら、マットレスの後ろにドアがあることに気が付かないでしょう。逃げ道を示す緑色のシールだけが空しく貼られています。 写真上 二階の非常階段の様子 たぶんこのシールは後ろのドアを開けて、階段を降りろという意味なのでしょう。もちろん、マットレスがあって進めません。皮肉を込めて言うなら、死神の方向を示しているではあるまいか。 火事になってパニック状態でこの非常階段に逃げ込んだら、何がどうなっているのか、さっぱりわからず、ほぼ間違いなく死ぬでしょう。 他のお客さんたちの部屋はすべてこの右下の非常階段の近くでした。私は皆さんに、この非常階段は使えないから、緊急時は反対側に逃げるように伝えました。しかし、実はそれも危険で、真ん中はホールからの吹き抜けの空間なので、もし下のレストランの厨房から火災が発生したら、ここが煙突になり、煙が充満しますから、煙の中を通り抜けるなどまず無理でしょう。消防訓練で煙の中を通過してみたことがあるが、まさに五里霧中です。一酸化炭素も発生しますから(可能性は高い)、気が付いた時には身体が動かなくなります。 このホテルへの個人評価は5.0満点中の1.0、つまりホテルとして失格です。 非常階段という客の命にかかわる所にマットレスが置いてあるのは、明らかにホテル側が知っていてやっていることで、悪質です。掃除担当者たちが道具の物置にしているのは意識の低さや指導の足りなさと言い訳ができるが、2 階から4 階までの階段をマットレスの物置にしているのですから、これを責任者が知らなかったで済む話ではありません。 五つ星を自称しているが、髑髏マークの五つ星らしい。私がホテルに1.0の最低点数を付けたのは初めてです。 |